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“伝えることの大切さ” 語り場『道』 PART-4

【伝えることの大切さ】

小林
丹羽さん、ホント動画や写真得意ですよね。

丹羽
この動画、イギリスで今売ってる商品なんですよ。
イギリスの人たちは布団の作り方知らないので。
そういった外国の人たちに向けて、どういう風にプレゼンテーションができるんだろっていうところから、この動画を自分で撮って、自分で編集してるんですよね。

生地の裁断風景

※動画を見ながら
布団を仕立てるのは、全部手作業で作ってて、機械を使うところは、材料の綿を作ったり、生地を縫うのにミシンを使うぐらい。
本当に手でしか作らないので、どこでも仕立てれるっていうのがある。
ロンドンに行って実演を行った時も、別日にChelsea Physic Gardenでいきなり実演しました。

ロンドンでの実演風景
Crafting Japan  2019

MIJPの『COLORS』っていう動画を作ろうとしたのは、コロナ禍になって、会員の人たちと何も共有出来なくて、活動自体も難しかったので、会員の紹介をしたいなっていうのがきっかけなんです。

COLORSの撮影風景

そこで、 どんな動画撮ろうかなみたいな話になるじゃないですか。僕にとってモノ作りはかっこよく映らないと意味がないんですよ。撮り方がダサいとか、見ててあんまりだよなみたいな感じには絶対したくなかった。とにかく、かっこよくにするにはどうしたらいいんだろう、どういう風に伝えたらいいんだろうって。

それのきっかけになったのが、もう売ってないんですけど、2011年に発売されたエルメスの工房のモノ作りのことだけを撮ったDVD『Hearts and Crafts』。これはすごくモノ作りがかっこいいっていう撮り方をしてて。これを見た時に「あ、 これだ」と思ったんですね。

エルメス製作のドキュメンタリー映画 Hearts and Crafts 2011年

小林
この動画見ると、職人がプライド持って作ってるのがすごく分かりますよね。

丹羽
モノを作る人たちは、自分がやってることが“かっこいい”と思わずにやってることが多いんです。
だけど、この人達はさっき言われたようにプライドがあって、僕も同じ様に感じてて。
やっぱり、自分たちがやってることって、“かっこいいんだよ”っていうのを伝えなきゃいけない。
それをどうやって伝えようかなっていうと、SNSなどのツールを使うことになりますよね。
やっぱり動画の方が伝わりやすいから、そうするべきで。じゃあ簡単に携帯で撮ってアップすれば良いのかと言われると、そういうことでもないんです。しっかりと構成を考え、編集して、アップする。何も考えずに簡単に動画を上げてしまうとそれは自分のブランドを下げるだけなんで。

小林
僕も『COLORS』に参加させさせてもらってて、撮影に一緒に行ったりするんですけど、丹羽さんが職人さんの作業風景を撮って、それをその場でカメラでこんな風に撮れたよって、その職人さんに見せたら自分の動画を見て、「わ、かっこいいっ」て言うんですよね。
その時に丹羽さんがCOLORSを作ってる意義の1つに「自分たちの仕事はかっこいいんだ」っていうのを分かってもらうために動画を作ってるって話を聞いた時に、ああ、なるほどなっていうをすごく感じて、彼らは何気ないルーティンみたいな感じで仕事しちゃってるところあるけど、でも、それは普通の人じゃできないし、もっと誇りを持っていいことなんだって。

COLORSの撮影風景

丹羽
本当に全てのモノ作りがかっこいいっていう自負があるんですよ。
でも、適当に撮ったりしてしまうと単なる作業場でしかなく、結果かっこ悪くなってしまう。だから、それをどういう風にしていったらいいかなっていうのを、いつもCOLORSでは考えてる。
そもそも町の布団屋がかっこ悪いっていうのはあったんですよ。じゃあ、どうしたらかっこよく見せれるかみたいな。
多分僕のインスタ見て、「布団屋なんかかっこ悪いよね」って思う人多分いないと思うんですよ。

丹羽さんの製作風景

やっぱり“見せる(魅せる)”っていうことも大事。
もちろん職人なんで技術が1番大事だと思ってるんですけど、やっぱりそれを伝えるにはどうしたらいいかって言うと、SNSでの写真や動画だったり、デザインだったりする。
今日カメラを持ってきたのも、動画って大事だよねみたいな話をしたくて。
ただ撮るんじゃなくて、それをどういう風にアウトプットするかがやっぱり大事で、いつも「どういうアイデアで動画作ってるんですか」って聞かれるんだけど、物凄くいろんな動画見るんですよ。
過去にインテリアショップの社長が「元々自分はセンスはある人間じゃない」っていう人と話をしてて、じゃあ、どうやってやったらいいですか?って質問したら答えたが「とにかく見る・経験するしかない、それで養われてくるのがセンス」だと言われた事があったんですよ。それが根本にあるから良いと思う動画を見るようにしてます。

「これが好きっ」ていうのがあれば、別になんでもいいんです。
“好き”っていうところに向かって、とにかく行くと、自ずと“道”が見えてくるのかなっていう。
でも、好きなものがなくて、ぶれまくって「あ、これもいい、あれもいい」みたいな感じになってると、それは絶対に1本の筋にはいかないなって僕は思ってる。好きこそ物の上手なれですよ。

小林
ちょっと前に丹羽さんから何かの話の中で“真似ぶ(学ぶ)”っていう単語を聞いて、「あ、そういう単語があるんだ」っていうのを知って。
僕も実際に建物を色々と見るんですけど、インターネットで見ることも多くて、RSSリーダーというのを使って、色んなデザインサイトを隈無くチェックするようにしてて、それで気になったものは、写真を貯めて、個人でピンタレストみたいなの作ってるんですよ。パソコンの中に何万枚っていう写真がストックされてて、それが日本の住宅だったり、リノベーションであったり、店舗であったりとフォルダーがたくさんあって、それを見ながら設計をしたりするんです。

