【同業者向け】コミュニティー視点から見たeスポーツ法務の全体像


1 はじめに

私はこれまで数年間、主にユーザー視点から、eスポーツ業界のトラブルに携わってきました。今年(令和6年)から事務所を移籍し、一つの区切りとして、自分が見たeスポーツ法務の全体像をまとめようと思います。

2 投稿の趣旨

ゲームメーカーや運営側の法務は、主に東京の大手事務所対応します。
私は、愛知県内で主に一般民事を取り扱う弁護士です。これまでは交通事故、離婚、相続、中小の企業法務、刑事等を中心に対応し、特に何か特別なコネはありませんでした。
ですので、地道に、TwitterのDMに答える等して、活動を続けてきました。

投稿の趣旨としては、
① 利益相反やしがらみへの対策
いろんな方々と交流が増えた分、利益相反や、しがらみが増えてきました。「○○さんの依頼や相談を受けると、××さんとは距離を置かなければならない。だけど相互FF内で連絡が来てしまう、、」というケースも増えるようになったため、コミュニティー分野で活躍する法律の専門家が増えてほしいな、と思いました。

② 新規で携わる方の参考になれば
私自身が経験しましたが、eスポーツといっても、ゲームタイトルごとに、その界隈や使われる用語、マナー(?)は様々です。ユーザーの民度も大きく異なります。
初めて関わる先生は、その特殊性に、非常に苦労されるんじゃないかと思います。業界的に、若い先生の方が興味・関心を持ちやすい分野でもあると思いますが、経験を積んだ中堅以上の先生方にも、ぜひ参考になればと思います。

③ 連携できる方がいたら嬉しい
私はこれまで個人で活動をしましたが、今後は、連携して活動できる方がいらっしゃったら嬉しいな、と思っています。
eスポーツ界隈の依頼者は、全国にいらっしゃいます。eスポーツから派生して、地元のトラブルについて相談したい、という話につながることがあります。zoom会議を中心に処理できる案件なら問題はありませんが、現地に赴く必要が高い事案等も出てきます。たとえば、全国展開しているような事務所さんとつながることができるとありがたいな、と思っているところです。また、eスポーツ界隈は、Z世代やその親御さんへの宣伝効果は大きい分野ですので、マーケティングを考えていらっしゃる事務所さんのお役にも立てるんじゃないかなと思います。

そんなことをいろいろ考えておりますが、是非、以下の内容もご覧いただければ幸いです。

2 問題になる法律・法分野

自分が関わってきた中で、主に以下の法律や法分野が問題になりました。

(1)憲法

人格権や平等権・・・障がいを有する方や、性同一性障害のある方において、eスポーツを楽しむ権利は健常者の方と同様にあるため、その点の配慮が必要です。

https://zetadivision.com/news/2022/08/03/11381

差別発言・ヘイトスピーチ・・・差別発言も多いです。韓国人選手を侮辱する趣旨(そうとられても仕方ない文脈)で、キムチと言った選手がチームから除名されました。

これも有名な事案です。身長で人権の有無を論じた女性プロゲーマーが炎上した事案です。

こちらは、ゲームの対戦相手に対して感情的になったあまり「障害者」と呼んだプロゲーマーの事案。

いずれについても、しばらくの活動禁止・停止期間はありましたが、今現在は活動を再開しています。弁護士目線では「もうアウトでしょ」みたいな事案でも、復帰できるケースがあるように思います。そういう意味でも、特殊な界隈です。

(2)行政法・地方自治法

入札案件・・・eスポーツは参入規制が少ないですが、主に自治体の委託事業でeスポーツ関連の事業を行うことがあります。書類作成の協力や法的なアドバイスが必要とされる事案が出てきます。

https://www.city.kawasaki.jp/saiwai/page/0000145097.html

在留資格・ビザ・・興業ビザのうちプロアスリートビザを取得することが多いようですが、間に合わず、外国人選手が日本の大会に出られない事態もありました。国際的な問題も出てくるのがeスポーツ法務の特徴です。
こちらは、東京で開かれた国際大会に、外国人選手が出られなかった事案です。

