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作られる障害児

「切り捨て」

新指導要領が実施され、夏休みを境にいくつもの問題点が浮かび上がってきた。のんびりと過ごしてきたバカンスから一変し、いきなり現実の世界に放り込まれた感のある新指導要領。ここに来て、子ども達からは3つの形容詞が多く語られるようになって来た。それらは、この4月から新指導要領を経験してきた彼らの生の声だ。この声と共に、学習内容が理解できるという声も以前と比べ大きく低下している。

  • 学習内容が多い

  • 学習内容が難しい

  • 授業のスピードが速い

時代の変化により、子ども達の言語環境は年々劣化している。学習に必要な「ことば」は減少し、思考に必要な「ことば」の獲得が遅れている。「ことば」の獲得、つまり、語彙数の減少はそのまま「聞く力」を育むことなく成長する事になる。「聞く力」は「ことば」を覚え、親とのコミュニケーションが「ことば」により成立し始める3歳頃までに育まれる。無意識であれ、赤ちゃんは「聞くこと」の重要性を一番理解している時期と言える。

幼稚園に入園し、保育士の指示に従えない子の大半は、子どもを取り囲む「言語環境」に多くの問題を抱えている。このブログに良く出てくる新潟県長岡市にある保育園の園児は素晴らしいの一言に尽きる。乳幼児期から通う子ども達は、園の素晴らしい言語環境に包み込まれている。先生方からは、深い愛情と厳しさを感じる事も出来る。園長も子ども達にはことばを「聞かせる」ことが大切と言い切る。そして、運動も音楽も取り入れているが、それらを「感覚教育」としてとらえている。長年、子ども達を見てきている園長だけに、時代の中で変化する子ども達の姿に危機感を感じられたのだと思う。園児は、卒園後進む小学校の先生方から賞賛される。他の園から入学されてくる子ども達と比較し明らかに違う所があるからだ。聞く姿勢、見る姿勢、返事、挨拶、指示行動への素直な対応、どれをとっても素晴らしいと評価される。

丁寧で美しい日本語を聞かせていくと、当然ながらその子の脳には、丁寧なことばや優しい言葉が入力されていく。入力されたことばが、思考や表現として出力されるされる。この逆に、汚く罵る言葉を聞かされ成長すると、思考や表現も同様の結果を生む。子どもの生活習慣を含め、「三つ子の魂百まで」のことば通り、子どもの成長の第一歩は、この時期の指導が重要である事を裏付けている。学習は「聞く」ことができなければ成立しない。近年の「小1プロブレム」は、家庭での言語環境の劣化、実体験の不足等が原因であるが、「大人の子ども化」「未発達な大人」の増加が招いた結果だとも言える。この環境下で育った子ども達を如何に指導するか、現場の教師は悩む事になる。しかし、その教師も平成生まれの若い指導者が現場に登場してきた。彼らの過ごしてきた閉塞的な社会環境と、新たな「学力重視」の教育環境はどの様に映るのか。これからは、教育現場に於いて「切り捨てられる子ども達」が増加すると予想される。それは何故か、学習の世界は「自己責任」とされるからだ。自ら学ぶ姿勢を示さない限り、増量され質も上がった学習内容をこなすことは難しい。既に、現場ではその兆候が現れ始めている。これは、今後益々顕著になるだろう。子どもの学習障害は、幼い頃からの子育て、環境によって引き起こされる後天的なものが多いと申し上げて来た。今一度、幼児期からの子育てから見直して頂きたいと切に願う。

経済も政治の悪影響からか、立ち直りの気配すら感じない。消費税の問題もある。真っ先に切り捨てられる「教育費」、少数精鋭社会を前に、子ども達の居場所はどこにあるのか。

2012/8/31


著:石川教育研究所 代表 石川 幸夫

石川教育研究所 代表 石川 幸夫

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