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TOEFLとTOEICの違い(前編):社会言語学スタイル論から


TOEFLとTOEICが測定する英語能力の違い、使う状況の違い

別稿「TOEFL iBTとプロジェクト発信型英語プログラムの発想」に関連し、本稿「TOEFL とTOEICの違い、社会言語学スタイル論から」(前編)、(後編)では、2回に分け、ETSのTOEFL iBT®テストとTOEIC®テストの違いについて述べます。

TOEFL iBT® test “measures a test taker’s ability…in a classroom… to succeed in an English-speaking academic environment.”英語圏の大学などの授業で要するアカデミック英語能力を測定します。

TOEIC® Tests “assess your speaking and writing skills in the workplace.”様々な仕事の場(workplace)で必要な英語力を測定します。

TOEFL iBT®テストは英語圏のみならず非英語圏[1]も含め英語を教育媒体語とする大学や大学院の出願時に提出を求められます。TOEIC® テストも英語圏のみならず非英語圏でも英語を使用する“workplace”で採用されています。

多くの国々において、英語はもはや外国語ではなく日常生活に欠かせない第2言語化しつつあることを物語っています。[2]日常生活で欠かせないインターネットでその現象が進行しています。TOEIC®テストが対象とする世界中のworkplaceはインターネットで繋がり、そこでの英語は多様です。一方、別稿「TOEFL iBTとプロジェクト発信型英語プログラムの発想」で述べたように、TOEFL iBT®テストが対象とする英語は同じくインターネットが繋げるアカデミアの英語です。

社会言語学スタイル論から見る違い、言語とは?、方言とは?そしてスタイルとは?


本稿では、社会言語学のスタイル論から2つのテストの違いを述べます。本コラムで何度か紹介しましたが、現在世界には約7000の言語languages)があります。それぞれの言語には複数の方言(dialects)があり、それぞれの方言には複数のスタイル(styles)があります。言語、方言、スタイルはそれぞれ個有の言語学的構造を持ち、総称して言語変種(linguistic variety/varieties)と言います。

アメリカ英語の場合には、A Map of American English によると約20の地域方言(regional dialects)があります。加えて、都市部のアフリカ系アメリカ人の間で話されるAfrican American (Vernacular) English(AAVE)のような社会方言(social dialects)があります。標準語(standard language)とは標準化(standardized)された方言のことで、アメリカ英語の場合、東部、上中西部、太平洋西南部あたりの英語を指します。

Martin Joos:5つのスタイル

 
スタイルはコミュニケーションの状況に依拠します。言語学者Martin Joosは、frozen、formal、consultative、casual、intimateの5つを挙げています。[3] 本稿では consultativeをinformalに変え、frozen、formal、informal、casual、intimateの5つのスタイルとします。家族とか極親しい人との親密な場ではintimateスタイル、友達同士のカジュアルな場ではcasualスタイル、非公式の場ではinformalスタイル、公式な場ではformalスタイル、超公式(儀式)な場ではfrozenスタイルとなります。アカデミック英語とはformal(授業討論)からfrozen(論文発表)スタイルの英語と言って良いでしょう。一般的にどの言語でも標準語は5つのスタイルを持ち、方言は親密、カジュアル、インフォーマルなスタイルが中心です。フォーマルな状況では標準語に切り替えます。社会言語学ではスタイル・シフト(style-sifting)と言います。[4]

TOEFLフローズン、フォーマル4技能 vs. TOEICフォーマル、 インフォーマル、カジュアル、親密4技能


外国語学習は標準語を学ぶことになりますが、TOEFL iBT®テストは、アカデミック英語スキルを測定するので、formalと frozenスタイルの4技能テストになるでしょう。他方、TOEIC®テストはworkplaceで使用される英語能力を測定するので、intimate(親密)からcasual、informal、formalスタイルの4技能、特に、speakingとwritingにおいては、formal英語の基準を少々逸脱しても通じるか(communicative)否かの判断基準が適用される可能性があります。英語を使う世界のworkplaceは各種仕事場からオフィスまで広範囲です。概して、casual、informalスタイルが中心で、例外的にformalスタイルの英語ということになるでしょう。相手が同僚か、顧客か、また、業務連絡か会議か、transactionsの内容で変わります。

筆者はアジア、アメリカ、ヨーロッパ様々な場所に行きましたが、どこでもそれぞれの母語が混じるピジン(pidgin)英語の花盛りです。カジュアルや親密スタイルの英語が飛び交っています。メキシコで値段交渉していた時、男性店員から“Amigo, you buy now. No mucho talking for a dollar!”と言われ、交渉を止めて買うことにしました。これもworkplace Englishです。もちろんTOEIC®テストの問題にこのような言説は出ないでしょうが、様々なworkplaceのinteractionsで必要な英語能力を測定します。

それに対してTOEFL iBT®テストは、アメリカの大学、大学院を中心に、英語を教育媒体とする大学、大学院が求めるアカデミック英語スキルの基本的能力を測定するテストであるので、上述した通り、 アカデミックなformal、frozenスタイルの英語が中心になります。TOEIC®テストのスコアでは代用できません。また、グローバル企業でもアカデミック英語能力を要することから、working visa申請時にTOEFL iBT®テストのスコアの提出を求められるでしょう。

明治維新より150年以上英語教育の歴史、WorkplaceとAcademic Setting で役立つ英語力育成待ったなし


日本は明治維新より150年以上英語教育に力を入れてきました。最近では小学校から大学に至るまで主要科目として10年以上も学習しているのですから、最低workplaceでの英語力が付かなければなりません。そして、高校や大学受験の主要必修科目ということであり、アカデミック英語の基礎を身に付けることが期待されます。(後編)では筆者が開発、実践したプロジェクト発信型英語プログラムProject~based English(PEP) がその目標に向かい具体的にどのように授業を展開したか、どのような効果があったか具体的に提示します。

[1]Open Up to France with the TOEFL iBT® Testを見ると、フランスでも多くの大学、大学院が英語によるプログラムを出しており、TOEFL iBTテストのスコアの提出を求めています。

[2] 第2言語(second language)はofficial languageではありません。後者は国や地方自治体などに制度化された言語ですが、前者は社会的趨勢によるものです。ちなみに、英語は英国でも米国でもofficial languageとして制定されていません。実質的にはそのようなステタスを持つのでthe de facto official languageと言われています。

[3] “The Isolation of Styles” In Readings in the Sociology of Language. J. A. Fishman ed. Mouton,1968. pp185-191.

[4] バイリンガル(bilingual speaker)は2つの言語を併用できる人のことです。2つの方言を併用できる人はbidialectal speakersと言います。また、bilingual speakerとbidialectal speakerが言語や方言を切り替えることをcode-switchingと言い、それに対応してスタイルを切り替えることをstyle-shiftingと言います。


上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。


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