(3)民事

不法行為(誹謗中傷)・・・SNS上の投稿に関する開示請求等があります。平気で人の顔や見られたくない内容を晒すユーザーが多く、法律家の需要は多いです。
これは私の管理しているアカウントですが、実際にSNS界隈における誹謗中傷について開示請求を進めている案件です。私が依頼者を守るために、加害者に対して投稿を削除するよう警告したところ、加害者やその仲間と思われるアカウントから、暴言や挑発的なことを言われた、という事案です。
依頼者自身の名義で開示請求をするのは、費用や親御さんの同意(未成年の場合も多いため)を要するなど、ハードルが高いです。ログの保存期限等の制約もあります。そこで、私自身が被害者の案件の場合は、私の名義で開示を進めて、まずは加害者を特定し、今後どうするか相談しましょうか、と提案するようにしています。


賃貸借・・・インターネット環境が十分に整備されていないことを理由とする契約不適合責任が問題になり得ます。最近は、ゲーミングマンションなどのビジネスも始まっていますが、こうした不動産トラブルは今後も続くと思います。


特定商取引法・・・ECサイトでアパレル販売等をする際に問題になります。これはまだトラブルが表面化してませんが、ゲームのコーチングビジネスが流行っています。
また、ゲームをしながら英会話を学ぼうというビジネスも台頭してきました。
継続的役務提供契約の指定役務に該当し得るビジネスだと思いますが、ゲームがうまくなるか、英語がうまくなるかというのは非常に曖昧な話になってきますので、今後は消費者トラブルが発生すると思います。

https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/

(4)個人情報保護法

ECサイトや大会運営にあたり、参加者、申込者の個人情報の取扱いが十分でない場合があります。運営も未成年、あるいは若年層が多いため、扱いが雑なことが多いです。
個人情報保護法所定の個人情報データベース、保有個人データまで該当するかは微妙な案件もありますが、少なくとも、プライバシー侵害として違法と言える案件は多く見られます。

(5)知的財産法

特に著作権・・・絵師のトレーストラブルや無断改変トラブルが多いです。
商標権・・・eスポーツチームも、大手はロゴの商標登録などをしており、権利化をしっかりしようとしています。

※他方、これは上述と若干矛盾するようなお話ですが、eスポーツ界隈は、権利関係よりもSNSの盛り上がりを優先している場面が多いです。
先日、呪術廻戦の漫画で、しかもまだアニメ化もされていないネタバレの画像を、試合前に投稿してファンを盛り上げようとしたチームや選手がいらっしゃいました。普通に考えて著作権法上アウトなのですが、なぜか、事実上黙認されています。

(6)独占禁止法(※表面化せず)

不当な取引制限・・・問題を起こした人物や特定人物に嫌われるようなことをした人物やチームは、業界から排斥される傾向が一部見られます。大会の出禁や契約拒絶等にあたるとして、不当な取引制限と見なされる可能性があります。

※関連ツイートは貼りませんが、フォートナイト界隈で、影響力のある有名なチームが開催するスクリムや大会について、過去にチーム批判をしたことが原因でスクリム等に出られない、という選手が一部見られました。運営やチーム批判をしたことが原因のようですが、度を超えると違法になります。

不公正な取引方法・・・家電量販店主催のイベントでeスポーツイベントを行うことが多いですが、想定された時間外における接客対応や陳列作業を強いられる場合等は優越的な地位の濫用等に当たり得ます。


(7)国際取引

国際私法・・・外国人選手と契約を交わす際の準拠法や管轄が問題になります。
※たとえば、韓国人選手は、プロ選手としての最盛期と軍隊に行かなければならない時期が重なりますます。契約時にはリスクを想定した合意が必要です。
※韓国は日本よりもeスポーツが発展しており、強い選手が多いため日本のチームに加入してもらうことがあります。学歴社会のためゲームが盛り上がってるのは不思議かもしれませんが、現実として韓国選手は強い子が多いです。

https://crazyraccoon.jp/20230819-2/

こちらはvalorantのチームですが、5人チームのうち半数以上が外国人で、チーム内のやりとりも英語で行うという国際色あふれるチームです(現在はメンバー変更あり)。ビザやカルチャー等の問題が生じますが、それでも好成績を収めています。

これは、海外のeスポーツチームが、日本のファンを獲得するために日本の会社とブランディングに関する契約をしたというニュースです。日本国内での消費活動に注目が行っているひとつの証拠になっています。


