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変化を起こせるのは、消費者ではなく“当事者” | 岡山NPOセンター 代表理事 石原達也さん②

「おかやま親子応援プロジェクト」の“呼びかけ人”、特定非営利活動法人 岡山NPOセンターの代表理事をつとめる石原 達也さんのロングインタビューを2回に分けてお届けします。今回は〈後編〉です。

学生時代からNPO法人を設立し、現在も両手では数えきれないほどの団体で社会課題の解決に向けた活動を続ける石原さん。2時間以上におよんだインタビューでは、コロナ時代におけるNPOの役割から、地方創生における「当事者」問題、社会課題解決に取り組むすべての人におくる「しなやかな覚悟」のススメ……さらには児童文学の名作「エルマーのぼうけん」に学ぶ課題解決の真髄(?)に至るまで、縦横無尽に語り尽くしていただきました!

〈前編〉はこちらから→ 「コロナの時代のNPOについて思うこと | 岡山NPOセンター 代表理事 石原達也さん①

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「当事者問題」と「しなやかな覚悟」

——少し話は変わりますが、石原さんはNPO活動のキーワードとして「当事者性」という言葉をよく挙げられていますよね。そこに込めた意図を伺ってもいいですか?

NPOに限らずですが、地方創生、地域づくりの取り組みなどをしていると「当事者じゃなきゃだめですか?」という質問を受けることが多いんです。答えとしてはまったくそんなことはなくて、「当事者=そこに住んでいる人」ではありません。関係人口(※1)なんて言葉もありますが、別の土地で暮らしていても「その地域のために何かしたい」という思いがある時点でもう「当事者」だと思います。

【※1:関係人口】
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと。若い世代を中心に、地方創生活動などの担い手不足の解消が期待されている

ただ、やはりアイデアはあってもそれを実行するのが一番大変なわけで。地域外から協力者としてきてくれた人が、手は出さずに口だけ出す、じゃないですけどキラキラしたアイデアを出すだけ出して「じゃ、あとはよろしく!」じゃ困るわけです(笑)。要はコミットの問題で。アイデアなんて100あったら2つ3つ実行してそのうち1つでも継続的に機能すれば万々歳だと思うんですよ。それにはどうしても、その地域に根ざして地道にアイデアを実行して、そこにギャップがあればプランを見直して、またそれを実行して……という長期間にまたがる継続的な関わりが必要なんです。

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——なるほど本当そうですね……耳が痛いです(笑)。

(笑)。ですから、「当事者」として地域の外から関わろうとしてくださっている人たちと共有したいのは、「当事者」である期限を決めずに、全く活動できない空白期間があってもいいので、ある意味、ゆるく、細く、長く、柔軟にやり抜いていこう……という思いですね。

私はそういう心の持ちようを「しなやかな覚悟」と言っているんですが、これはソーシャル・セクターでの活動をする人にとって結構重要なマインドなんじゃないかなと思っています。だって社会や地域の課題が、アイデア一発で解決するなんて都合のいい話があるはずないじゃないですか。私も岡山NPOセンターで数々の企画を立ち上げ、頓挫させてきた実績の持ち主ですが、職員のみんなには「いやいや、失敗してないから。今は寝かせてるだけだから」とよく言うんです(笑)。

——サステナブルですね(笑)。

でしょう(笑)。まあでもこれは半分冗談、半分本気で。今のタイミングではうまくいかなかったけど、数年後にはうまくいくアイデアかもしれない。次、誰かの力が一人分加わるだけで、事態が思わぬ方向に進むかもしれない。「この期間内にこの課題を解決する!」というコミットの仕方の重要性は理解した上で、こと社会課題・地域課題の解決を目指す上では「取り組み続ける」ための覚悟の方が、結果的に具体的な変化を生み出していける気がするんですよね。

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消費者と当事者の間で

——地域社会に良いインパクトを生み出す、という点から考えると今はビジネスセクターでもSDGsをはじめ「ステークホルダー資本主義(※2)」のような言葉もちらほら聞くようになってきましたし、NPO以外のアプローチも増えていきそうな気がします。そうした中で、今後のNPOのあり方について石原さんはどう考えていますか?

おっしゃる通りで、社会課題への取り組み方は昔に比べてずいぶん多様になりましたよね。身も蓋もない言い方をあえてしますと、NPO法人じゃなくてもそれぞれの事業や生活スタイルに合わせて、一番いい組織形態を選べばいいと思います。そこはもう完全に「手段」の問題なので。そもそもビジネスセクターの事業が社会課題を解決していないかっていうと、そんなこと全然ないじゃないですか。本質的に事業というものは「あなたのお困りごとを解決しますよ」というところから始まるわけですから。

【※2:ステークホルダー資本主義(キャピタリズム)】
企業は株主だけでなく従業員や地域社会、サプライヤーなどあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきだという考え方。株主の利益を最優先する「株主資本主義」と対比され、国連の持続可能な開発目標(SDGs)やESG投資の広がりなどを受け、社会課題解決に向けた活動が企業経営で重視されるようになったことが背景にある

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あえてビジネスセクターとの違いについて話すなら、一概には言えないものの、たぶん「経済規模の拡大」と「受益者との関係性」の2つになると思います。前者の「経済規模の拡大」はシンプルに、事業活動の前提に「経済的にスケールしていく」ことが組み込まれているかどうか、より多くの顧客を獲得していくことが目的化されているかどうかの違いです。

