コラム「境を越えた瞬間」2022年5月号‐森川誠さん‐
プロフィール
森川 誠 (もりかわ まこと)
1964年静岡市生まれ。現在58歳。
2017年11月、右脳内出血発症。
現在、左半身麻痺、高次脳機能障害となる。
元一般社団法人代表理事、犯罪者の社会復帰支援をしていたが、現在解散。
まさか自分が身体障害者なんて、境を越えちまったよ!
2017年11月朝、私は身体の異常により救急搬送されました。
病名こそわからないその時においても、「やばい状態」は認識できたのは面白いと言える。
結果、右側脳内出血。
身体全体が痙攣をおこしながらも、片手に20㎏の物を持っていたので大量の出血となったのかもしれない。
担当医師からは脳内出血でも重度との宣告です。いわゆる通称「片麻痺」さんとなったのです。
現在、高次脳機能障害という厄介な後遺症と共に左側半身麻痺なのです。
そこに至るまでの私は、罪を犯した人、犯しそうなギリギリの人の支援活動をしていたのですが、これも停止となりました。
入院中、出所者の受け入れも決まっており、これも放棄せねばならないこととなりました。
大きな反省と自己否定が強化され、入院中から鬱傾向に入りました。
健常者から、一気に重度な身体障害者に移行し、まともな気持ちが保てなかったのは言うまでもありません。
入院中はずっとそんな状態でしたので、正直、お見舞いで面会に来て頂くのも気乗りしないことでした。
病室に餃子を密輸してもらっても、飲み込みができないやら、飲み物すら上手に飲み込めない有様。
次第に生きる気力が枯渇し、自分攻撃の毎日でした。鬱傾向はこれからです。
「死んだら楽になる」そう思うようになりました。
そして退院。
個人事業の仕事もたたみ、職探しもせず、毎日、意識が朦朧としているだけで、少し頭がおかしい時だったと思います。
そんな時、知人から電話があり、「東京の岡部さん(※1)が会えないかと連絡がありましたが、どうされますか?」という連絡が。
リアゼミ(※2)で岡部さんの人柄を聴いていましたので、是非一度お会いしたいと即答でした。
岡部さんは地方の帰りで静岡で途中下車、やっと私は彼とご対面となりました。ALSのことは、付け焼刃程度の知識しかありませんでしたが、指定の場所でワクワクしながら待ち対面が実現したのです。
ヘルパーさんを介しての言葉の交流でしたが、私の印象は彼に全てを見透かされているような気恥ずかしさがあり、彼の眼は「若僧、何をメソメソしておる、情けない」と言われているような錯覚から、瀕死の状態から離脱のキッカケが得られた感覚に変わり、この日以来、私の心に火が灯りました。
何かを越えたものがありました。患者風情を許さない男の具現化を見ました。
病後、多くの人に助けられていますが、特に岡部さんは私にとって恩人となっています。
鬱傾向では学びも多くありましたが、同じお困りさんの支えになればと思うようになり、活動も再開。ALSでありながら戦う男、患者風情を許さない男の具現化の岡部さんに感謝しています。
まさか自分が障害者だなんて考えもしない、これは、自分勝手な迷信だったなと痛感しています。
脳内出血でも岡部さんの内側に入ることができたこと、境を越えたと言わせていただきたい。これは今もって至極ありがたいのです。
※1 当法人理事長 岡部宏生
※2 「障害者のリアルに迫るゼミ」の略称。東京大学や早稲田大学にて行われているゼミに、講師として理事長岡部が参加している。