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『最高の任務』 野代 雄介

目次

最高の任務

「俺、あれ以来、炒飯食べてないんだ」
「は?」
「あれがうますぎて、五年、他の炒飯食べるのやめて待ってだんだ。密かに」
私の呆れ顔には、ちょっとした畏怖の色が指していたと思う。「本気で言ってんの?」と訊いてから母を見ると、同じ顔をして息子を見つめていた。

P105『最高の任務』

これは、大学卒業の節目を迎えた私(景子)が、特別仲の良かった叔母の死を受け入れるまでの物語だ。やや強引に卒業式に参列してくる家族とのやりとり(現在)と、叔母からの勧めで小学校の時に始めた日記(記録)、叔母との小旅行の思い出(記憶)が混在しながら物語は穏やかに進んでいく。

作家

感想

昔、練馬に住んでいた。駅からたっぷり15分は歩くアパートだったから、毎朝「どうしてこんな駅から遠い物件に決めてしまったのか」と、自分の見通しの甘さを恨みながら駅まで走っていた。いまでも美容院は練馬で通っている。そして、ときどき帰り道に当時のアパートの近くを歩きたくなることがある。(なぜか秋、冬が多い)特に何があるわけでもない。ぶらぶらと歩きながら当時の自分のこと、仕事のこと、付き合っていた彼女のことを思い出したりする。どうもうまく結びつきを説明できないけれども、この本を読み終わったとき、そのなんにもない練馬での通勤路を歩きたくなった。


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