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スタートアップにこそ大切な「パーパス・ブランディング」を再考する。

「NIKKEISHA STARTUP TABLE」では、「挑戦」と「変化」を目指す企業の「1→100」のために、成長期に直面するさまざまな悩みや課題に応えるべく、“社会との対話“の機会を提供しています。

今、大企業でも注目されている「パーパス・ブランディング」。自らのパーパス(存在意義)を再定義し世の中における価値を伝えるこの考え方は、社会からの共感、資金調達や新規顧客の獲得、優秀な人材の採用など、スタートアップにとっても、その成長を強く後押しする力となります。

スタートアップの“社会との対話”のために、パーパス・ブランディングをどう活かすことが出来るのか。過去に「存在意義を再考する!企業価値を創造するパーパス・ブランディング」と題して、パーパス策定の第一人者であるエスエムオー株式会社 代表取締役 齊藤三希子氏にお話しいただいた講座から、基本的な概論から具体的な策定プロセスまで、ポイントを少しだけご紹介します。

■優れたブランドとそうでないブランドの違いとは?

ウェビナーでは、齊藤さんには「パーパス」が求められている背景からお話ししていただきました。

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私はもともと広告代理店で、企業の「強いブランドを創りたい」というご相談に対してずっと取り組んできました。18年前に独立してからも、ずっとブランディングのお仕事をしています。その間、どうしたら強いブランドを創ることが出来るのかをディスカッションしてきた中で「強いブランドとそうではないブランドというのは、パーパスのあるなしが関わっているのではないか」という考えに至り、そこから私たちSMOのパーパスの旅が始まっています。

「パーパス・ブランディング」の前に、まずは先にブランドについての話をしたいと思います。

なぜ優れたブランドと、そうではないブランドがあるのでしょうか。

経営資源に違いがあるのでしょうか。もしヒト・モノ・カネ等のリソースが同じなら、同じ結果になるはずですが、そうはなりません。

戦略が違うのでしょうか。では、良い戦略はなぜ描けないのか。あるいは、描けたとしてもなぜ実現できないのか。究極的には、賢い人たちが集まって考えれば、良い戦略は描けるでしょう。しかし、それだけではどの企業も同じような結論に至るでしょうし、合理的だと思う内容に落ち着いてしまいがちです。その結果、戦略だけで違いを出すことは出来ません。

そうすると今度は、戦略の前提にあるコンセプトやビジネスモデルを重視するようになります。戦略が論理的に正しいかが問われるのとは異なり、コンセプトは人を惹きつけてわくわくさせることが大事なものです。このコンセプトもまた、良いコンセプトを描こうと思えば描ける訳ですよね。でもどうして描けないのか。描けてもどうして実現段階へ進めないのか。また、コンセプトは様々な要因で移ろいやすいものです。例えば社長が変わったり、競合がもっと素敵なコンセプトを出してきたら変えてしまおうとしたり、そんな移ろいやすさが潜んでいます。

さぁ、どうしましょう。戦略は模倣できるし、模倣される。コンセプトも模倣されたり、変わってしまったり、何かがあるとすぐに崩れてしまいます。

図1

そこで、「パーパス」の話になります。

優れたブランドが大事にしているものがパーパスです。
“一般的なブランディング領域”では、コンセプトがあって、それに基づく戦略があります。しかし、現代はそれだけでは不十分です。その拠り所となるパーパスというものを重要視し、それを基にコンセプトを考えて戦略を立てる“パーパス・ドリブン・ブランディング”で事業活動を行っていくことが、ビジネスで成長する秘訣となっています。

優れたブランドほど、共通してパーパスを大事にしています。

元P&GのCMOであるジム・ステンゲル氏も、2008年の全米広告主協会で「パーパスは、すべてを変えるものです。結果をも変えます。前進のためにはとにかくパーパスです。」と発言し、強くパーパスの重要性をプレゼンテーションしました。
この発言がパーパスの重要性が着目されるきっかけとなりました。ちょうど2008年と言えば、リーマンショックがあった年です。世界的に停滞感や不安感がある状況で、この時期働き手として世の中に出始めたミレニアル世代が、自分はなぜこの仕事に就くのかという視点を重視するようになっていった頃です。この傾向は、ミレニアル世代の中でも優秀な人ほど強い傾向であったというのが感じ取れます。こうした背景もあって、企業にはよりパーパスが求められているのです。

元Facebookで現在Meta(メタ)のマーク・ザッカーバーグCEOは、ハーバード大学で未来のリーダーである卒業生に向けて「パーパスは自分以上に大きい何かに関わり、必要とされ、より良い将来のために働きたい、という感覚であり、パーパスこそが真の幸せを作るものだ。」と語っています。パーパスがあることは当たり前で、それを誰しもが実現できる社会をつくることが、未来のリーダーたる皆さんの責任であると伝えています。