そして「受益者との関係性」。これはサービスの受け手が、そのサービスに対してなんらかの参加意識を持っているかどうかということです。少し乱暴に言うと、何かのサービスを受けたときに「金払ってるんだからちゃんとしてくれよ」と考えるのが消費者、「こうした方がもっと良くなるかも。次会ったときに伝えてみよう」と考えるのが参加意識をもつ人=当事者です。NPOの提供するサービスは明らかに後者の性質の人たちによって成立している部分があると思います。

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——海外のNGOなどでもサービスを受ける側だった人が、提供する側に回れるような仕組みを導入しているという話を聞いたことがあります。

そうなんです。NPOなどの活動って、サービスを提供する側と受け取る側の垣根がきわめて曖昧で、そこが素晴らしいところだと思うんですよね。「サービス提供者↔消費者」という二項対立の枠組みから逃れやすいというか。

——それでいうと「税金払ってるんだからちゃんとしろ」は完全に消費者的な物言いですね。

行政府の仕事を市場経済の視点からだけ見ていると、そうなっていきますよね。こういった言説は正論に聞こえるんですけど、それだと社会が良い方向に変わっていく気がしないんですよね。「サービス提供者↔︎消費者」という構図が強まるのはどこかで歯止めをかけないといけないと思います。

――それでも消費者という立場は、受け身で文句だけ言ってられるのでやはりとっても楽チンです。私も偉そうなことは全く言えません(苦笑)。

私がよく言うのは「自然治癒力の高いまちを目指す」ということです。病気になって薬を飲むことも必要だけど、病気にならない身体にする。地域社会にある大小の課題すべてを行政府や自治体だけに任せるのは土台無理な話なんです。そういう小さなほつれを、当事者同士で助け合える枠組みがないから私たちNPOのようなソーシャル・セクターが必要になるわけなので。いわば免疫力のような。

ただの消費者ではなく、参加意識を持つ消費者を増やすことが重要です。難しいことだと思いますが、それでも一人ひとりが当事者だってことに気づかないと何も変わらないし、変えられない気がします。逆に言うと、そこが変われば希望はあるんじゃないか、っていうのが僕のちょっと楽観的な見方なんですけどね。

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エルマーが教えてくれること

——では最後に、ここまで読んでくださった方の中には、今後いろいろな方向からソーシャル・セクターに関わりたいと思っている方もいると思うので、未来の「当事者」の皆さんに向けて何かメッセージをお願いします。

そうですね。少し話が飛ぶんですけどあの……「エルマー」って知ってますか?

——あの「エルマーのぼうけん」とか「エルマーとりゅう」とかのエルマーのことですか?

ですです。児童文学なんですけど、そのシリーズが私超大好きでして(笑)。で、冗談ではなくその中にソーシャル・セクター的に非常に大切だなと思うエピソードがあるんですよ。

――ぜひ聞かせてください。

苛立っているライオンに出会ったときのエルマー少年が、どうその状況を切り抜けるか……という話なんですが、エルマーは自分の食料であるキャンディを差し出す前に、ちゃんと「なぜこのライオンは苛立ってるのか」を考えるんです。すると、たてがみに小枝が絡み付いてとれなくなったのが原因でライオンが苛立っていることがわかるんです。そこで、キャンディではなく小枝を取ってあげ、櫛でたてがみを整え、リボンの結び方を教えてあげたりすることでライオンの機嫌を直し、難を逃れるんです。

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普通は、まず自分が持っている唯一の食料である「キャンディ」を差し出すくらいしか思いつかないじゃないですか。当時子どもだった私もそうでした。でもそれって「ライオンが苛立っている」→「原因は腹が減っているからに違いない」→「焼け石に水でもキャンディで何とかごまかすしかない」という思考ですよね。でも実際は「腹が減っている」以外に「たてがみに小枝が絡まっている」という原因があり、むしろこちらが本質的な「困りごと」だったりするわけです。

——なるほどなるほど。

つまり、不測の事態の中でも、冷静に他者への想像力を働かせ分析する力と、固定観念にしばられず柔軟に状況を打開するソリューションを導き出す発想力。この2点においてエルマーはズバ抜けた能力を持っていると言えるんです。そしてそれは、当事者のすぐ横で「見落とされがちな困りごと」を発見してその解決に向けて細やかにソリューションを提供するNPOにこそ、求められる力だと思うんです。

――「細やかなソリューション」というのは本当にそうですね。「たてがみが絡まって苛立っている」という問題を把握できたとしても、「じゃあ、全ライオンに櫛とリボンを配ります」じゃソリューションにならないよ、ってことですね。

櫛もリボンも、そもそもいらないという人だっているわけですから。それこそ「そんなんだったら食べ物がほしい!」って声もあるわけで。そういったマス的な課題解決のアプローチからこぼれ落ちてしまう人たちに対して、いかにサステナブルに、効果的なソリューションを提供できるか。これが私たちソーシャル・セクターの永遠の課題だし存在意義でもあると思っています。……ってなんだか、最後の最後に話がズレてしまった気がしますが大丈夫ですか(笑)。

——たぶん、なんとか着地できたような気がします(笑)。

ならよかったです。

——本日はありがとうございました!

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文:前川達彦(楽天株式会社)
インタビュー:前川達彦・崎村奏子・渡辺愛(楽天株式会社)
取材協力:特定非営利活動法人 岡山NPOセンター
写真提供:有安 紀(公益財団法人 YMCA せとうち)