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NHK エデュケーショナル「えいごであそぼ」のプロデューサー吉田秀樹さんに聞く(その2-1)...NHK「えいごであそぼ」の現場を見る!


はじめに

各界で活躍されている「英語にかかわる仕事をする人々」と題し、2009年9月に掲載した「NHK エデュケーショナル「えいごであそぼ」のプロデューサー吉田秀樹さんに聞く...NHK「えいごであそぼ」の現場を見る!」(その1-1)(その1-2)に続き(その2-1)をお届けします。



番組制作上での苦労

鈴木:番組を作るうえで苦労するところはどんなところですか。

吉田:やはり英語圏の人間でない我々が作るということが一番苦労するところで す。もちろんネイティブの方にも入っていただいているのですが、思わぬ ところで日本語と英語の違い、文化の違いが出てきます。例えば物の区分 けの仕方ですが、テーマを“CAR”にした場合、トラックやバスは“CAR”で はないと指摘されました。我々は“CAR”というとタイヤの付いたものなら 何でもと思っていましたが、英語の“CAR”は日本語の車とイコールではな いと。日本語の感覚とはちょっと違いました。映像などを作った後にこう いったことがわかると大変なので、ここで映すものは、こういうものであ るということを、脚本作成時や撮影の際にしっかり確認しています。そう しておかないと、まさかというようなことが結構あるんです。

鈴木:確かにそうですね。例えば他には?

吉田:苦労という点では、“OPEN/CLOSE”のキーワードの際には、キーワード をぼやかさないためにも“Closed”といった活用形にはしたくないという こだわりがあるため、ドアが閉まるまでは“CLOSE”だけど、閉まった状 態になると“Closed”になってしまうから、映像で表現するのは動作とし てだけにしようとか、では閉めたといってもどれくらいまで が“CLOSE”なのかと検討します。ネイティブの方も、こんなに深く考え たことはないと言われることがあります。同じように、単数・複数につい ても日本語の感覚とはやはり違います。就学前の子どもたちにわかりやす くするためにも、多くの場合、単数形のみを扱うようにしています。番組 中に聞いたことがある言葉をとにかく拾って欲しいので、活用していない 方が耳に残るし記憶として定着しやすいのではないかと思うのです。

鈴木:実は、第一言語習得という観点から言うと、ネイティブの子どもでさえも 複数の習得は後の方になるんですね。要するに複数形の概念を理解するの はネイティブにとっても複雑なんですね。

吉田:それと効果音ですが、日本語だと風が吹いているときは「ヒュー」だった り、そういった決まりのような音がありますが、英語にはあまり無いとい うことにも気付きました。物語の中でキャッチボールをする時に、「ビュ ーン」とか「それっ」、「とりゃー」というような表現の方法が無いよう なのです。動物の鳴き声も、例えば象を真似してくださいと言ったら、日 本語だったら「パォーン」と表現すると思うのですが、それをネイティブ の人たちは本当に一生懸命形態模写をするわけです。 決まった表現が無いんですね。 日本人は象だと言わなくても、「パォーン」と聞くと、象かなと連想でき るんですけれど。こんな風に、日本語を使い慣れている我々からすると、 英語は表 現が限られるように感じています。


「えいごであそぼ」(NHK Educational CD教材カバーより鈴木英語監修)

英語教育の入り口として

鈴木:私は今、幼稚園からも相談を受けているのですが、2011年には小学校英 語が必修化するということで、幼稚園の英語教育というのも非常に注目さ れています。「えいごであそぼ」は、そういった流れにも一役買っている のではないでしょうか。[*1]

吉田:そうですね。この番組の最大の強みは、月曜日から金曜日まで、一定の時 間を英語で放送しているテレビ番組であるということだと思います。子ど もたちが視聴しやすい時間に英語の番組を放送する。それによって自然に 英語に触れてもらえる機会を作りたいのです。

鈴木:この時間帯は、この年代の子どもたちが一連の日本語の幼児番組を見てい て、そのまま英語の番組にスーッと入り、終わるとまた日本語の番組にス ーッと戻るように工夫されている。子どもたちは日本語とか英語とかあま り意識せず一連の番組として見ているわけですね。朝起きて幼稚園に行くまでの時間帯と帰ってきてから夕食までの時間帯に一連の幼児番組があ り、その一部が英語になっているわけですよね。授業というのではなく、 こうした遊び感覚の作りがこの年代の子どもたちに合っているのだと思い ます。日本語で歌ったり、体を動かして遊んだりする流れの一部に英語も あるということですよね。子どもたちは色んなことを見たり聞いたりして 吸収したものを体を動かして表現してみたくなる時期ですからね。

吉田:体を動かしたり、物を作ったり、歌を歌ったり、楽器を演奏してみたり、 そういったきっかけが子どもにはたくさんあって、その中から自分の好き なものを選んでくれればと思っています。

鈴木:この時期に日本語を禁止して英語づけにして教え込むという塾などに幼児 を入れるという方法がありますが、母語を無視する不自然な環境を強いる ことになりますから、幼時期の人格形成には少々きつい経験になるのでは ないかなと危惧します。日本語を含めて色んなものをまだ習得できてない わけだから、バランスをとりながらやっていく必要があるでしょう。だか ら現在のこの子ども番組の流れは子どもたちにとって非常にいいと思いま す。

吉田:子ども番組は、子どもたちに楽しいと思ってもらえるように作っていま す。「えいごであそぼ」も英語教育というよりは、英語を楽しんでもらえ たら成功かなと思っています。

鈴木:その「楽しませる」というのが、幼児教育の原点だと私は思います。遊び のなかで色んなことを覚えていきますものね。



Good Job!エリックさんと子供たち、楽しそう(吉田氏提供)[*2]

その2-2)に続く



[*1] 上述の筆者が相談を受けている幼稚園とは大垣市キートス・ガーデン幼稚園・保育園です。2009年以来英語監修として毎年5回訪問し園の英語行事の視察・参加をして今年で13年目になります。別稿「キートス・ガーデン幼稚園・保育園、英語で発信活動Lifelong Englishに向け「よーいドン」“Ready Set Go!”」(前編)(後編)・・・卒園生各種英語コンテストで大活躍で2009年に行った園長の平野宏司氏のインタビューをお届します。



[*2] エリックさんはギター片手に英語ソングを歌い子供たちと歌い語らいたちどころに和やかな雰囲気を作ります。テレビをみている子供さんたちも一緒に飛んだり跳ねたり歌います。家に帰るとお子さん2人のよきDaddy、日本語と英語の教育にとても熱心でご本人もバイリンガルです。


サポートいただけるととても嬉しいです。幼稚園児から社会人まで英語が好きになるよう相談を受けています。いただいたサポートはその為に使わせていただきます。