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サムスンが日本に半導体開発拠点を新設

日本の半導体産業復活に向けて支援材料と考えられる

国内半導体関連企業との連携を期待

 サムスンは、世界第2位の半導体メーカーであり、世界的な巨大企業である。2022年の半導体部門の売上高は、表のように655億ドル(9兆円弱)に達している。
 そのサムスンが、300億円以上の資金を投じて、横浜市内に先端半導体デバイスの試作ラインを整備するという。これは、研究開発拠点という位置付のものであり、日本の半導体関連素材メーカーや半導体製造装置メーカーなどとの共同研究を推進するものと見られている。
 日本の半導体関連産業においては、素材メーカーと製造装置メーカーが世界の最先端を走っているものの、半導体メーカーそのものは、非常に苦しい状況に陥っており、世界市場における存在感は、小さなものとなっている。素材メーカーや製造装置メーカーにとっても、世界的な競争力を維持、向上させるうえで、サムスンのような最有力の半導体メーカーと連携することの意義は大きい。
 また、研究開発拠点ではあるが、試作ラインも設置することもあり、施設としての規模も大きいものと推察されるため、数百人規模の雇用も生まれると期待されている。
 今回、サムスンは、日本政府に対して、補助金受給を申請している。申請通り認められれば100億円を上回る金額になるとされているが、それを上回るメリットが想定されるため、支給する意義は高いものと考えられる。
 外国企業だからといって、国の補助金を支給しないということはない。事実、TSMCやマイクロンテクノロジーといった外国企業に対しても、同様の補助金を支給した実績はあり、問題はないものと考えられる。

背景には日韓関係の改善と地政学的リスクの高まりがある

 サムスンがここまで思い切った投資を行い、戦略的拠点を日本に設ける決断をした背景には、文在寅政権下で関係がかつてないほど悪化した日韓関係が、尹政権に移行したことで、急速に改善しつつあることも影響していると見られる。
 韓国の大統領は5年ごとに交代するため、これまでも政権交代のたびに、日韓関係も大きく揺れ動くことが多々あったが、今回は、極左の反日政権から、バランス感覚のある政権に移行したということで、大きな改善が見られつつある。
 また、世界の政治経済の枠組みが、大きく変化しつつある中、東アジアの地政学的リスクは高まっており、日韓が連携することの意義は、安全保障面でも大きい。日米韓が同盟関係を強固なものとすることは、対中国を考えても大きな意味を持つ。台湾有事も想定される中、韓国が日米との連携を強化する姿勢を明確化しつつあることは、評価されるべきことであろう。
 そうした地政学的リスクを考えると、私企業としてのサムスンは、リスク分散も意識しているのかもしれない。研究開発拠点が韓国だけでなく、日本にも設置されることで、今後、東アジアの緊張が高まった場合においても、相対的に安全性を保てるということもあるだろうと推定される。
 さらに言えば、最先端の半導体は、戦略的物資であり、そのサプライチェーンには、中国を組み入れることはできない。中国を排除する前提で、サプライチェーンの構築をしていくことになるが、研究開発拠点も含めて、バリューチェーンを日本にも置いておく意義は、サムスンにとっても高いものと考えられる。

日本の半導体関連産業復活にも貢献

 TSMCに続いて、サムスンが日本に研究開発拠点を新設するというニュースは、日本の半導体産業の復活に向けた動きにも、基本的にプラスになるものと期待される。
 前述の通り、日本の半導体メーカーは、一旦、ほぼ壊滅的な状況に陥った。1990年代初頭の世界市場を席巻していた面影は、ほとんど残っていない。1990年代前半に、日本の半導体産業には、大きな分水嶺があって、そこから下り坂を一気に降りてしまったように思える。
ちょうどその頃、サムスンは、社運を賭けた大規模投資を半導体部門で実施している。結果的にサムスンの投資は奏功し、メモリー市場における市場シェアを一気に高めたとされている。
 ただ、素材や製造装置といった関連産業においては、国際的競争力を維持しており、世界のトップレベルの企業が名を連ねている。サムスンの今回の開発拠点では、これらの企業との共同研究等も想定されており、日本の半導体産業にとっても、有意義な存在だと考えられる。
 国策として、半導体などのハイテク産業を復活させようとしている最中でもあり、今後もしっかりと連携を保って欲しいものである。場合によっては、補助金などの形で、国費を投ずることにも意義が認められる。きちんとメリットを見極めることは大事だが、外国企業だからといって、排除するのではなく、上手く連携しながら、相互にメリットを最大化していくという発想が求められよう。
 世界の政治経済の枠組みが大きく変わったことは、日本にとってもチャンスである。このチャンスを最大限に活かすためにも、きちんと国益も見極めながら、相互に利益がある形で推進して頂きたい。
 そして、今回の研究開発拠点新設を一つのきっかけとして、サムスンには日本における積極的な事業展開を期待したい。同時に、日本の半導体産業の早期復活も、強く願っている。

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