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撮影(1/4)

作者註)初出は、春の学園祭で販売された文芸同人誌『駒場文学』新歓号です。

 

 似た者同士は仲良くなりやすいだろうか? これはけっこう難しい問題であって、安直に仲良くなれる場合もあれば、お互いが似ているからこそ嫌いあって全く仲良くなれないということもある。まあ、言ってしまえばケース・バイ・ケースということで、きっと仲良くなれるパターンとそうでないパターンがある。

 では、その逆はどうだろう。つまり、自分と全くタイプが違う人とは仲良くなれるだろうか。もちろんこれもその相手や自分の状態によるところが大きく、きっとどちらとも言えないのであるが、近藤について言えば、僕は全くタイプが違う人間にもかかわらず、仲良くなることができた。


 僕は、こうやって文芸サークルの新歓号に小説を書いていることからもわかる通り、いわゆる文学好きであり、争いを好まず、悪口におびえ、自分が勝つことで誰かが敗北の屈辱を味わうくらいなら、自分の方から進んで負けてあげようと思うタイプである。一方、近藤という男は、勝負においては全身全霊をもって勝利を目指すタイプの男であり、その夢も、起業してデカい会社を作ること。つまり夢は特にないと言っているようなものなのだが、だからこそ勝負事において何か迷う必要もなく、全力でその目標の達成に邁進することができる。

 つまり僕らはタイプが正反対、もし僕らを引き合わせようものならたちまち近藤が僕をいじめ、僕はそれを黙って耐え忍び、いつの間にか彼のいないところに逃げおおせるしかないのであるが、なぜかそうはならなかった。


 僕らは、まあまあに仲の良い、お互いにとって居心地のいい関係を築いてきた。と言ってもその関係は少し変わっていて、なぜか僕らが話すときは近藤が敬語で、僕がため口という間柄だ。そもそもそういう口調になったのは、僕らが知り合ったとき、ちょうど彼が留年を決めた直後で、近藤が自分のことを一年後輩として紹介してきたからだった。去年の初め頃になって、全く同い年だし、なんと出身地域もかなり近くて、一時期(小学生の頃)同じ塾に通って同じ順位表で首位陣を争っていたということもわかったのだが、「いや、敬語って楽で好きなんですよね」という彼の一言で、僕はため口、彼は敬語という状態が継続されることになった。

 その言葉遣いも僕らの間柄を維持するのに一役買っているのだろうが、まあそんなことは実際の場ではもうどちらも気にせず、僕らはまあまあの良い関係を続けていた。「まあまあの関係」と繰り返すのは、つまり毎日会ったり、ラインしたりということはないが、たまに会って喋ったりなどするとお互いの調子が合って、飲みに行ったり、クラブに行ったり、その中で何かトラブルが起きたりしても僕らは自分たちでも驚くぐらいのコンビネーションの良さで問題を対処して、渋谷の真っ暗な路上の上で、お互いの対応の良さを褒め合いながら、ちゃっかり持ち出してきたワインを回し飲みして駅に向かう、みたいな感じなのである。

 まあ近藤の方が僕よりも交遊の範囲は広く、きっと誰に対してもこういう接し方なのだろうが、ともかく僕にとっては、会えば必ず何かしら、ほのかに記憶に残る良いことが起こる、そんな友人だった。


 そんな近藤であるが、彼女がいる。まあ、勝負事に強いし、これまでも常にそういうことに勝ってきた人生を歩んできたタイプの男だから、いかにも「いそう」ではある。

 ところで、この彼女というのが、彼と同じく夢は大きな会社の社長になることという女の子で、冒頭の問いの答えとしては「似た者同士は仲良くなる」側に答えを提出するパターンなのだが、しかし去年の冬の終わりごろに実際に会ってみると、どちらかといえば「こちら側」な印象を受ける人だった。というのも、どう見ても争うごとには向かなさそうな人で、何と言ったらいいのだろうか、ものすごくざっくり言えば、なんか「不思議ちゃん」的な感じのする人であった。

 こんな人が競争の中で生き残っていけるのだろうかと不安になってしまうのだが、実はこの彼女(山崎さんという)、すでにもう起業している。一体何の商売をしているのか、それは訊いてもいまいちよくわからなかったのであるが、B to Bの、つまり企業同士をつなぐタイプの仕事を確立したらしい。

「まあ、まだ従業員わたしだけだから、何とも言えないけどね~」

 近藤の作ったグラタンを食べながらそう言うその口調には、どことなく「こちら側」の印象を抱いてしまうところがあって、果たして彼女が近藤と同じタイプの人なのか、僕にはいまいちわからない。

 ところで、彼女が、自分の夢でもある「起業」を果たしているとき、負けを知らない男近藤は何をしているかという話になるが、さすが近藤だけあって、何もせず日々を浪費しているわけではないらしい。大学の授業にはあまり行けていない様子であるが、彼がどうやって始めたのか、またそれも謎であるが、芸能やその周辺の業界に食い込んで、かなりの額を稼いでいるようである。最近そこらの業界で「東大」が注目を集めていることもあり、近藤自身も少し戸惑うくらい順調に仕事が増えていったらしい。そんなわけで、最近は起業という夢も休みがちかといえば、もちろんそんなわけもなく、多忙のあいだを縫っていろいろと準備をしているようだ。僕自身がそういったことに興味がなくて疎いため何とも詳細については省かざるを得ないが、少なくとも山崎さんとは異分野らしく、変にお互いの内面や外面の諸々がぶつかるようなことはないようだ。

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