見出し画像

「プロジェクト発信型英語プログラム」(1ー2)...立命館大学生命科学部薬学部(在籍2008~2014)中間報告(2011)

「プロジェクト発信型英語プログラム....立命館大学生命科学部薬学部(筆者在籍2008~2014)中間報告(2011)」(1ー1)の続き(1-2)です。2011年掲載時そのままお届けします。




そもそもコミュニケーションとは?

私たちはなぜことばを習うのでしょうか。テストに合格するためではありませ ん。ことばを通してコミュニケーション活動をしたいからです。ことばとコミュ ニケーションについてはさまざまな誤解があります。ことばができるからコミュ ニケーションができるのではなく、コミュニケーションができるからことばがで きるのでもありません。ことばはコミュニケーション活動の一部であって全てで はありません。もちろん、人のコミュニケーションにおいて、ことばは無視でき ない重要な位置を占めるものであることは言うまでもありませんが、ことばを介 さなくともコミュニケーションをすることは可能です。

コミュニケーションは冒頭で説明した脳神経の仕組みそのもと言えるでしょう。 環境からさまざまな感覚情報を刺激として受容し、理解し、自分のメッセージと して情報を作り、それを他に発信します。発信されたメッセージはまた相手の環 境に感覚情報として飛び込み、メッセージが作られ、また発信されるという、い わば、無限に続くサイクルなのです。これを称して広義のコミュニケーションと 呼びますが、人だけでなく、森羅万象がコミュニケーションのサイクルに含まれ るといってよいでしょう。

よく英会話を習うとか教えるとか言いますが、会話をコミュニケーションと理解する ならば、会話とは人それぞれがそれぞれの場で行う際限の無い活動ですから、習 ったり教えたりすることはできないのです。いくら「おはよう」「こんにちは」 などの常套表現を覚えてみても会話をマスターしたとは言えません。それらの多 くはphatic communion(社交辞令的、交感的言語使用)と称されるもので、会 話する前の潤滑油的なものであって会話そのものではないからです。会話はそこ から始まる予想できない無限に続く活動なのです。

コミュニケーションは、ことばだけで完結するものではないと言いましたが、私 達が受容する感覚情報は、言語、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚(痛覚)等の情報 が混在する多種多様なもので、そこから産まれるメッセージも多種多様です。ま た、その多感覚で多様なメッセージを伝えるにはそれに対応する多感覚で多様な 伝達方法が必要です。ことばはほんの一部ですから、ことばをそれ以外の伝達方 法と的確に組み合わせた総合的伝達方法こそ創造力に富んだレトリックと言える でしょう。

コミュニケーションをこう理解してみると、一つの疑問がわきます。なぜ私たち はコミュニケーションをするのでしょうか?おそらく、自分の意図(デネットの 意識)や価値観を他に伝えたいからでしょう。また、生存するために他と価値観 や意図を共有したいからでしょう。先ほどあげたダマシオやピンカーなどの脳心 理学者は、その意図や価値が進化の過程で生じた生存のための生物学的な本能 (先天的なものと、後天的なものがある)と関連すると主張しますが、その真偽 はさておき、こうした意図や価値観を土台に受容した感覚情報を理解しメッセー ジを組み立てるものと考えられます。

コミュニケーションとはメッセージをプロジェクト(投影)すること、大小公私 のプロジェクトの連続

もし、意図や価値観がこのように働くとしたら、人は、自分の価値観を享受する ために、意図的に情報を集め、意図的にメッセージを作る筈です。私は、これを プロジェクト(to project = 捨象する、投影する)すなわち、自らの意図、価 値観をプロジェクションすること、それをメッセージとし捨象することではない かと考えました。人は一生懸命何らかのリサーチ(調査)をして情報を集め、メッ セージとして自分の意図、関心、価値観を表現します。

幼い子にとっては今日誰と遊ぶか、何をし て遊ぶかは大きなプロジェクトです。小中学生には運動であ り、ファッションであり、高校生、大学生、社会人になると、より社会性を帯び てプロジェクトの幅は広がります。私たちの人生は、個人的なものから公の性格 を持つ一連のプロジェクトで編まれたコミュニケーション活動そのものと言える かもしれません。

