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アラサーOLの午後休〜許しの映画『PERFECT DAYS』

※ネタバレを含みます。

『PERFECT DAYS』、マジで人生で定期的に見たい映画かもしれない。

私にとって、許しの映画だった。
「生活の中に幸せを見つけられる日々」を思い出し、そんな生活をしたっていいと言ってくれている気がした。


その日は午後休で、何をしようか朝の通勤電車で迷っていた。その時突如、「綺麗事映画」とSNSで言われていた『PERFECT DAYS』のことを思い出した。

YouTubeで反応を調べると、ピース又吉が高評価をつけていたり、「役所広司が神の領域に入った」という何事か?と思うようなサムネを見つけ、ちょっと興味が湧いた。

日比谷のTOHOシネマズ シャンテで観ること
に。真面目なので12:40くらいまで仕事をしてしまい、まぁまぁギリギリの時間になってしまった。
電車の中でチケットを買い、出たい出口を調べ、ベストな車両へ移動。到着と共に飛び出した。
なぜかサラダ屋に入って、掻っ込むにはもったいない価格のサラダボウルを食した。

高ぇ〜けど美味しいサラダ

「the Tokyo Toilet」
こう背中に書かれた文字と構図が
副題みたいな感じに見えて一気に引き込まれた。そして、朝焼けの中、高速道路に走る無数の車、その中の1台に乗ってる人。
これは、なんら特別じゃない、いち労働者の話なんだと示してくる。

描かれている内容は、20代を過ごした地方都市での私の転勤生活そのものだった。
(映画の中の様子は割愛)

初めての一人暮らしと、縁もゆかりもない知らない街。
あの時聞こえてきた自然の音は、全部美しかった。ベランダから見える景色ただの住宅街に、ときめいていた。空気のあたたかさがちょうどよくて、街の並木道の木漏れ日が日常にあって、ずっとここにいれたならと思った記憶がある。

そして週末は毎週同じことをした。
家事をして一息ついて、料理をして、ピアノを弾いて、晴れていれば街に自転車で繰り出しては行ったことのないカフェや小径を巡る。
雨であれば歩いて駅中の行きつけのカフェに入る。
時々、夕方になると裏のコープに買い物に行き、帰りにはその道中にある定食屋の様子を見る。今日はやってる!そのことを確認して、その定食屋に入り、雨音を聞きながら景色を眺める。
その時私の心は「完璧だ」という充足感に満たされていた。

揚げたての竜田揚げを食べられる定食屋。

その時何も考えていなかった。
東京に帰省して飲みにいくと、婚活がどうだ、もうこんな歳だ、と世間の決めた物差しに従って、皆が動いていた。
そんな世界から離れて定食屋の窓からみる雨模様は最高に美しかった。
世間からの枠組みから離れられる贅沢を知った瞬間だった。
これが永遠であれば良いと本気で思っていて、転勤の期間が終わることが怖かった。この生活から離れることが心底嫌だった。

「なんでそのままじゃいられないんでしょうね」劇中そんなセリフがあったが、本当にその通り。私の住む地方都市の街中が移り変わっていってしまうのでさえ悲しかった。


東京に帰ってきた私は、打って変わり「効率的に、貪欲に、やりたいこと全部やりたい」って思っている。
と同時に、そうしてないとどこか時間の無駄遣いをしている気持ちになる。新しいものを求め、話題のものを体験してやりたいと必死にSNSを漁る。予定が立たないことに恐怖さえ覚える。
今日の午後休もそうだ。

特に自分から何か「特別な」予定を入れるわけでもなく、「特別な」向上心があるわけでもない。だけど周りでいろんなことが起こり、気持ちが揺れ動かされ、人生に彩りが生まれる。淡々と、同時に誇りを持って同じ仕事をこなし、日々満足した気持ちで、眠りにつく。
映画の中の彼はそんな生活を送っていた。

「特別」を求めないといけない気がするこの世の中、そんなの求めなくても、自分にとって満足のできる生活がある。
それを思い出した。
そして、その生活をしたっていいと、許しをもらえた気がした。
最後に伏線回収、みたいな「特別な」事案が起こらないことも、「特別」じゃない生活を認めてくれるような気がした。


言われているように、掃除するのに綺麗なトイレしか無い、都内(憧れの浅草)に家って(確かに恵まれてるよな……?とは感じた)綺麗事だと言われたり、
よく行くお店のママにモテたりすることに、そんな現実ねえよ!おっさんの夢!という声が上がったりするのはごもっともなのだけど、そういう映画じゃないんだよ。別に、清掃業者のリアルドキュメンタリーを描いてる作品ではないのだ。
要は都内って言ったらもっと輝いて、誰しもが承認欲求にまみれていたりするじゃないですか。ご実家もそれを体現したような貴族じゃないですか。
そこから解脱した、なんの特別でもないけど自分のペースの生活って最高だよってことなんですよね。
(言われてみれば、ちょいモテするみたいなとこ、おじさんが見たら、くぅーってときめくものがあるのかもね。いい例えが思いつかないが。)



私はこれからの人生、
この映画で感性を取り戻しながら、許しを得ながら生きていきたい。

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