終曲
大きな窓のついた広い部屋に、パイプ椅子を2つ並べて。私と彼女は窓の方を向いて座っていた。
窓からは夕陽が差し込んで、白い薄手のカーテンがふわりと揺れる。
ショートヘアが印象的な彼女は熱心にクラリネットを吹いている。拙い運指で、同じフレーズを繰り返し、繰り返し。
確か、終曲のコラール『Jesus bleibet meine Freude(主よ、人の望みの喜びよ)』のトランペットソロを練習していた。
窓辺には椅子がもう一脚置かれている。カーテンが揺れるたび、視界から消えたり、現れたり。それは波打ち際に似ていた。
突然ぐらりと地面が揺れる。――倒壊する。咄嗟にそう思った。
5階か6階、もしかしたらそれ以上の階にいたのかもしれない。長い階段を駆け下りて振り向くと、そこには瓦礫の山だけがあった。
曲がった標識を目印に、どこかに帰ろうと歩いた。彼女はただただうつむいていた。その手にクラリネットは握られていなかったように思う。
道は緩やかな上り坂で、ひどく曲がりくねって見えた。けれど歩いてみるとただの直線道路のように感じた。
何人かの人とすれ違う。彼女は女性には丁寧に挨拶をするが、男性には異様に素っ気ない。それとなく聞いてみると、恨んでいるのだと言った。
地面に半分埋まるように、3列2段のロッカーが打ち捨てられている。その脇で警察官が2人、何かをしている。6つあるうちの、左下の扉からコードが何本も飛び出していて、一目でただ事ではないとわかった。
何をしているんですか。声をかけようとしたところで夢が終わった。
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