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刑務所ってどんなところ?処遇や分類、受刑者と刑務官の関係を概観

受刑者・出所者の社会復帰支援に取り組むNPO法人マザーハウスの理事・風間勇助です。
今回の記事では、そもそも「刑務所」とはどのような場所なのか、受刑者たちはそこでどんな生活を送っているのかについて、法務省が発行している『日本の刑事施設』や他の資料をもとに、基本的な情報をまとめたいと思います。

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法務省矯正局『日本の刑事施設』

2019年7月時点では、全国に61の刑務所と、6つの少年刑務所があります。こうした刑事施設は、法務省が所管しており、法務省矯正局及び全国 8箇所に設置されている矯正管区が各施設の指導監督を行っています。
※参考:『日本の刑事施設』(法務省)[PDF]

刑務所の運営に関する法律

刑務所の管理・運営を定めた法律は、2007年に施行された「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」です。同法の前身は明治41年(1908年)の「監獄法」と呼ばれるものでした。100年近く改正されることのなかった監獄法ですが、名古屋刑務所で起きた、刑務官による受刑者への暴行致死事件により、新しく法律ができました。

具体的に改正された主な点は、それまで刑務作業についてのみ規定されていた旧監獄法に対して、作業とは別に「矯正処遇」とされる改善指導・教科指導について新たに規定し、社会復帰に向けた処遇を充実化したことや、被収容者の不服申立て制度を創設したこと、民間人からなる刑事施設視察委員会を設置して施設運営の透明化を図ること、被収容者の生活水準の保障として自弁の物品の使用範囲について明確にしたことなどです。

なお、少年院についても、2009年4月に広島少年院において職員による在院者への虐待行為が明らかとなり、2015年に同様の改正が行われ、少年院法が成立しました。少年院法の前身は、昭和24年(1949年)の矯正院法です。

こんなふうに何か事件が起きてからでないと、見直しが起こらないというのは悲しいですね。

さて、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」の条文を少し見てみましょう。基本的な原則のような条文箇所です。

(目的)
第一条 この法律は、刑事収容施設(刑事施設、留置施設及び海上保安留置施設をいう。)の適正な管理運営を図るとともに、被収容者、被留置者及び海上保安被留置者の人権を尊重しつつ、これらの者の状況に応じた適切な処遇を行うことを目的とする。
(受刑者の処遇の原則)
第三十条 受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。

「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」

つまり、刑事施設の一つである刑務所は、受刑者の「人権を尊重」し、「適切な処遇を行う」ための施設といえますね。そして、その原則には「改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ること」があげられています。この法改正は、応報のための罰ではなく、受刑者の社会復帰のための処遇を刑務所が行うことを示したものといえます。

刑務所の「処遇」って?

刑務所が受刑者に対して行う「処遇」には、具体的にどのようなものなのでしょうか。「刑務作業」が代表的なものですが、前述の新しくできた法律では、その他にも「改善指導」や「教科指導」があるとのことでした。

まず、代表的な刑務作業からみていきます。刑務作業には、生産作業・職業訓練・自営作業・社会貢献作業の4つがあります。

生産作業は、木工・印刷・洋裁・農業などの「物品を製作する作業及び労務を提供する作業」、職業訓練は、「職業に必要な知識及び技能を習得させ、又は向上させることを目的として実施する計画的・組織的な訓練」で自動車整備士や情報処理技術等の資格取得も可能です。

「日本の刑事施設」より、生産作業と職業訓練の様子

自営作業は「刑事施設内における炊事、洗濯等の経理作業、建物等の修繕などの営繕作業」、社会貢献作業は「社会に貢献していることを受刑者が実感することで改善更生及び円滑な社会復帰に資する作業」で、通学路の除雪作業や植生保全のための除草作業などがあります。

『日本の刑事施設』より、自営作業と社会貢献作業の様子

刑務作業に就業した受刑者には作業報奨金が支給されます。作業報奨金は、作業の奨励と出所後の更生資金として役立たせることが目的とされ、令和元年度(2019年度)の一人一月当たりの作業報奨金平均額は4,260円です。

