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コロナの時代のNPOについて思うこと | 岡山NPOセンター 代表理事 石原達也さん①

「おかやま親子応援プロジェクト」の“呼びかけ人”、特定非営利活動法人 岡山NPOセンターの代表理事をつとめる石原 達也さんのロングインタビューを2回に分けてお届けします。今回は〈前編〉です。

学生時代からNPO法人を設立し、現在も両手では数えきれないほどの団体で社会課題の解決に向けた活動を続ける石原さん。2時間以上におよんだインタビューでは、コロナ時代のNPOの役割から、地方創生の「当事者」問題、社会課題解決に取り組むすべての人におくる「しなやかな覚悟」のススメ……さらには児童文学の名作「エルマーのぼうけん」に学ぶ課題解決の真髄(?)に至るまで、縦横無尽に語り尽くしていただきました!

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なぜ今、NPOなのか?

——石原さんは学生時代を含めてキャリアのほぼ全てが、NPOなどのいわゆるソーシャル・セクター(※1)での活動ですよね。最初からもうこの道で行くと決めていたんですか?

もともとは環境省に入るつもりで進学先とか選んでいたんですよ。小学生の頃に漠然と「自然を守る仕事につきたい」と思い始め、中学生の時に「環境省に入りたい?じゃあ林業の勉強しなさい」と言われて、普通科ではなく林業緑地科のある高校を探して進学したんです。で、在学中に環境省に入省するための試験には通ったんですけど「採用枠がない」とハネられちゃいまして(笑)。その時に「鳥取大学の先生が中国の砂漠緑地化の研究活動やってる」ということを思い出して面白そうだなと思って受験したら運良く入れたんです。そこでNPOというものに出会って今に至る、と。

【※1:ソーシャル・セクター】
ソーシャル・セクターとは、パブリックセクター(公共セクター:行政府など)、プライベートセクター(民間セクター:企業)とは異なる中間的な立場をとるセクターのこと。非政府組織や非営利団体などの活動主体をとることが多い

——後半だいぶ端折りましたね(笑)。

長くなっちゃうので(笑)。大学の部分を少し補足すると、在学中に学生だけのNPO法人を立ち上げたのをきっかけにこの世界に入りました。そこから鳥取県内で市民活動の支援や新しいNPOの設立に携わった後、地元である岡山NPOセンターに事務局長として呼んでいただいて、それ以降は基本的に岡山を拠点に活動しています。岡山NPOセンターではもう15年になります。

岡山NPOセンターのベースとなる事業は「NPOの経営支援」ですが、実際は法人格に関係なくさまざまな市民活動や社会事業をサポートしています。その一環として、ボランティアやインターンシップなどの地域課題解決に向けた市民活動への参画支援も行っていますが、若い世代を中心にソーシャル・セクターへの関心の高まりはビシビシ感じていますね。

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——なるほど。石原さんはそういったここ数年のソーシャル・セクターへの関心の高まりをどう見ていますか?

市民活動が活性化する一つの大きなきっかけは災害です。2010年代は歴史的な震災や豪雨による土砂災害などに見舞われた10年間でした。それは同時に、災害の度に浮き彫りになる行政府の体力の限界——行政だけではカバーしきれなくなった個々の問題を、民間団体や当事者同士が主導して解決していく——といったことが繰り返された期間でもありました。その結果、市民活動を行う主体の枠組みとして、NPOなどのソーシャル・セクターの認知が広まっていったんだろうと思います。

——2020年は、なんといっても新型コロナウィルスの感染拡大という世界規模の“災害”がありました。依然としてまだ先が見えない状況ですが……。

コロナのことで大きいのは、全員が一斉に被災当事者になったということだと思います。今は「ニューノーマル」なんて言葉が使われていますけど、要は今までみんなが当たり前だと思っていた価値観が崩れてしまったので、半ば強制的に急ピッチで新しい価値観をこさえて、それに適応していかなければならなくなるわけですよね。そういった局面では、必ず行政主導の施策だけではカバーしきれない層が出てきてしまう。そういった人々の直面する問題に目を向け、当事者の近くに寄り添い、時に代弁者としてその解決に取り組むNPOのような存在が果たす役割はどんどん大きくなっていると思います。

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コロナが生んだ「連帯」

——コロナ禍に「おかやま親子応援プロジェクト」をスタートしたのも、そういった状況を受けてのことなんですね。

はい。岡山に限らず、コロナの影響によって一人親世帯や貧困家庭を中心に、安定した収入が断たれてしまったり、家庭にインターネット環境がない場合は子どもの学習機会が十分に確保できなかったりする状況は問題視されていますよね。子どもに限らず、親の側の不安感の軽減は虐待などの防止にもつながりますから、まずは岡山の中でできることをやろうと、「おかやま親子応援プロジェクト」を立ち上げました。

——あえて、プロジェクトという新たな「枠組み」をつくったねらいを教えてもらえますか?