(8)刑法

詐欺・・・paypay詐欺が多発しています。
性犯罪・・・未成年を狙った卑劣な犯行が多いです。また、若い子同士の恋愛でも、いわゆる性行為の動画を撮影しているケースが多く、リベンジポルノに発展している事案も見られます。私も何度か相談を受け対応したことがありますが、「警察まではいかなくていい(いかないでほしい)けど相手に動画を消させてほしい」などと要望を受けることがあります。
チート・・・少年が興味本位でチートに手を出している事案が多いです。

(9)商法・会社法

会社設立・・・スタートアップの側面が強いです。将来性が見込める、応援したいチームについては、私も積極的にサポートしています。
引き抜き・・・他チームの選手を、そのチームの代表やオーナーの了解を得ることなく勧誘することがあり、トラブルになりやすいです。
※以下は、RIDDLEオーナーのお話です。いろいろ考えさせられるものがあったのでご紹介です(移籍オファーを送ってもチームが選手に伝えないということがあり、それが原因でオファーする側もチームを介さずに選手に直接勧誘するという流れがある)

ただし、ゲームタイトルによっては、引き抜きをしっかり取り締まろうとするパブリッシャー・運営もあるようで、一概とは言えません。

※eスポーツ業界は業界団体におけるソフトローの作成がされていないため問題になりがちです。

(10)労働法

報酬未払いトラブル・・・「給与未払い」等と騒がれることが多く代表も突然失踪するケースがあります。

選手契約の法的性質・・・業務委託とされていることが多いですが、事案によってはチームと選手との上下関係が顕著で、労働時間に該当するプレイ時間が明確であれば、指揮監督命令があるとして労働契約とみなされることもあります。
選手会(労働組合)・・・声はあがるが、なかなか進まないです(以下の選手会も、正式な労働団体ではない)。eスポーツ界隈の力関係は、①有名なインフルエンサー、②パブリッシャー、ゲームメーカー、③競技選手というピラミッド関係にあることが多く、選手の権利はないがしろにされがちです。

(11)eスポーツ特有の法規制

景表法・・・以前は高額賞金は出せないと言われましたが、今ではほとんど解決済みです。

風営法・・・風営法の適用がない参加料徴収型大会の範囲が明確化し一定の解決がはかられました。

賭博罪・・・規制は残るため、賭博の要素を持つ大会は開催できないです。ここがクリアできたら一気にマネタイズできますが、デメリットが多いため規制緩和はされません。海外では盛んなようで、海外のサイトを利用する日本人もまれに見られます。

フリーランス規制・・・最近出たフリーランス規制も、eスポーツ選手の募集要項等で注意する必要があります。
eスポーツ業界では、こういう法規制を潜脱する趣旨があってか、「○○の仕事あります、興味ある方いたらDMください」等とツイートをして詳しい業務内容・待遇は明らかにしないケースが多いです。弁護士目線では、どうなんだろうな、、と思いますが、そういうケースがよくあります。

ステマ規制・・・eスポーツ界隈だと「#PR」「○○から提供頂きました!」とする投稿が多いですが、企業のPR案件が多いです。
これは更に踏み込んだ話ですが、オンラインカジノがeスポーツ界隈で流行っており、違法と思われる企業の依頼を受けて宣伝する投稿が見られます。特に、現役引退したかつての有名選手で、何の仕事をやっているか分からないようなアカウント(だけどフォロワー数は多い)が、こういうことをしていることが多いです。当時のファン目線では、悲しくなるお話です。

消費者庁の公表資料。宣伝であると明確に分かる例


3 eスポーツ業界の特徴(個人の感想)

 以下は、本当にわたし個人の感想なので、話半分で読んで頂けたら幸いです。

(1)年齢層は若い

関わっていると、自分がまるで少年事件をやっているような感覚になります。これを言って相手に響くのだろうか、更生の可能性はあるのだろうか。単純な成人間のトラブルとは、異なる難しさを感じます。

(2)専門用語が多い

チーミングや代行、ブースティング、スマーフ、などなど。各ゲームタイトルごとに用いられる用語が非常に多いです。全く事情を知らない先生が、トラブルの背景事情をつかむのが非常に難しい界隈だと思います。