コミュニケーションの「場」として、立命館大学生命科学部・薬学部「プロジェ クト発信型英語プログラム」

英語の授業がコミュニケーションを目指すとしたら、この意味でのコミュニケー ションが英語で行われていなければなりません。それを反映させたものが「プロ ジェクト発信型英語プログラム」です。

私ごとで恐縮ではありますが、私にとり ましては人生の集大成とすべく、2008年に発足した立命館大学生命科学部、薬 学部「プロジェクト発信型英語プログラム」を㊇装して早3年が過ぎ4年目に入り ます。私は、もともと、1990年4月より2008年3月まで、前任校の慶應義塾大学湘南藤 沢キャンパスにて、このプログラムの前身となるプログラムを試行錯誤しながら 立ち上げました。2008年3月をもって定年退職しましたので、良かった点もある半面、及 ばずながら数々の課題も残り、目論んだ理想の形には到達できませんでした。全ての学生がもれなく恩恵を受けて初めて改革と言えるとしたら、前任校では英語は選択制で全学生半分程度に限られたことで改革とは言えず、また、学部1年生から大学院まで一貫したプグラムとは言えなかったことでlifelongモデルには寸分足りず、 今でも本当に心残りに思っています。

しかし、そうした中でも受講生は素晴らしい成果を残し、卒業生の中には、就職 して英語プロジェクトで培ったコミュニケーション能力を活かしている人たちが 多くいます。また、志を共にしてくれた同僚教員には敬意を表します。前任校で の試行錯誤は、拙著『英語教育グランドデザイン:慶應義塾大学湘南藤沢キャン パスの挑戦と展望』(2003年 慶應義塾大学出版会)をご参照ください。


2005年SFC英語


SFC英語プロジェクト鈴木クラス1年生によるプレゼンテーション風景(1990年代)

立命館大学生命科学部薬学部では、課題をすべて精査し、学部1、2回生の英語 から、3、4回生の専門英語、2012年に始まる大学院英語一貫の「プロジェクト 発信型英語プログラム」を提案し、大学当局、両学部の支援協力を受け、全英語 担当教員が一丸となり理想に向けてまい進しています。生命科学部(1学年約 300名)と薬学部(1学年約100名)の全学生が身近な日常生活の興味を皮切り に、学年が進むにしたがい専門分野の興味に移行しそれぞれプロジェクトを組 み、リサーチをして情報を集め世界に向けて成果を発信しています。これをプロ ジェクト・クラスと言います。また、同時に発信するために必要な英語の4スキ ルと文法・語彙・表現・発音などの能力・知識を機能的にブラッシュアップでき る、スキル・ワークショップを並行して履修させています。

立命館大学生命科学部薬学部「プロジェクト発信型英語プログラムProject Based English Program 

次回からは、成果を交えて具体的にプログラムの紹介をします。何も話せなかっ た学生が、自分の好きなことを話すようになり、リサーチをしてプレゼンテーシ ョンし、2年時にはリサーチの成果についてディベートやパネル・ディスカッシ ョンし、2000語程度のアカデミック・ペーパーを書きプレゼンテーションして います。3年時の後期には専門分野のプロジェクトを組み、ポスター・プレゼン テーションをするまでに成長し、そのうちの何人かは国際学会で発表するように なりました。本年度の新4年生は卒業制作のアブストラクトを英語で書き、ポス ター・プレゼンテーションすることになっています。全学生の出席率はほぼ99パ ーセント、各授業の授業外予習、復習時間は平均で90分、人によっては180分で す。また、TOEICテストでも100点、200点と伸びる人が続出しています。大学 院までの一貫教育で、2012年に始まる大学院では、修了時に、成績優秀者がペ ーパーを国際学会に受諾され、口頭発表できることを目指しています。



この記事が参加している募集

サポートいただけるととても嬉しいです。幼稚園児から社会人まで英語が好きになるよう相談を受けています。いただいたサポートはその為に使わせていただきます。