世界最大の資産管理会社であるブラックロックのCEOであるラリー・フィンク氏は、2018年に世界中の投資先企業の経営者に向けて提示したアニュアルレターの中で「企業にパーパスがなければ、長期的な成長は持続できない」と示しています。2019年も、2020年も2021年も、同様に語っています。
日本にとって象徴的な出来事だったのが、2019年にラリー・フィンク氏が来日した際です。日本経済新聞の取材を受け、「企業にパーパスが無ければ長期的な成長は持続できない」と語ったのが結構大きな記事となり、凄く話題となりました。それまで私たちが様々な方に、パーパスがこれから重要ですよと伝えても反応が少し薄い感じだったのですが、日経新聞に載るとその影響は大きく、ご相談がたくさん来るようになりました。本当にビジネスパーソンって日経新聞を読んでいるとつくづく感じた、本当にエポックメイキングな出来事でした。

同じ年には、日本の経団連にあたる米国の大手経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、企業のパーパスの新たな方針を発表しています。それまで20年以上に渡って掲げてきた「株主至上主義」を見直し、株主のみに留まらず、お客様、従業員、サプライヤー、地域社会など、その企業に携わる人・社会を重視した方針に転換することを表明しました。アメリカの大手企業181社ものCEOもまた、これに対して署名しています。まさに世界的に、パーパスが無ければビジネスに参加するチケットが持てない、貰えないという状況がじわじわと造られてきたような形です。

パーパスを導入している企業は、はたしてどのくらいあるのだろうかと思われるかもしれません。
実は世界的には、数えきれないほど多くの企業がパーパスを持っています。スタートアップから老舗企業、世界的な企業まで、BtoBやBtoCの形態に関わらず、幅広い層の企業がパーパスを掲げています。

日本ではまだまだこれからですが、いち早く取り入れたソニーさんを筆頭に、2019年にはベネッセさんやカネカさん、資生堂さん等がパーパスを策定し始め、2020年になると富士通さんや伊藤忠商事さん、NECさん、日産さんにトヨタさん等、そして2021年にはアスクルさんや日立さん、セブン銀行さん等と、さらにパーパスを策定する企業が次々と増えています。

■「パーパス」とは何か?

パーパスとは一体何なのか。

まず言葉の意味からお話ししますと、辞書によれば「Purpose」には2つの意味があります。
1つ目は、“目的”や“狙い”といった意味です。まさに中学生の頃に習ったときに覚えた意味だと思います。2つ目の意味が、“存在意義”や“存在意味”といった意味合いです。ビジネスの場面で話されるPurposeは、企業やブランドにとっての存在意義として使われることが多いと認識しています。
さらに私たちは、目的や存在意義に加えて“志”や“大儀”といった意味も含んでいると考えています。

パーパスと似た言葉に「ミッション」や「ビジョン」といった言葉があります。では、これらとの違いは何でしょうか。

下図が、「パーパス」と「ミッション」「ビジョン」「バリューズ」の関係性を示した図です。
「ビジョン」は、将来に自分たちの組織がどうなりたいのか、成し遂げたい世界はどのようなものなのかを示すものです。一方で「パーパス」は、なぜ私たちは存在するのかという問いに対する答えとなります。「ミッション」は、「パーパス」と「ビジョン」を達成するためにやるべきこと。「バリューズ」は、それらを行う際の指針と言葉です。

図2

私たちは、「パーパス」「ビジョン」「ミッション」「バリューズ」を、経営理念の4要素と呼んでいます。
企業によっては、「パーパス」と「バリューズ」の2つで表すこともありますし、場合によっては、「パーパス」で「ミッション」を表しているケースもあります。重要なのは、この策定したものをいかに組織に浸透させていくのかということですので、会社のカルチャーに合う方法を採用してもらえたらと思います。

続いて、「パーパス」がどのような構造になっているのかを説明します。
企業やブランドの存在理由である「パーパス」は、「強みと情熱」と「世の中のニーズ」が重なり合ったところにあります。

図3

この「世の中のニーズ」ですが、顕在化しているニーズと潜在化しているニーズの2つをしっかり捉えることが重要です。今見えているニーズももちろん大切なのですが、やはり企業活動は長く続けていくものですので、この先どのようなニーズが出てくるかもきちんと捉えていくことが必要になります。私たちSMOでは、一橋大学の鷲田先生を顧問に迎え、バックキャストして未来を見ていく「未来洞察」という手法で、策定企業と一緒に未来を考える作業をしています。

私たちは、パーパスを“ディスカバーする”という言い方をします。決して造るものではなく、企業やブランドの中にもとより絶対に存在するものですので、歴史を振り返ったりして深掘りしたりすることで見つけ出すことが出来るという考えがベースにあります。

