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大学生ヨーロッパピーススタディツアー開催レポ③

こんにちは!インターンのあやかです。今回はヨーロッパピーススタディツアー最終日についてご報告します。


この日はポーランドでムスリムに関する正しい情報を発信することを目的としたメディアを運営し,ムスリムに対する社会の理解を深めるための活動を行う平和ラボのカロルさんにインタビューを行いました。

まずはスロバク・スペクテイターというメディアに掲載されている記事を読み,カロルさんがどのような活動をしているのか,そして活動を始めた経緯などを知ったうえでブレイクアウトセッションに分かれて質問を考え実際に質疑応答を行いました。

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インタビューの中で最も印象的だったのは,「物事を白か黒かどちらかでしかとらえらない価値観」が差別の土台になっているというカロルさんの考え方です。私は,この世界は簡単に線引き,カテゴライズすることが出来ないものであるという意味だと解釈しました。

つまり,人種やジェンダーといった恣意的ともいえる区別を当然のように基準にする価値観自体を見直さなければならないということです。例えば,人種に関していえば,ハーフやクオーターの人はどこに属するのでしょうか。また生まれ育った環境によっては自分は○○人であるというアイデンティティが明確に定められない人もいます。

このように,そもそも人々をカテゴライズすること自体無理があるにも関わらず,カロルさんが警鐘を鳴らすように○○人だから,LGBTQだから~と一方的にイメージを当てはめることは,ナチスが「ユダヤ人」というカテゴリーを創り出したことと,根本的には変わらないのではないかと思います。

ホロコーストにおいて排除の対象となったユダヤ人という人種,概念はナチスが政治的意図のもとで,本人がユダヤ教を信仰しているかに関わらず血筋などで勝手に線引きしたものです。私たちは,○○人の誰々というようにカテゴリーというフィルターを通してではなく,目の前にいる人をありのまま受け止め,接する必要があるのだと実感しました。それが,カロルさんが目指す「草の根レベル」からの平和実現なのだと思います。


カロルさんがおっしゃる「物事を白か黒かでしか考えられない」「ステレオタイプにとらわれる」というのは自分にも当てはまり耳が痛いお話でした。そのような自分の考え方の癖を意識的に変えていかなければならないと強く感じました。また今後も継続して,差別について学び考えていきたいです。

今回インタビューを引き受けてくださった平和ラボのカロルさん,そしてご参加くださった大学生の皆様ありがとうございました!

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以下はインタビューの議事録です!興味のある方はぜひご一読ください。


Q1. マイノリティを攻撃するひとになぜ優しくいられるのか。
A1. テロリストや攻撃する人に実際会ったことがないからその人たちに対してもオープンでいられるかわからない。また,イスラム教徒の友達のなかでも好きな人も嫌いな人もいる。そもそも○○人だから~とイメージを決めつけることがよくない。ポーランド人の中には世界大戦の歴史からドイツを嫌悪している人も多く,日本と中国,韓国との関係も同様ではないか。しかしその歴史がすべてではない。憎しみを持った社会は自分だけでなく子供達にも悪影響を及ぼすから,そのような社会は変えなければいけない。

Q2. ポーランドにおいてムスリムに対する差別が問題になっているが,ムスリム自身は差の理由についてどう思うか。別の理由についてどう思うか。
A2. 第一に宗教の違いであるが,キリスト教で差別を正当化しているわけではなく,教義自体に問題があるわけではない。第二に政治である。右派政権は選挙のたびに移民,ドイツ,LGBT,ユダヤに対する恐怖を煽る。「私たちはそれらの恐怖から守る」といううたい文句によってである。第三に教育である。若者にどのような教育をすべきなのかを考えなければならない。今は誤った情報が広まっている。それに基づくヘイトスピーチから暴力,虐殺へと差別が発展,変化していく。(Gordon Allport)物事を白黒はっきりと区別する考え方も問題ではないか。

Q3. メディアの報道の仕方は変化したか,ムスリムは自分たちの報道のされ方にどう思っているか。
A3. 状況は悪化している。ポーランド政府が公共メディアに介入していて,イスラムへの憎悪が扇動されている。独立,リベラル系メディアもあるがステレオタイプばかり報道されている。例えば「Ikigai(生きがい)」という本が出版されているが,日本人には幸せ,長寿の秘訣があるのだと思われている。これはポジティブなステレオタイプかもしれないが,このようなステレオタイプがネガティブなものであった場合を想像してほしい。

Q4. コロナによって難民移民,ムスリムにどのような影響があったか。
A4. パンデミックを盾に人権を軽視する政府はポーランドだけではないだろう。ブラックマーケットで雇用されている人も多いためコロナの影響を名目に解雇された失業者が多い。ヘイトスピーチも増加している。ワクチン,医療サービスなど移民はすべて後回し,最後である。礼拝堂は約1年間閉鎖されていて,よりどころを失い心理的にも苦しい状況に追い込まれている。

Q5. 一人の悪い移民がいただけで移民全体が悪い(One bad apple spoils the barrel.)と主張する人々もいるが,そうした人々にはどのように反論できるか。
A5. 政治家がそう主張する場合は票が欲しいからである。例ではなく事実を提示する必要がある。身近な人々だったら政治家の犠牲になっている,恐怖を感じているのだといえる。ソクラテスの問答法で「なぜ」と問いかけることが必要。言い負かそう,説得しようとするのではなく,共感力を用いた非暴力のコミュニケーションを行わなければならない。

Q6. ポーランドにおけるイスラムに関する教育はどのようなものなのか。
A6. 宗教の時間にたった1回だけマイノリティの宗教について学ぶ。歴史でも1回だけ触れられるだけで,多くの場合は紛争の歴史に登場するため,イスラム教と戦争がイメージで結び付けられるのも無理はない。しかし個人での出会いの体験によって価値観は変化する。そこで平和ラボは,以下のよう
な活動を行っている。
・難民を生徒,教師,出入国管理官に出会わせる
・平和,寛容をテーマにしたワークショップ
・ガーデンパーティーの開催・交流を促す,母国の料理をふるまう
・連帯の意識をはぐくむためのイベント

Q7. 共産主義国家であった歴史と移民に対する差別の関係についてはどのように考えているか。
A7. 大きく関係しているだろう。民主化した後も教育システムが変わらず,かつては海外との交流も少なかった閉鎖的な社会で,人々が簡単にコントロールされてしまった。その結果白か黒か二分させて考える傾向が人々の間に生まれている。これがポーランドにおいて差別につながっている。

Q8. ポーランドはドイツからの和解のアプローチをどう捉えているか。
A8. ドイツは毎年謝罪を繰り返しており,若者世代は気にしていない。しかし高齢者たちはいまだに敵意を持っている。政治家も「親独である」とメディアを批判するなどその恐怖を煽っていて,例えばポーランド野党がロシアやドイツの影響を受けていると喧伝している。