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短編小説 |好きな偉人を殺してしまった1/6

不思議な出会い

京都大学文学部2回生、佐藤悟の人生は、ある日突然、奇妙な方向へと転がり始めた。それは、まるで四畳半の部屋に閉じ込められた蛾が、窓の外の明かりに必死に向かっていくかのような、不可避な運命の歯車の回転だった。

悟にとって、大学生活は平凡そのものだった。講義に出席し、レポートを書き、友人とコンビニのコーヒーを片手に他愛もない会話を楽しむ。そんな日々の中で、唯一の刺激は古文書研究会での活動だった。古びた紙の匂いと、そこに記された先人たちの知恵に触れる瞬間は、悟にとって何物にも代えがたい喜びだった。

その日も、いつものように研究会の部室で古文書の整理をしていた。埃っぽい空気の中、悟は丁寧に一枚一枚の紙をめくっていく。そして、その時だった。一見何の変哲もない古い紙切れの中に、奇妙な文字列を発見したのだ。

「これは...暗号?」

悟の呟きに、隣で作業をしていた山田桜が顔を上げた。彼女は悟と同じ2回生で、研究会では常に一緒に作業をしていた。知的好奇心旺盛な桜は、悟の発見に興味津々の様子で覗き込んできた。

「佐藤くん、何か面白いものを見つけたの?」

「ああ、これ見てよ。普通の古文書じゃないみたいなんだ。何かの暗号みたいだけど...」

二人は顔を寄せ合い、その奇妙な文字列を凝視した。それは確かに日本語でも英語でもなく、かといって既知の古代文字にも似ていなかった。まるで、誰かが意図的に作り出した秘密の言語のようだった。

「これ、解読できたら面白そうじゃない?」桜の目が輝いた。「私たち、挑戦してみない?」

悟は少し躊躇した。彼の性格は慎重で、むやみに新しいことに手を出すタイプではなかった。しかし、桜の熱意に押され、そして何より自分自身の好奇心に負け、ついに頷いた。

「そうだな...やってみよう」

こうして、二人の暗号解読への挑戦が始まった。それは、まるで四畳半の部屋で繰り広げられる、小さくも壮大な冒険のようだった。

最初の数日間、二人は既知の暗号解読法を片っ端から試してみた。シーザー暗号、ヴィジュネル暗号、さらには現代の暗号技術まで。しかし、どの方法を使っても、暗号は頑として解けなかった。

「まるで、この暗号が意地悪な上司みたいだね」悟は溜息をつきながら言った。「こっちがどんなに頑張っても、『それじゃダメだ』って突っぱねてくる」

桜は笑いながら答えた。「そうね。でも、それがまた面白いんじゃない?簡単に解けちゃったら、つまらないもの」

その言葉に、悟は少し元気づけられた。確かに、この難解さこそが、彼らを惹きつけて止まない理由だったのかもしれない。

二人は図書館に籠もり、暗号学の本を読みあさった。インターネットで専門家のフォーラムを探し、質問を投稿した。時には、大学の暗号学の教授にまで相談に行った。しかし、誰もこの奇妙な暗号を解読することはできなかった。

そんなある夜のこと。図書館で徹夜の調査に没頭する悟の前に、突如として4人の幽霊が現れた。エーリッヒ・フロム、マーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスク、そして何を血迷ったか森見登美彦である。

悟は目を疑った。まるで、現実と幻想の境界線が溶けて混ざり合ったかのような光景だった。四畳半の部屋に、歴史上の偉人たちが集まってきたかのような不思議な感覚。

「やあ、若者」フロムが口を開いた。「君たちの奮闘ぶりを見ていたよ。素晴らしい好奇心だ」

「その暗号、面白そうじゃないか」ザッカーバーグが続いた。「僕なら、AIを使って解析してみるけどね」

「いや、未来の技術を使えば、あっという間だぞ」マスクが自信たっぷりに言った。

「まあまあ、そう急かさずに」森見が笑いながら言った。「物語は、ゆっくりと紡いでいくものさ」

悟は困惑した。これは夢なのか、現実なのか、それとも単なる睡眠不足による幻覚なのか、判断がつかなかった。しかし、彼らの言葉に引き込まれていく自分を止められない。

「あの...皆さん、どうして僕の前に現れたんですか?」悟は恐る恐る尋ねた。

4人は顔を見合わせ、にやりと笑った。

「君たちに、暗号解読と恋愛のアドバイスを与えるためさ」フロムが答えた。

「恋愛?」悟は驚いて声を上げた。「僕たちは暗号解読をしているだけで...」

「ああ、でも君は気づいていないだけだ」ザッカーバーグが意味ありげに言った。「君と桜さんの関係、データ分析すると面白いことが分かるよ」

悟は顔を赤らめた。確かに、桜のことは気になっていた。でも、それはただの友情だと思っていたのに...

「さあ、暗号解読と恋愛、どちらも人生の大きな謎解きだ」マスクが言った。「我々が手伝おう」

「そうだね」森見が付け加えた。「君たちの物語は、まだ始まったばかり。これからどんな展開になるか、楽しみだよ」

悟は困惑しながらも、どこか期待に胸を膨らませていた。この奇妙な出会いが、彼の人生にどんな影響を与えるのか。暗号の謎は解けるのか。そして、桜との関係はどうなるのか。

図書館の窓から、夜明けの光が差し込み始めた。新しい一日の始まりを告げるその光は、悟の人生の新章の幕開けを象徴しているかのようだった。彼は深呼吸をし、決意を新たにした。

この不思議な出会いを、桜に話すべきだろうか。それとも、秘密にしておくべきだろうか。悟の心は揺れ動いた。しかし、一つだけ確かなことがあった。これからの日々は、決して退屈なものにはならないだろうということだ。

悟は立ち上がり、図書館を後にした。朝日に照らされた京都の街並みを見ながら、彼は微笑んだ。未知の冒険が、今まさに始まろうとしていた。

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