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インドのリアルなお弁当事情

2020年の1年間、インドのグルガオン(首都ニューデリーから車で1時間の新興都市)で働いた。インドで働く日本人のほとんどは、会社の決まりでドライバーと車が与えられる。(バスやUberは、治安の悪さから禁止)あるきっかけからそのドライバーのお弁当(正確には彼の奥さんが作る)を食べる事になる。これはインドでリアルなお弁当を食べ続けた記録。

きっかけは同僚からの優しい一言

コロナによる厳しいロックダウンがようやく終わった2020年夏のある日、仕事中にランチが食べられない事態が発生。以前営業していた飲食店が一つもやってない。食べるものがなく、水を飲んでランチタイムをごまかす私をみて、同僚が声をかけてくる。「お前ランチ無いのか?弁当分けてやるからこっち来いヨ」その時に初めて食べたお弁当がこちら。

初めて恐る恐る食べたお弁当

何人かの同僚がチャパティ(上にある丸い形のパン)と、カレー(と言うより野菜のスパイス炒め)を分けてくれた。恐る恐る食べた最初の感想は、「ぜんぜん辛くない!」どことなく家庭の味わいも感じられる優しい味わいでホッとしたのを覚えている。

お弁当生活がデフォルトに

夕方、仕事を終えて車に戻るとドライバーが「今日、昼飯はどうしたんだ?」と聞いてくる。実は、、と同僚のランチを分けてもらった話をすると、なぜか少し怒ったような口調になり、「明日からは俺が二人分作って持ってくるから」とのこと。実際、ロックダウン以降お店がまったく営業していないのと、ドライバーの作ってくるお弁当も気になったのでやや戸惑いながらもお願いすることにした。

芝生でたそがれるドライバー。お弁当だけでなく、めちゃくちゃお世話になった。

基本は、チャパティ+おかず(1種類)

日本でお弁当というとご飯+おかずが数種類(卵焼きと唐揚げが好き)のイメージがあるけれども、インド人のお弁当は基本的にめっちゃシンプル。チャパティ+おかず(1種類)。ヒンドゥー教なので肉や卵はなし。野菜のみ。野菜と味付けだけが変わる。

この日はジャガイモとピーマンのカレー

最初の頃は、自分で皿とスプーンを持参していた。ドライバーに食べ方を教えてもらい、徐々に右手だけを使い、スプーンなしで食べれるようになった。

チャパティ=白ごはん?

北インドで家庭料理の主食といえば、このチャパティ。ナンとは違って、バターを使わない。小麦と水だけ。全粒粉の小麦を水と混ぜ、こねまくって、平にして、家のフライパンで焼くらしい。ドライバーは5枚。ぼくは3枚。(一見少なく見えるが全粒粉なので噛みごたえがあり、重たい)日本のお弁当で言ったら間違いなく白ごはん的存在。最初はパサっとした食感がイマイチだったけど、油の多いおかずとの相性が抜群。特に油まみれのカレーが豆の入ったこちらのカレー。

マメ(インドではダールと呼ぶ)のカレー

野菜だけで飽きないのか?

そもそも食事に対して、飽きたという感覚は現代の日本人具ならではの感覚かもしれない。インドはどことなく昭和の雰囲気があって、どんな素朴なご飯もありがたく、美味しく、残さずに食べる。お腹いっぱい食べられることが幸せな世の中だ。ドライバー(正確には彼の奥さん)が作ってくれるカレーの種類は、ざっくり5〜6種類。なので平日5日間は毎日メニューが変わるイメージ。

イチオシのおかずは「パニールカレー」

パニールというインド風の豆腐のようなチーズをカレーに仕立てたのがこちら。パニールだけだとほのかな塩味であまり美味しくないのだが、油との相性が良い。油まみれのチーズをパンに挟んで食べる。(よく考えたら脂肪分がものすごい)しばらくお弁当生活が続くと、朝迎えに来たドライバーは、「今日はパニールだぞ」と言うようになった。よっぽど楽しみにしているのがバレバレだったのだろう。

一口サイズのパニールが油とスパイスにまみれている

たまのご馳走は骨付きチキン

ヒンドゥー教では、数ヶ月に一度程度お肉を食べて良い日があるようだ。その日はドライバーもなんとなしに楽しみにしていて、「来週の木曜日はチキンだぞ」とか言ってくる。これもご多分に漏れず油ギトギトだが、美味しい。どういう理由か正確には分からないがチキンの日だけドライバーは「外に出るな、車の中で食べろ」と言うので、ちょっとした背徳感もありつつ骨付きチキンにしゃぶりついていたのをよく覚えている。

チキンは1本。スパイスも油も野菜より強め。

弁当には、小さいけど確実な幸せが詰まっていた

村上春樹が作った造語で「小確幸」という言葉がある。村上さんは、「良い文章が書けたなあという日においしいドーナツを食べるとき」なんかに、小さくささやかだけど確かな幸せがあると言うことでこの言葉を作った。インドでのお弁当生活を思い出すとこの言葉が思い浮かぶ。毎日同じような味付けのカレー、素朴でパサパサとしたチャパティ。昼休みに安いゴザを敷いて食べるお弁当には本当にささやかだけれども確かな幸せと、家庭の温かさが詰まっていたように思う。

たまーに作ってくれるコメ+豆カレー。デザートのヨーグルト。

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