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今こそ!名曲「この素晴らしき世界」"What a Wonderful World のメッセージ (その1)"I see trees of green, red roses too. I see them bloom for me and you."


はじめに

本稿は筆者連載コラムFor Lifelong English (TOEFL Web Magazine)にCOVID-19が猛威を振るった2020年に掲載された記事です。以前一度Noteに掲載しましたが、長いのでタイトルを変え、3回に分けて掲載し直します。

戦火の下逃げ惑う子供たちの姿は見るに堪えられません。今こそこの歌を歌いましょう!




この名曲が伝えたいものを想像する

"Louis Armstrong-What a Wonderful World"をクリックし歌詞を見てみましょう。

I see trees of green, red roses too
I see them bloom for me and you
And I think to myself what a wonderful world

I see skies of blue and clouds of white
The bright blessed day, the dark sacred night
And I think to myself what a wonderful world

The colors of the rainbow so pretty in the sky
Are also on the faces of people going by
I see friends shaking hands saying how do you do
They’re really saying I love you

I hear babies crying, I watch them grow
They’ll learn much more than I’ll never know
And I think to myself what a wonderful world
Yes I think to myself what a wonderful world

日本でも馴染みの曲です。Satchmoの愛称で親しまれたLouis Armstrong(以下Satchmo)の生涯については、“Louis Armstrong-Songs, House & Facts-Biography”に詳しく書いてあります。Satchmoの歴史の功績を語らずしてjazzは語れません。筆者も含めて彼のトランペット独奏に魅せられた人は沢山います。歴代10 Best Playersの一人であり、草分け的存在と言ってよいでしょう。(*1)“Louis Armstrong—Satchmo at his Best—Legends in Concert”を聴いてください。(*2)

筆者は2007年にjazz vocalを習い始め、1回40分レッスンを月2回というペースで多くの曲を覚えました。その中の一つが“What a Wonderful World”です。カラオケと違って歌詞を見ることはできないので覚えなければなりません。ただ闇雲に覚えても、歌詞が伝える情景が浮かんで来ないと、歌っている途中で文言がすっ飛んでしまいます。初めての曲はもちろん、この曲の様に知っている曲においても、文言をしっかり分析し、理解しなければ情景は浮かびません。でも分析してみると、どの曲も奥が深く楽しくなります。平易で分かり易いこの曲の歌詞もあれこれ調べてみると、深いメッセージが隠されています。以下、筆者の分析、解釈、感想などを脳裏に浮かんだまま述べたいと思います。

歌詞の殆どの文が一人称単数形代名詞(the first person pronoun)の“I”で始まる意味

“I see…”/“I hear…” /“I think to myself…”/“I watch…”などです。“Jazzの歌詞においてはあまり珍しいことではありませんが、特にこの曲は、夏目漱石の『我輩は猫である』や『こころ』が代表する一人称小説や多くの抒情詩のように、作者自身の内面に浮かんだものをそのまま語っているという印象を与えます。(*3)

サビ(hook)の部分の“I think to myself…”(心の中で思う)は、まさにそういう意味ですが、「我と来て遊べや親のない雀」を詠んだ小林一茶を想起させ、俳句の世界に近いものを感じさせます。

歌詞は全部で4つの節(stanza)で構成され、Stanza 1からStanza 3までは、“I see…”で始まる視覚(visual sense)の世界で、Stanza 4は“I hear…”で始まる聴覚(auditory sense)で世界です。ご存知のように、“see”と“hear”は、無意志の知覚(involuntary perception)に関する知覚動詞(verb of inert perception)です。(*4)

視覚器官の目と聴覚器官の耳は、受容(perception)器官で、視覚情報と聴覚情報を自動的に受容し、自ずと見たり、聞いたりします。従って、Stanza 1~4では、眼に映るもの、耳に響くものを、見・聞きするまま描写していることを伝えようとしています。(*5)

意志や思惑を挟まない、見て、聞いて感じたままの世界です。それに呼応するかの様に、サビ(hook)の“I think to myself…”(こころの中で思う)の“think”は、認知動詞(verb of inert cognition)で、知覚動詞と同じく受動的です。勿論、“think”には“Think it over again!”のように、他動詞以てして意志動詞としての用法もありますが、ここでは無意志動詞で、自ずと心に浮かんだままという意味です。

これら動詞の時制は単純現在時制(the simple present tense)、その意味は?