小林の蓄積した画像フォルダ

僕らのデザインって、『真似ぶ(学ぶ)』とか言うと「それって誰かのパクリでしょ」みたいなことをたまに言う人がいるんですけど、そうじゃなくて、今日はこの本を持って来たんですよ。『黒沢明の遺言』という本。黒沢明さんが書いてる本じゃなくて、黒沢さんがその年々で話した事が書いてある本。

黒沢明の遺言

本当にその年に言ったかわかんないですけど、36歳の時の言葉として書いてあるんですけど、

「誰かが言ってたと思うけど、想像というのは記憶ですね。自分の経験やいろんなものを読んで、記憶に残っていたものが、足がかりになって、何かが作れるんで、無から想像できるはずがない」

黒沢明の遺言

黒沢さんがこう言っちゃってるんですよ。 この人もだから、色々見てるんですよ。で、それが色んな蓄積になって、自分のオリジナルが生み出せてるんですよ。これ同じことをポールスミスも言ってるんですよね。あの人も本当に気狂いみたいにスナップ写真撮ってるんですよ。それを自分で貯めていって、次のクリエイティブに活かしていってるっていうのを知って、「あ、自分のやってることが間違ってないんだ、これでいいんだ」っていうがすごく分かった。

名古屋で開催されたポール・スミス展(2016年)
アイデアはどこからでも湧いてきます。
どんなものからでもインスピレーションを得られるのです。
と記載されていた彼の源となっている溜め込んだ写真やスケッチの展示風景
(小林撮影)

これを僕、“素振り”って言ってるんですけど、要はイチロー選手が素振りしてるのと一緒で。あの人は天才が努力しちゃったから、あんなすごいことになっちゃってるんですけど。
僕は天才じゃない。天才じゃないのに、この業界でやっていくって決めた人間が、どうやったら生き残れるのかって言ったら、もう人より何倍も努力するしかない。
じゃあ、僕のデザイナーとしての努力は何って。仕事をこなす前に知識として入れなきゃいけないんです。どれだけ素振りををするか。どれだけ先人の素晴らしいものを見るかだと思ってる。

だから、もう何万枚っていう写真でイメージを膨らましていって、例えばレストランをやりたいって言われた時も今まで見たものが蓄積で結果これができてるみたいなところがやっぱある。

小林がインテリアデザインを手掛けたレストラン:bistro La vie
(Photo:VA.Inc)

丹羽さんも動画見まくるっていう、そこはすごく僕も共感できてで、僕も設計の業界の若い人たちから「何したらいいんですか」とか言われるんですけど、「そりゃ建築やインテリア見に行けばいいじゃん」ってとにかく見ろって。僕だって、東京や県外とか、名古屋でも新しい商業施設出来たら、上から下の階まで全部見ますからね。
それを全部写真撮っていって、事務所でそれをフォルダに分けて行くっていうことを繰り返していってる。それがあるから、僕はまだやれてるとかっていうのがありますね。
それをしないとうまくなんか慣れたりしないですね。

丹羽
僕が作ってる動画はもそうだし、仕事もそうなんですよ。
父親の仕事を見るっていうのもだし、全国にいい職人がたくさんいるので他の職人の仕事もめちゃくちゃ見てて、「あ、この人のこの技っていいよな」っていう布団職人の技がたくさんあるんですよ。

丹羽父の作業風景

PART-5【次の世代のきっかけに】へ続く

PART-1 【それぞれの歩んできた道】
PART-2 【きっかけは1枚の布団の写真】
PART-3 【きっかけは1脚の椅子】

プロフィール
丹羽拓也(にわたくや)
instagram 
@niwatakuya
1978年生まれ
丹羽ふとん店 5代目
寝具製作技能士一級
ふとん職人としては2011年に第26回技能グランプリにて優勝。
日々のふとん制作だけでなく、ふとんを通じた様々な活動を積極的に取り組む。
学生時代からの趣味の動画制作や写真撮影を活かし、SNSなどを利用したり、実演、ワークショップなど、ふとん職人として、インテリアやアパレルなど多岐にわたり挑戦。
あらゆる取り組みから、伝統の技法を使い「現代のふとん」の価値を見出している。
2017年 レクサスが主催となり、日本の各地で活動する、地域の特色や技術を生かしながら、自由な発想で、新しいモノづくりに取り組む若き「匠」に対し、地域から日本全国へ、そして世界へ羽ばたくサポートをするプロジェクト“LEXUS NEW TAKUMI PROJECT”に、全国から選出された51名の「匠」の一人として選ばれる。 
2019年 ロンドンの日常の暮らしに溶け込ませる尾州の毛織物を使ったプロダクトを持って、新たな挑戦としてLondon Craft Week 2019に参加。 
https://niwafuton.com/

プロフィール
小林正和(こばやしまさかず)
instagram  
@iks_kobayashi
1979年生まれ
イクスデザイン 代表
学生時代からの家具好きが昴じ、家具からインテリア、建築へと興味が広がり大学卒業後、設計事務所へ入所。
岡山、東京の設計事務所を経て、2012年にイクスデザインとして学生時代を過ごした名古屋で独立。
現在は東海圏を中心に建築設計、インテリアデザインを行う。
手掛けたお店やクリニックなどを国内外の書籍やデザインサイトにて紹介される。
http://iks-d.jp/

ナナメにつながるきっかけを”をビジョンに掲げ活動するMIJP(NPOメイド・イン・ジャパン・プロジェクト)にご興味を持たれた方は是非リンクよりお問い合わせください。


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