このプロジェクトは、県内のNPOから個人で支援活動をしてる方まで、さまざまな組織が横断的に参画できる枠組みです。一言に「コロナで困っている親子をサポートしよう」といっても、当然各家庭でお困りごとは違うわけです。日中の子どもの預け先に困っている方もいれば、虐待やDVから一時的に逃れるシェルターが必要な家庭もあります。

コミュニティ内の個々の課題に取り組めるのは、ソーシャル・セクターの強みですが、一方でそのリソースはかなり限られています。各組織がバラバラに支援活動を進めていてはすぐに限界が来ます。まずは、支援する側が連帯し体制を整える必要があると思ったんです。今回、プロジェクト化したことで、各団体が持つネットワークや外部からの支援も取り付けやすくなりました。また、クラウドファンディングでは目標額を上回る運営資金も調達でき、結果として多くの家庭に支援活動を届けることができたと思います。

——なるほど。コロナが連帯を後押しする格好になっているのは、少し面白いですね。

そうですね。NPO同士、活動団体同士のヨコのつながりの構築はコロナ以前から課題としてはあったんです。それが今回のコロナで連帯に向けた動きが一気に加速した感は正直ありますね。それに、こういった例は何もソーシャル・セクターだけで起きていることではありません。岡山県内の例でいうと、飲食店やライブハウスがコロナを機に連携して、営業再開に必要なコロナ感染対策のガイドライン策定を働きかけるという動きも生まれています。

——個々で頑張っても、行き詰まるのは時間の問題。ならば、競合とか言ってないでとりあえず助け合ってできることをやろう、と。

はい。従来の枠組みの中だとどうしても、業界内の力関係だとか、経済的な競争原理を前提にコトを考えてしまうのですが、それが今回のパンデミックで前提ごとひっくり返ってしまったということなんだと思います。

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「共助」のサステナビリティ

——でもNPO同士のヨコのつながりが弱い、というのは少し意外でした。飲食店などは「まあ競合同士だしね」と分かる気もするのですが。

もちろん全然ないわけではありません。近い活動内容の団体同士で集まって、活動報告会や最新の法制度についての勉強会などは行われていたりはします。ただ、もう少し踏み込んで業界団体や共済のような「自分たちで自分たちの活動を守る」ための連帯の枠組みは、まだあまりないと思います。

——民間ほどコロナの煽りをくっていないとか、そういうことなんでしょうか?

いえ、それは大ありでして。悠長なことを言ってられないのが現実なんですよね。たとえばNPOの中には「障がい者の雇用創出」の活動をしている団体もいたりします。コミュニティ内の飲食店から業務を受注して、割り箸を納品したり、商品の梱包作業を請負ったりして収入を得ている人たちがいるわけです。でも、コロナで飲食店も苦しい時にそこまで仕事が回るかというと、厳しい。すると最悪、連鎖倒産みたいなことが起きてしまう。これは一例ですが、そういうことが至るところでおきてもおかしくない。

ソーシャル・セクターの活動は最近よく耳にする「自助・共助・公助」でいうところの「共助」にあたるものですが、その活動主体となる組織の運営基盤はサステナブル(※2)とは呼べないものの方が多いと思います。

【※2:サステナブル/サステナビリティ】
サステナブル(Sustainable)とは、「持続可能な」という意味。サステナビリティは「持続可能性」。主に自然にある資源を長い期間維持し、環境に負荷をかけないようにしながら利用していくことをさすが、ここでは「事業活動の継続性」という文意で使用

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セーフティネットとしての「連帯」

——運営基盤が不安定だと、若い世代のキャリアの選択肢にもなりづらいですよね。ヒトもカネも入ってこない、ジリ貧の消耗戦にならないためにはどうしたらいいのでしょうか。

そこはちょっと私も具体的に動き始めていて、一つはNPOの共済を作ろうとしています。要はNPOに従事する方々の共同組合のようなものを作って、福利厚生の面であるとか退職金の積み立てであるとか、運営基盤の安定につながる互助の枠組みにしたいと思っています。今、全国の団体に声掛けをしながらネットワークを広げていっている段階ですが、将来的にはその組合の中で「ヒト」「モノ」「カネ」を共有して、必要に応じて流動的に資源を動かせるような仕組みを作れればと考えているところです。

——ここでも「連帯」という話になるんですね。

そうですね。コロナ以降、変化のスピードは加速する一方ですから、個々でそれらに対応しようと思うと相当つらい戦いになると思うんですよ。大変なときに「大変だから助け合おう」と言えるようなセーフティネットとして機能する「連帯」の枠組みづくりは、ソーシャル・セクターに限らずあらゆるセクターで重要になってくるんじゃないでしょうか。

——たしかに……そのためにもまずはできるところから、ということになると思いますが石原さんとしてはどのあたりから手をつけていきますか?

岡山NPOセンターの「地域連携センター」という事業部は、ある意味でコミュニティの編集のような側面もありまして。似た活動をしているNPO同士をつなげたり、SDGsや災害をテーマにした交流イベントなども開催しているので「連帯」の後押しをしやすい立場にいると思っています。

なので、私の役割としてはさきほどお話ししたような共済などの連帯で強くなる取り組みをすすめること。いわばNPOなどの運営基盤を安定したものにするためのインフラ整備ですね。そういった活動を通じて、若い世代がソーシャル・セクターでの活動に参画しやすくなる土壌をつくっていければと思っています。

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記事の〈後編〉はこちら→ 「変化を起こせるのは、消費者ではなく“当事者” | 岡山NPOセンター 代表理事 石原達也さん②」

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文:前川達彦(楽天株式会社)
インタビュー:前川達彦・崎村奏子・渡辺愛(楽天株式会社)
取材協力:特定非営利活動法人 岡山NPOセンター
写真提供:有安 紀(公益財団法人 YMCA せとうち)