次に、改善指導です。改善指導とは、受刑者に犯罪の責任を自覚させ、社会生活に適応するのに必要な知識や生活態度を習得させるために必要な指導を行うことです。全ての受刑者を対象とした「一般改善指導」と、特殊な事情などにより円滑な社会復帰に支障が認められる受刑者を対象とした「特別改善指導」があります。
この特別改善指導は、たとえば薬物依存離脱指導、暴力団離脱指導、性犯罪再犯防止指導、被害者の視点を取り入れた教育、交通安全指導、就労支援指導などです。

最後に、教科指導です。教科指導とは、義務教育を修了していない者又は修了していても学力が不十分な者に対し、小中学校の教科内容に準ずる指導を実施することです。また、学力に応じて、高等学校等で行う教科内容に準ずる指導を行うこともでき、希望する受刑者は、施設内で中学校卒業程度認定試験や高等学校卒業程度認定試験を受験することも可能です。松本少年刑務所では、刑務所内に公立の中学校(分校)を置いていることで有名です。

刑務所には分類がある

さて、刑務所には分類があるというのはご存知でしょうか。一人ひとりの受刑者は、その犯罪傾向の進み具合や刑期の長さ、年齢・性別・障害の有無等によって、それぞれ異なる分類に割り当てられます。そして刑務所もまた、収容される受刑者の分類に対応して運営されているのです。

基本的な分類として、犯罪傾向が進んでいない者(初犯者など)は「A」、犯罪傾向が進んでいる者(再犯者など)は「B」という符号が当てられ、刑期が10年以上の者にはさらに「L」がつきます。初犯者で長期刑の者は「LA」という符号が当てられます。
その他に、女性の場合は「W」、外国人の場合は「F」、少年(20歳未満)は「J」、青年(26歳未満)は「Y」、精神障害がある者は「M」、身体上の疾患または障害がある者は「P」という符号が当てられ、それぞれに対応する刑務所に収容されます。

また、近年はPFI刑務所と呼ばれる半官半民の刑務所があります。『日本の刑事施設』によれば、「PFI(Private Finance Initiative)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法」で、その代表的な施設としては「美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)」と「島根あさひ社会復帰促進センター(島根県浜田市)」があげられます。

例えば、美祢社会復帰促進センターは、警備はセキュリティ会社で知られるセコム株式会社が出資し、教育は小学館集英社プロダクションが出資するなどして、複数の民間企業が出資して設立した特別目的会社(SPC)が運営の一部を担っています。PFI刑務所では、施設設備においても最新の技術が用いられるといった新しさもあり、さらに治療共同体*の取組や、園芸療法やアニマルセラピー、文通プログラム、職業訓練としての漫画制作など、従来の矯正処遇とは異なるさまざまな方法が試みられている場所でもあります。

*治療共同体:依存症などの対象者を治療の主体とし、コミュニティ(共同体)が影響をあたえ合うような集団参加型の治療を指し、グループセラピーやミーティングを特徴とする。

刑務所の運営費用と収容状況

『日本の刑事施設』によると、2019 年度の刑事施設関係予算は約 2,018 億円で、被収容者一人の一日当たりの生活経費は1,924 円だそうです。
令和3年版『犯罪白書』から収容状況をみてみると、年末の収容人員の推移というものがあります。年末収容人員は、平成18年に8万1,255人を記録したのち、19年以降減少し続け、令和2年末時点は4万6,524人(前年末比3.9%減)であり、このうち、受刑者は3万9,813人(同4.9%減)でした。

令和3年版『犯罪白書』より、刑事施設の年末収容人員・人口比の推移

収容率を見てみると、令和2年末時点において、全国の刑事施設の収容定員が8万7,679人であるのに対して、収容人員は4万6,524人で、全体の収容率は53.1%と、いわば比較的「空き」がある状況です。一時期は、100%を超える過剰収容といわれる時期があり、単独室に2人が入ったり、6人が定員の共同室に8人が入るといった状況もありました。
ちなみに、この収容率は、100%に達しなければいいというものではなく、80%前後が上限と考えられています。というのも、問題のある受刑者を他の居室に移す必要性や、暴力団の関係等に配慮した配置も行わなければならなかったり、今回のようにコロナウイルス感染症といった事態があれば、なおのこと常に空きスペースを持っておくことが重要だからです。

