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ウクライナ戦争の行方

反転攻勢の成果次第では、アメリカの支援体制にも影響

ウクライナの反転攻勢に注目

 ロシアによるウクライナ侵略戦争は、ロシアの侵攻開始から既に1年以上を経過したが、明確な勝敗を決することなく現在に至っている。
 当初、優勢に立っていたロシアだが、ウクライナ軍は戦意も高く、その反撃能力は非常に強力であり、NATO諸国等、国際的な支援もあって、かなり押し戻された。その後は、膠着状態に陥り、一進一退が続いている。
 この状況を打破すべく、ウクライナは、近く大々的な反転攻勢に打って出るものと伝えられている。各国からの支援もあって、武器・兵器等の装備も充実し、兵員の訓練も積んで、戦力はかなり充実しているものと考えられる。
 一方、ロシアも大規模な動員をかけ、兵力を補強し、長期戦に備えているものと考えられる。前線における弾薬不足なども報じられているが、全体としては、戦力を保っている模様である。ただ、武器・兵器のみならず人的な損害も大きくなっており、ロシア側から大規模な攻勢をかける状況ではないようだ。

大規模反転攻勢の成果次第で状況が大きく動く可能性

 ウクライナ側は、今月中にも大規模な反転攻勢に打って出るものと予想されるが、その成果次第で、今後の展開は、大きく左右される可能性がある。アメリカ、EU諸国、日本などは、相応の負担をしながら、ウクライナを支援し続けてきた。
 その中で、アメリカの支援姿勢に変化が生じる可能性が指摘されている。日経新聞が5月12日付けの記事で報じているが、アメリカの政治状況が、ウクライナ支援の度合いを巡って動く可能性があるという。
 アメリカは、これまでに、ウクライナに対して、466億ドルもの支援を行ってきたという。この金額は、突出しており、支援上位10か国の中で、他の9か国の支援額を合計した金額の3倍以上に相当するものだとされる。
 ウクライナ支援の今後を見る上で、アメリカの動向は、極めて重要だと考えられる。そして、今回の反転攻勢の成果次第で、アメリカの支援体制に影響が生じる可能性が指摘されている。

共和党内の政治力学が影響する可能性

 日経によれば、共和党は、4つの派閥に分かれているとされる。図のように、保守的ナショナリスト、対外関与抑制派、国際秩序派、保守的国際派の4つになるとされている。そして、大きく内向き志向と対外関与支持の二つに分類されている。
 共和党は、伝統的に内向き志向が強いとされているが、必ずしも一枚岩ではない。トランプ前大統領は、典型的な内向き志向の政治家だが、共和党内にも対外関与を積極的に推進する政治家も少なくない。
 それぞれの派閥の微妙なバランスの中で、政策的な動きが決定されてきた。共和党は、政権与党ではないものの、下院の過半数を押さえており、その影響力は非常に大きい。バイデン政権としても、共和党の多数派が、どのような方向性を目指しているのかという点に対しては、配慮せざるを得ないものと見られる。
 これまでのアメリカのウクライナ支援に対しては、国際秩序派と保守的国際派が主導して、積極的に支持をしてきた。共和党議員の7割以上が、両派閥に属するものと見られているため、多数派はウクライナ支援支持だとも言える。
 しかしながら、今後の反転攻勢で、目立った成果を上げることができなければ、状況が変化する可能性がある。
 最新の世論調査では、ウクライナ支援の水準を妥当と考える人よりも、過剰と考える人の比率が上回っているという。国民的支持を失えば、正義がウクライナにあることは分かっていたとしても、積極的に支援を拡大、継続するという方向性を維持できるかと言われれば、難しいというのが正直なところであろう。

ウクライナ反転攻勢を巡る3つのシナリオ

 ウクライナの大規模反転攻勢に関しては、図のように3つのシナリオが想定される。一つ目は、楽観シナリオであるが、軍事専門家の見立てでは、実現困難とされる。ロシアによる併合地域を全て解放するというものであり、ウクライナにとっては、望ましい結果だが、現実的には、そこまで一方的な成果となるかといえば、難しいということであろう。
 二つ目のシナリオは、悲観シナリオである。ロシアによって占領されている南・東部の領土奪還が進まず、苦戦が続くというものである。軍事専門家によれば、一定程度の奪還は進むだろうと見ているという。
 三つ目のシナリオは、中間的シナリオである。南・東部からロシア軍を追い出すことができても、侵略前の状態には戻らないというものである。これは、軍事専門家からも支持されており、可能性が高いと見られる。

ウクライナ支援が政治的な争点になる可能性

 中間シナリオには、かなり幅広い状況が含まれる。明確にロシアを押し返したという印象が得られる場合もあるかもしれないが、さほど明確な成果とは思えないような状況もあり得る。
 もし、そういった明確な成果が得られない状況になれば、ウクライナ戦争の長期化は避けられない。停戦にはある程度明確な成果が必要であり、ウクライナとしては、戦争を継続するしか選択肢がなくなるからだ。
 そして、戦争が長期化した場合、アメリカの支援体制は、揺らぐ可能性がある。終結が見えない状況で、長期に渡って支援を続けるということは、政治的に難しい状況に至る可能性が高い。
 アメリカは、来年には大統領選挙が控えている。今年の11月頃から、大統領選挙モードに移行するものと考えられる。そこで、民主党と共和党の争点になった場合、アメリカの支援体制は、これまで通りとはならないかもしれない。アメリカは、秋口以降景気後退に陥る可能性が高まっている。不況下における支援の負担は、相対的に重いと感じられるようになるだろう。
 場合によっては、アメリカ主導の支援体制が維持できなくなる可能性も否定できない。その意味でも、ウクライナによる大規模反転攻勢の成果が、明確化されるか否かが、最大の注目ポイントとなる。

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