こうして見つけ出したパーパスですが、見つけたらそれで終わりという訳ではなく、ここから先のムーブメントこそがものすごく重要です。

全ての人々がパーパスに基づいて判断・行動できる組織、が理想的な状態ですよね。そうした状態を実現するには、条件が2つあります。それは「深い理解」と「強い信頼」です。

図4

「深い理解」のためには、研修や社長によるメッセージビデオ等を通して、ステークホルダーの皆が理解するように努めます。

パーパスに対する「強い信頼」ですが、これには2つの意味合いが含まれています。1つ目は、パーパスに対して、自分が信頼できるかどうか、本当に良いなと思えるかどうか、それを信じて仕事をやっていきたいと思えるかどうかです。そしてもう1つは、所属する組織が本当にパーパスを基に判断・行動していくのかという、組織に対する信頼。これがとても重要です。
社長がパーパスを策定し、今後これを基に判断・行動していきますと言っても、そこに本気度が見えないと、これは信頼できるものではないとなってしまいます。社長のみならず、役員や管理職がパーパスを拠り所としていないと見えると、会社や組織に対する信頼は揺らいでしまいます。リーダー自らが、パーパスに対する本気度を見せ、強い信頼を勝ち得ることがとても重要です。

■ブランディングで活きるパーパス

パーパスを軸にしたブランディングもまた、今まさに注目されています。

そもそもブランディングとは何でしょうか。競合激化やグローバル化が進む現代では、無限の選択肢の中からステークホルダーは意思決定を行っています。そうしたビジネス環境の中で、企業がどのようにステークホルダーと繋がり生涯かけがいのない関係を築いていけるのか。そのための大切な手法がブランディングです。“強いブランド”は、密度の高い市場でも目立つことができ、人々から信頼され愛されていきます。言い方を変えると、強いブランドが無い企業は生き残れない時代になっています。

図5

ブランディングにおけるパーパスの意義ですが、インターナル(組織内)ではパーパスを軸に一体化を図り、エクスターナル(組織外)ではパーパスを基に差別化していきます。

前者においては、極論するとパーパスはあらゆる判断と行動の拠り所となり、社内を結束させるものと考えています。例えば、投資判断や事業売却、新規事業の選択など、日々の業務の中での判断の原理原則として浸透させることで、組織の誰もが自分で考えて行動できるようになることが重要です。

後者では、競合との差別化を図るためのものとなります。今の時代はどの商品やサービスも、競合と同じような品質や機能を持っているケースが多いものです。そのため、ユーザーが差別化できる要因となるものが、ブランドイメージや実際の体験となります。商品やサービスを通じて、ブランドとの良い経験価値を顧客の中に構築させていくためには、あらゆる接点で統一性と一貫性を以て経験価値をデザインしていくことが重要です。
同じことを何年も続けていくのはとても困難なことでもあるのですが、それを実現するためにパーパスという拠り所を組織の中に浸透させていくことが、ブレずに続けていくためにも大事な要素となります。

社内外の両方にパーパスを表明していくことで、顧客を含むあらゆるステークホルダーに共通の価値観が伝わり、強い関係値を築いていくことに繋がると私たちは信じています。

■今の時代にこそ求められるパーパス

不確実な時代である現代、私たちは「人間性(Humanity)」と「柔軟性(Flexibility)」がとても重要であると考えています。

経営環境の変化がより激しくなり、近い将来ですらなかなか予測しづらい時代。時代のニーズも大きく変化する中で、繋がりや絆といった人間性というものは、消費者が求める普遍的で変わらないものです。
また、様々な企業でも中期経営計画を設定されていると思いますが、変化の激しい今の時代ではなかなか通用しない局面がありアップデートが常に求められているかと思います。変化に迅速に対応していくためには、フレキシビリティということも不可欠であると考えています。

その拠り所として、パーパスが重要な役割を果たします。そのため、パーパスとは、人間性が求められノイズが溢れている今の不確実な時代にこそ、とても合致している考え方であると私たちは思います。

スタートアップの方々にとっては、創業時に、「何のために事業に取り組むのか」ははっきりしているという方も多いかもしれません。しかし、社内外にも「深い理解」と「強い信頼」を繰り返し浸透できるような、明確なものになっているでしょうか。浸透させるための取り組みは十分でしょうか。事業が成長した今の組織に適したものになっているでしょうか。このコラムをきっかけに、今一度考えてみてはいかがでしょうか。


※齊藤さんの「パーパス・ブランディング」のお話は、下記の書籍に詳しく載っています。ご興味を持たれた方は、ぜひ読んでみていただければと思います。
https://www.amazon.co.jp/dp/4883355209



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