令和3年版『犯罪白書』より、刑事施設の収容率の推移

刑務所の生活とは

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『日本の刑事施設』より、懲役受刑者の1日の例

『日本の刑事施設』には、懲役受刑者の1日の例が紹介されています。こうしてスケジュールを見るだけでは、ほとんどの人は「規則正しい生活が送られているんだなぁ」といった印象を持つ程度で終わると思います。しかしより踏み込んで分析することで、刑事施設での生活の特徴が見えてきます。刑事政策学者の大谷實さんは、次の4つを指摘しています。
※参考:大谷實『刑事政策講義』弘文堂より

一つ目は、「監視された生活」です。「職員による監視は刑務所のすみずみまで行きわたり、受刑者は絶えず職員の目の届く範囲にいることを要求」され、「プライバシーはないに等しく、常に職員および他の受刑者の目を意識した生活を強いられる」生活です。

二つ目は、「集団生活」です。受刑者は生活のあらゆる面で集団行動が要求されます。「一斉に食事をし、作業し、休憩し、運動し、入浴し、就寝する。ここでは、個人として扱われることは特別な場合であって、普通は皆が集団の一員として」扱われます。受刑者から寄せられる手紙や、出所者たちの話でも、最も苦労するのはこの人間関係だともいわれます。

三つ目は、「規則づくめの生活」です。受刑者は、常に規則や命令から「他律的・受動的なものにならざるをえない」生活を強いられます。私が見学をしたとある刑務所の風呂場には、看板が設置されていて、もみあげの位置についてや、「掛け湯は2杯まで!」といった細かな数々のルールが箇条書きされていました。
そしてこのさまざまな規則やルールは、所長が変わると変更されることもあるといいます。去年までできていたことが、今年はできないとか、その逆など、理不尽に思えるルールでも守ることが原則とされます。
マザーハウスのスタッフの一人は、長い服役生活からの出所直後は「信号のない横断歩道を渡ることができなかった」と語っていました。刑務所では常に刑務官の許可をとり、「渡ってよし!」という号令が必要だったからです。「規則づくめの生活」によってつくられた習慣が、出所後の受刑者の思考や行動にも影響を残すことを示すエピソードです。

四つ目は「独特の副次文化(sub-culture)を形成する」というものです。「フォーマルな価値観や社会規範に対抗して、受刑者がつくるインフォーマルな価値や規範すなわち副次文化(仲間内の掟や隠語など)が生まれるようで、代表的なのは刑務所用語のようなものだと思います。私が、マザーハウスのみんなから教わった言葉としては、「ガテ(手紙、特に周囲には見せられない内容のもの)」や、「ションベン刑(小額の窃盗などの軽い罪)」、「ピンク(性犯罪者)」などといった刑務所用語がありました。

私はいくつかの刑務所の見学にも訪れましたが、指先までピンと伸ばした軍隊式の行進は、受刑者が一人で移動する際にも行われていました。視察にきた私とすれ違う時には、受刑者は一度壁の方を向き、その後ろを私が通りました。すれ違う、ということにも制限がかかる環境です。

『日本の刑事施設』より、刑事施設の生活環境イメージ図

刑務官と受刑者の関係

刑務所がニュースになる時には、しばしば、刑務官による受刑者への暴行や、受刑者による暴行といった事件があったりします。浜井浩一さんによると、こうした暴力が発生してしまうのは、「刑務所という社会の中では起きる方が自然な状態である」といいます。その理由は、次のようなものです。

刑務所は、刑罰を科すために作り出された人工的な社会空間であり、そこでは、刑務官が受刑者を管理して彼らの自由を制限しつつ、刑務所内の秩序を維持することが求められている。当然のこととして、受刑者は、そうした状態を素直に受け入れるわけではなく、刑務官による管理から逃れ、少しでも自由を得ようとあがくわけであり、刑務官と受刑者の間には緊張関係が発生する。

