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アメリカ経済:顕在化するリスク

FRBの調査結果を見る限り信用収縮の気配が濃厚である

銀行の融資態度は厳格化

 FRBが5月8日に発表した銀行融資担当者調査によると、アメリカの銀行の融資態度は、明らかに厳しくなっている。1~3月期における企業向けの融資に関する姿勢は、「厳しくした」という回答が、「緩めた」という回答を46%ポイント上回っている。これは、前四半期比で1.2ポイントの上昇となっている。
 この調査は、3月27日から4月7日にかけて実施されたものであるため、3月のSilicon Valley BankとSignature Bankの破綻後にはなるが、5月1日に破綻したFirst Republic Bankの影響は織り込まれていない。その意味では、さらに厳しさを増している可能性が高いと見られる。相次ぐ破綻劇を目の当たりにして、融資審査が厳しくなるのは、当然の成り行きであろう。与信管理を徹底した結果、与信額の絞り込み、金利の引き上げ等が当然起こってくる。融資自体を断るケースも増加しているものと見られる。
 企業向け融資よりもさらに厳しさを増しているのは、商業不動産向け融資の姿勢である。1~3月期の融資姿勢は、73.8ポイントに達しており、前四半期比4.6ポイント高くなった。商業用不動産市況は、資金供給の面からも逆風にさらされている。

企業側の借り入れ需要も減退している

 融資に対する姿勢が後退しているのは、銀行側だけではない。企業の借り入れ需要も急激かつ大幅に減退している可能性が指摘される。FRBの調査結果によれば、企業の借り入れ意欲が「強まった」から「弱まった」を差し引いた数値は、1~3月期において、マイナス55.6%となり、前四半期比24.3ポイントの大幅下落となっている。
 ここまで急激な借り入れ意欲が減退している背景には、経済の先行きに対する不透明感が強まっていることがある。急激な景気後退の可能性があると見ているため、積極的な投資や費用支出に踏み切れない企業側の実態が浮き彫りとなっている。もちろん、金利上昇による、借入コスト上昇の影響も大きい。あえて高いコストで資金を調達する意味・意義が認められないということであろう。企業経営者としては、当然の判断だとも言える。

信用収縮の可能性が高まる

 こうしてみると、アメリカ経済の信用収縮リスクは、かなり高まっているものと考えられる。信用収縮は、長期的な経済活動の停滞を招く要因となる。その影響は、足元の経済活動だけでなく、将来に渡って残るものと考えられる。先行投資や先行的な費用支出の減少によって、先々のビジネスチャンスが摘み取られる可能性があるからだ。
 そうなると、短期的な景気後退の要因としてだけでなく、長期的なアメリカ経済の先行きにも影響していく可能性が高い。アメリカ経済は、現時点においては、好調を維持しているように見えるが、臨界点を超えた途端に、クラッシュするリスクは、否定できない。
 その場合、経済の落ち込み度合は、通常よりも深くなる可能性もある。金融引き締めの影響が、信用収縮によって増幅されるからである。さらに、影響が長期化すれば、回復にも時間がかかり、大きなダメージとなることも想定される。

FRBの引き締め姿勢はむしろ強まる

 信用収縮の気配が濃厚となる中、FRB関係者からは、タカ派的発言が聞こえてくる。一部では、信用収縮を懸念する意見もあるが、全体としては、むしろ引き締め強化に動いているものと推察される。

出所:CME FedWatch

 CME FedWatchによれば、6月のFOMCにおいて、0.25%追加利上げの可能性が、16.6%あると見込まれている。据え置きの可能性が83.4%ということで、コンセンサスとしては、追加利上げの可能性は低いということになるが、4月の雇用統計が発表されるまでは、むしろ利下げの可能性が小さいながらもあると見込んでいたので、かなりタカ派的な姿勢に傾いていると見られる。
 これは、将来のリスクを増大させる要因として認識される。このまま、強い経済指標が出てくると、本当に追加利上げの可能性が高くなってくる。その場合、結局のところ、時間差で引き締め効果が発揮され、過剰な利上げとなることが想定される。
 過剰な利上げは、経済のクラッシュにつながりかねない点で、非常に大きな懸念材料と言える。今後もこの点に関しては、要注意だろう。株式等への投資にあたっては、引き続き、過度な楽観をせず、相応の警戒感を持って臨みたい。

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