(3)嘘が多い

「給与未払いでした」「誹謗中傷されました」と一言で相談に来られても、実際にそのやりとりやスクショを見ると、そんな事実はないことが多いです。
具体的な証拠を出さずにSNSで晒して、炎上を引き起こしているような事案は、単なる嘘の場合も少なくありません。
専門家として、そういった相談を受ける場合、非常に慎重な対応が求められます。

(良かれと思って動いたら、依頼者に裏切られる、後ろから刺される、みたいなケースは割と多いです)

(4)話が通じない

特に誹謗中傷案件に多いです。加害者は、本当に、話が通じません。ゲームタイトルにもよりますが、コミュニティーの年齢層が低い割に、気軽に匿名で投稿を出来るため、タチが悪い案件が多いです。また、謎の理論で自身を正当化しようとします。
仮に、自身の行為が悪いと自覚していても、削除すれば良いだろう、未成年だから許されるだろう、等と安易に考えている人物が多くいます。
他方、被害者・依頼者からすれば、穏便に済ませてほしい、費用をかけずに進めてほしい、と言われることも多く、悩まされます。
本当に有効な解決策を導くことが難しいですが、前述のようなふざけた加害者は、誰が間に入って交渉しようと変わることがないので、さっさと法的に手続きを進めた方が結果的には早いことが多いです。(そのように勧めます)

(5)炎上リスク

前述とかぶりますが、何かと晒してSNSを巻き込もうとする人間が、本当にこの界隈は多いです。その投稿を見た閲覧者(多くはその身内が多い)も、内容の真偽を何も考えずに拡散することが多く、結果、あらぬ方向に炎上をするケースが多いです。
この界隈は、言ってることが正しいかよりも、誰が言ってるか,どれだけ人気のある人が言っているか、というのが重視されがちです。同じ事を言っても、○○さんが言えば許される、××さんが言えば炎上する、というのはよくあり、炎上リスクの分析は定量的よりも定性的です。

(6)金銭面でのマネタイズは難しい

eスポーツ事業単体でマネタイズするのは難しい、と言われますが。しかし、Z世代へのマーケティングという視点で見れば、非常にインプレッションを稼ぎやすい業界なので、工夫次第でマネタイズできるんじゃないかと思います。 

(7)業界全体の動きは少ない

ゲームメーカーが積極的にリーグ制度を設けて、選手やチームを監視しているケースはまだコミュニティーの民度は良い方です。
そのような仕組みがないゲームタイトルは、もう無法地帯・スラムと化していることがあります。

これまであげたeスポーツ連合さんは、唯一、業界団体として取り組まれている部分があります。しかし、これに関与していないゲームタイトルも多いです(特に海外のゲーム)。また、eスポーツ連合さんも、コミュニティーにおける個々のトラブル等について逐一対応されることはありません。

個々人が言いたいことを言っていて、まとまりがない。そんな状況だからこそ、ルールメイキングの観点からやりがいのある分野ではありますが、いろいろと話が進まない苦労があります。

(8)情報弱者ビジネスが台頭

 eスポーツを利用したマーケティングが盛んになっており、一部、悪徳な業者が、プロゲーマー・プロチームの知名度を悪用し、ひいては悪徳なビジネスを始めているように思われます。
業者の具体名等は明確には指摘しませんが、今後、大きなトラブルになると思っています。

3 最後に

色々書いていきましたが、eスポーツ業界は、専門家目線では、なかなか安易に足を踏み入れたくない業界だろうとは思います。
ただ、こういう業界でも、真面目に頑張っているプロゲーマー、プロチームを目指している方は一定数いらっしゃいます。自分は、そういう方をサポートできたらなと思っています。
また、eスポーツは、勉強や運動以外でも輝ける場を提供できること、不登校対策、認知症予防などの副次的効果を与えるという社会的側面があります。
そうした良いところを伸ばして、悪いところは減らしていく・なくしていく取り組みが必要だと思います。

自分自身、ライフスタイルや所属事務所が変わるなどして、以前のように慈善事業や趣味としてこの界隈に関わることはできないと思ってますが、もし、他の先生方で興味のある方がこの界隈で活動されようとする場合は、今回の投稿を参考にしていただけたら幸いです。


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