浜井浩一『刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ』日本評論社より

浜井さんの分析は、名古屋刑務所で起こった事件についてのものですが、当時の事件の状況よりも、スタンフォード監獄実験(*1)やミルグラムの拷問実験(*2)による結果にもとづいた指摘をされています。人は「与えられた役割と責任を果たし、上からの指示に従い、秩序が保たれるまで、一生懸命に受刑者の反抗を抑圧する」ため、その結果、人工的につくられた関係性=刑務官と受刑者の間に緊張関係が生じてしまうのです。そして、何かのきっかけが積み重なって、時にその関係が暴力的な方向へ行き過ぎてしまうのだろうと想像します。

(*1)社会心理学者フィリップ・ジンバルドーによる実験で、アルバイトの学生をランダムに囚人と看守役に設定し、大学内に作られた擬似的な刑務所環境において観察を行った実験。短期間の間に、囚人役と看守役の間に歪んだ関係が生まれ、精神的混乱により実験を離脱する者もでたという。
(*2)スタンレー・ミルグラムによる実験で、被験者は教師役となり、生徒役(役者)が問題を間違えたら電気を流して、さらに問題を間違えたら電圧を上げるよう指示された。生徒役がどれほど悲痛に叫ぼうとも(演技)、被験者の半数は最大電圧を460ボルトまであげた。

そんな緊張関係とは反対に、刑務官のことを「おやじ」と呼んで慕う、そうした特殊な信頼関係があることも指摘されます。マザーハウスのみんなからも、慕っていた「おやじ」の話を聞くこともあります。この信頼関係があるからこそ、日本の刑務官は武器も持たずに、少ない職員数で多数の受刑者を統率できている、といわれたりもします。

そうはいっても、基本的には管理する側とされる側、命令をする側と従う側という関係性です。そして、命令や規則に従う秩序を守るためには、「なめられてはいけない」という意識のもと、職員も威圧的な態度になったり、少ない職員で集団を管理するために軍隊式の行進などが管理上効率的とみなされるのだと思います。

刑務官の思い、ニーズ

ここで、あまり社会ではとりあげられない刑務官を対象とした調査を紹介したいと思います。刑務官による受刑者への暴行事件などを述べると、まるで刑務官の方が悪者かのようにイメージしてしまうのですが、私が刑務官の方にインタビューをした時、よく言われることは

「受刑者の人権はよく言われるんですが、私たちのことはあまり言ってもらえないんですよね」

ということです。刑務官の採用ページをみると、現在約1万7,500名の刑務官が全国の刑事施設に勤めている のですが、小島富美子らが行った「矯正職員の職務意識等に関する研究 」では、職場環境の改善や今後の矯正運営の検討に資する資料とすべく、刑事施設職員2,495人、少年施設職員1,517人を対象としてアンケート調査が行われました。

同調査では、「あなたは矯正施設における処遇は国民から正しく理解されていると思いますか」との設問に対し、刑事施設職員の肯定的回答(「理解されている」+「おおむね理解されている」)は27.6%で、少年施設職員の同様の肯定的回答は28.0%であった。つまり、7割以上の施設職員は、矯正施設における処遇について国民に理解されていないと感じているようです。

また、「あなたは矯正施設や矯正職員のことについて、特に社会や国民に理解してほしいと思うことは何ですか(複数回答可)」との設問に対して、刑事施設では「被収容者の実態」が75.9%と最も高く、次いで「矯正職員の職務の困難性や勤務上の苦労」が72.4%でした。少年院及び少年鑑別所では「矯正職員の職務の困難性や勤務上の苦労」が最も高く60.8%(少年院)・61.4%(少年鑑別所)で、次いで「被収容者の実態」が60.8%(少年院)、61.4%(少年鑑別所)でした。

この調査結果が示すこととして、多くの刑務官が矯正施設の状況について社会に知られていないと感じており、そして、知ってほしい・関心を持ってほしいと願っているということだと思います。

以上、刑務所がどんな場所なのかについて見てきました。近年では、懲役刑と禁錮刑を一本化した「新たな拘禁刑」という議論も進んでおり、また今後も刑務所は変わっていくかもしれません。

(執筆:風間勇助)

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