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プロ野球チーム通訳に聞く (その2)・・・英語に関わる仕事をする人々


はじめに



「様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかか わって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違いま す。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人 の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、 生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいも の、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。」という趣旨で2007年に始めた筆者の連載コラムFor Liflelong Englishの「英語に関わる仕事をする人々」を紹介するシリーズです。(その1)に続き、2007年当時オリックス・バファローズで通訳をされていた武藤雄太氏のインタビューです。


スポーツマネッジメントの内容、大学4年間、毎年インターン体験


鈴木
: スポーツマネジメントとはどういう学問ですか?

武 藤:スポーツでどうやってお金を儲けるか、を研究します。僕の学部 は少し変:っていて、必修で在学中にインターンシップを3回しなくてはいけない。最初のインターンシップは1年生の時、ロンドン のサッカーチームのクリスタルパレスFCというところへ1ヵ月行 きました。2年生では、夏休みに日本に帰国して、サッカーJリー グの湘南ベルマーレでやりました。最後は4年生の1学期間をまる まる使ってやる本格的なもので、デトロイト・タイガーズのスプ リングトレーニングとシングルAのシーズンをセットにして行き ました。実はその前年の3年の講義で、デトロイト・タイガーズの スプリングトレーニングに行ったことがあったのです。

鈴 木:すごくうまくできていますね。受け入れ先はどうやって決まるんですか?

武藤:自分で探すんですが、非常に大変でした。

大学は世話してくれないんですね。シングルA(1A)ではどんなことをしたのですか?

武藤: 少ない人数で経営しているので、スタッフはシーズンチケットを 売りに行ったり、印刷物を作ったり、球場のアナウンスや音楽な んかも手がけます。球場は市の施設なんですが、メジャーリーグ のキャンプの時は市の造園局がグラウンドの整備を手伝ってくれ るのに、マイナーリーグのシーズンになるとあんまり人を貸して くれない。雨が降ってきたら、僕らが雨よけのタープを敷く。す ごく大変で、二度とやりたくないですね。

鈴木: そうでしょうね。あれは、巻いた直径が1メートルもあるから。

武藤: でもこのインターンシップを通して、自分はこれがやりたいな、と思う部分が見えてきました。

鈴木: スポーツマネジメントで身を立てようと思ったわけですね。それから?

武藤: アメリカでは大学を卒業すると、留学生にはOPTのビザが出ま す。Optional Practical Trainingといって、インターンシップとい うかたちなんですが、1年間働くことができるビザです。それを行 使するためには、受け入れ先を探さないといけないので、今度は メジャーリーグに行こうと各球団に「インターンでもいいのでや らせてください」と手紙を送りました。そうしたらヒュースト ン・アストロズから返事が来て、1シーズン働くことができまし た。

鈴木: どんな手紙を送ったんですか。

武藤: 自分の働いた実績と、どういうふうにチームに貢献できるかとい うことを書いた報告書というか企画書のようなものを提出しまし た。

鈴木: 競争率はどれくらいでしたか?

武藤: いや別に何倍っていうのはないです。タイミングなんです。タイ ミングがたまたま合ったのがアストロズだった。それともうひと つ。僕ら日本人だって、外国人を雇うのはどうかなってやっぱり思うじゃないですか。アメリカでもアジア人はちょっととか、外 国人は英語がちょっとって思う人はいっぱいいる。だけど僕の上 司はそういうことは関係ナシという考えの人でした。「ほんとに 頑張りそうだからちょっと挑戦させてみようかと思った」って後 で言われました。

鈴木
: 普通だったら英語のできるネイティブを雇うでしょうね。

武藤: そのとおりです。

鈴木: あこがれのメジャーリーグはどうでした?

武藤: 各部署が分かれていまして、グランドクルーはグランドクルー、 広報の人は広報とみんなスペシャリスト。僕はBallpark Entertainmentという部署に所属しました。ここは音楽や映像を使 ってスタジアムの演出をする部署です。最初はインターンで入っ て、終わるときはパートタイマーでした。

鈴 木: それで今年オリックスに入ったのですね。即戦力と認められたの はインターンのおかげですね。

使ううために学び、使ったから学べた英語になじむ


武藤: 大学時代、インターン先を探すために苦労しましたし、卒論に当 たるリサーチペーパーを提出するので鍛えられました。さらに

OPT先を探すときも企画書をつくって、と結果的に英語を勉強し ました。もちろんインターン先ではすべて英語だし。

鈴木: 僕は、学校で英語を勉強するのも重要なことだけど、学校で学ぶ のは学力のほんの一部だと思っています。例えば野球をする子は 野球のことで英語の勉強ができるんじゃないでしょうか。高校野球という素晴らしいコンテンツがあるんだから、英語でもウェブ サイトつくって発信すれば、海外とももっと交流できますよね。 好きなことや仕事を通して英語を習得するのがよくて、そうした 場は自分でつくれるものですよね。

武藤: 大リーグファンだから英語を勉強するっていう人、いますね。英 語を使って何かする目的がある。これはいいですよね。僕が思う に、ボール投げしてもどこまで飛ぶかはわからない。あそこまで 到達すると思っても、手前で落ちちゃうかもしれない。英語習得 の目標を立ててずっと頑張ってても、英語しゃべる前に終わっち ゃったりしたらなんのために勉強していたのかわからなくなる。 だったらできたところまでを使って、とにかくしゃべったほうが いい。それと、英語も使わないのに勉強するって、試合もしない のに練習だけするようなものでまったく意味がありません。実用 的な目的が大切だと思います。

鈴木: それ、面白いポイント!英語を使ってなにかする、それがほんと の目標なんだけど、みんな、その前の英語を勉強するということ を目標にしちゃっています。遠い目標まで届けばいいんだけど、 その前の英語を勉強するという目標達成の段階にいつまでも留まっている。あるいは脱落しちゃうってよくあります。初めから英 語を使うという場に身を置いたほうがいい。それが武藤さんにと っては、野球の世界に身を置くということでした。

武藤: スポーツに関心がありましたね。少なくとも英語の勉強のために アメリカの大学に行ったわけではなかった。

鈴木の一口コメント

武藤さんは、アメリカの大学でも関心のあるスポーツに真っ向から取り 組み、スポーツマネジメントという新分野の勉強をしました。理論を学 ぶだけではなく、インターンシップをしながら実践を積まなければなり ません。武藤さんは、イギリス、日本、アメリカのサッカーと野球のク ラブチームでインターンシップをする機会を得ました。また、卒業後、 ヒューストン・アストロズで働く機会を勝ち取りました。この仕事もイ ンターンシップも自分で交渉して得たものです。手紙を書いたり直接会 ったりして積極的に自己アッピールをしたと聞きましたが、その活動力 が英語力を向上させたと言っても過言ではありません。「英語も使わな いのに勉強するって、試合もしないのに練習だけするようなものでまっ たく意味がありません」と述べた武藤さんの顔は輝いていました。

次回(その3)もお楽しみに。


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