単純現在時制形は、こうした無意志で受動的な動詞、即ち、心理的状態を表す動詞(state verbs)に伴うとその状態が時間的制約を破り無限に続くことを意味します(unrestrictive present)。(*6)

この曲の歌詞が謳っている、見るもの、聞くもの、思うものは永遠に続くというニュアンスを非常に効果的に与えています。英国ロマン派詩人John Keatsが、古代ギリシャ時代の古壺に刻まれた宴のシーンを見ながら詠んだ“Ode on a Grecian Urn”という詩があります。壺に掘られた男女の宴は永遠に続くであろうと謳っています。その詩でも動詞はみな現在時制形です。この曲の歌詞に描かれた世界も同じ様に、そのまま永遠に続くであろう、と解釈しました。(*7)

Stanza 1、2、3は、森羅万象が放つ様々な色彩(colors)について触れています。Stanza 1では、緑色の木々(trees of green)と赤いバラ(red roses)など、地上の草木が放つ多彩さに視点を注ぎます。Stanza 2では、青い空(skies of blue)、白い雲(clouds of white)、そして、明るい昼間(the white blessed day)と暗い夜(the dark sacred night)を演出する天空に視点を注ぎます。多くのものが色とりどりに映えるこの世界は何と素晴らしいことか、この世界が素晴らしいのは森羅万象が明、暗、色が多様であるからと謳います。(*8)

Stanza 3では、その空には非常にカラフルで美しい虹が掛かり(the colors of the rainbow so pretty in the sky)、その下では、それらの色を顔に映しながら行き交う人々が握手をしながら、“How do you do?”“I love you.”と挨拶を交わす様子が描かれています。

Stanza 4では雰囲気が一変します。耳を聞き澄ませると、幼子たちが泣くのが聞こえます。彼らが育っていくのを見ると、自分(大人)が知る以上にずっと多くのことを学ぶだろうと結んでいます。この続きは別稿(その2)にて。(2020年5月1日記)

(*1)“World Greatest Trumpet Players of All Time”Satchmoは生涯に亘り唇の損傷(lip problems)を抱えながらトランペットの演奏を続けました。
(*2)Satchmoは世界で最初にスキャット(scat)をレコーディングしたことでも有名です。Satchmoが交友した音楽関係者には、Bing Crosby、Duke Ellington、Bessie Smith、Ella Fitzgerald、Mahalia Jacksonなどの錚々たる名が連なります。本コラム第129回で紹介したDany Kayeとも共演し、Danny Kayeとの「聖者行進」“When The Saints Go Marching In”は日本でも流行りました。彼のバンドでの演奏と一緒に聞いてください。また、Barbra Streisand主演ミュージカル“Hello, Dolly”で歌った主題曲“Hello Dolly”は1964年5月にBillboardヒットチャートでThe Beatlesを抜き第1位に輝きました。
(*3)作品中の“I”が書き手なのか作中の主人公なのかについてliteral critiqueで多く議論されてきました。
(*4)他にも“feel”“taste”“smell”などがあります。英語用語は、G. LeechのMeaning and the English Verb(1971, Longman)からです。英語学の専門書ですが、現代英語のcorpusに基づき、英語動詞(助動詞も含む)と関連する時制、法性、相などにつき分かりやすく説明しています。例文も豊富で、GRE®、GMATTM、LSAT®、MCAT®テストの準備に役立ちます。もちろん英語writingにも役立ちます。大学図書館などでチェックしてみてください。
(*5)受験勉強で学んだと思いますが、意図的に見たり、聞いたりする表現としては“look at”や“listen to”があります。ちなみに、“feel”“smell”“taste”には意図的に「触る」、「嗅ぐ」、「味見する」ことを表現する他動詞的用法があります。これら意志動詞は現在進行形と命令形を取ります。「会う」という意味の“see”もこのクラスに属します。
(*6)例えば、“I think that they are coming.”における“think”は無制限現在形(“unrestrictive present”)で、“*I am thinking that they are coming.”のように進行中の動作が有限であることを示す現在進行形にしてしまうと違和感を覚えます。(Leech)
(*7)松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」は、饗宴の騒々しさとは正反対の静寂の中の微かな水音を捉えています。動と静の違いはありますが、一瞬の光景を不滅なものにする点で共通します。この句は永遠にその水音を運び続けます。
(*8)色の識別は光の明暗に関係します。

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