見出し画像

2019/08/20 21:31ローマ→シチリア 夜行列車ごと船に積まれ海を渡る

暑かった日中散策を終え、荷物ピックアップのためB&Bへ向かった。

ローマはいたるところに噴水がある。こちら2つはクアトロフォンターネと総称されていて、つまり4つの噴水という意味。十字路の建物の角それぞれに噴水。たまたま通りかかったが、以前旅行した際もここは特に印象が残っていた。ローマは噴水巡りをするのもおすすめ。私はこの噴水が特に好き。

その道中で印象に残った通り。大きな街路樹が通りの象徴であり、覆い茂った葉が夕方の黄味がかった光を瑞々しい緑に変換していた。

いま調べ直して、以前旅行した際に訪れた骸骨で出来た教会もこの地域にあったようだ。Chiesa di Santa Maria della Con Il Museo e La Cripta dei Frati Cappucciniという教会で、Googleマップの日本語では骸骨寺と端的に訳されている。修道士の骸骨たちが、美しく教会の壁面や天井を埋め尽くしていて圧巻だった記憶がある。

B&Bに戻り、スーツケース4つをまた駅までガラガラと引き連れる。この道中、ずっとスーツケースとの付き合い方に悩まされそうだ。私も相方も元来手ぶら好き人種なので、ずっと両手が塞がれているのは窮屈で仕方ない。

実は、シチリアに行っている間、スーツケースをローマのある場所に置いておこうという案も浮上した。

ローマには、カルロというアーティストが拠点にしている場所がある。彼とはこの旅に発つ直前に相方の店経由で友達になった。
そのカルロの拠点とは元サラミ工場で、よく言えばアーティストレジデンス、悪く言えば不法占拠された建物。ありとあらゆるアーティストが訪れ、滞在しながら作品を作り、その作品を置いていくことで警察当局は他人の財産である作品を勝手に撤収することも出来ず、黙認状態でローマの現代アートの象徴的存在となっているそうだ。占拠の仕方も、それを駆除できない理由も、アートを身近なものとして受け入れているからこその、なんともイタリアらしいものだ。

私の相方は大阪で飲み屋のようなものをしていて、アーティストとしては特に名乗っていないしそういう肩書きをつけることがどちらかといえば煩わしいと思うタイプだが、もともとDIYな気質で、結果的にありとあらゆる表現を人々から求められ、ありとあらゆる場所に作品を作っている人なので、彼の元にはちょっと変わった情報がいつも入ってくる。

さて、スーツケースの運搬に悩まされる私は、その元サラミ工場に、空のスーツケースを置き、数日後再び私たちがピックアップに戻るまで、来館者にに何か痕跡を残してもらう仕組みを作り、参加型アートの形として表現=放置という形で実験してみるのはどうかと思いついたのだ。
ただ旅行しにいくだけでは面白くないと、相方は前回の私の買付旅同行の際も奇天烈なパフォーマンスでイタリアの地に爪痕を残していた。そういうベースもあって、旅先で何かをするということは私たちにとってはごく自然な流れだ。
とても画期的な考えだと、鼻息荒く相方とカルロに持ちかけたが、「またローマに戻らなければいけないという縛りができる」という振り返らないぜ俺は的相方の意見と、「そこの住民には子供も多いし、何するか分からないしそれは大人も然りで、面白いけどスーツケースの安全を保証できないからおすすめできないなぁ」というカルロのごくまともで親身な意見のおかげでただのアイディアに終わった。

いま思うとごもっともだが、その時は本気で実現できないかと熱くなっていた自分がいた。
メッセージ履歴を見返すとカルロと出会ったのが8月16日、アイディアを思いついて相談したのが8月17日、もし助けが必要なら代替案もあるよとカルロが提案してくれたけどやっぱりいいわとこちらから断ったのが8月18日。
私の思いつきも甚だしいが、それに付き合ってくれるカルロもやっぱりクリエイティブで面白い奴だ。

先日、カルロから「アマビエはコロナウィルスから世界を救うでしょう!Amabie will save the world from COVID-19!」という動画を仲間で作ったから見てくれとメッセージをくれた。Creativitàは世界を救う。
やっぱり面白い奴だ。


さて、いよいよ本日のメインイベントだ。

ローマテルミニ駅に早めに着く。夜行列車で乗車時間は意外と長いので、駅横スーパーでここぞとばかりにお菓子や夜食を買い込む。こういう時大抵パニーノくらいしか選択肢はないが、ハズレなく美味しいのでそれでいい。
スーパーで気軽に買える出来合いのものというものは、数年前と比べたら増えてはいるが、やはりイタリアにはあまりない。
日本はそう考えるとファストフード天国だ。おにぎりとかお腹が空くとコンビニですぐ買っちゃうもんなぁ。もちろん、コンビニなんてものはイタリアにはない。コンビニにはお世話になっているが、コンビニがないから守られてきたもの、伝えられてきたものがこの国にはたくさんあると思う。


券売機で乗る予定の列車を確認。いつもこの瞬間は大真面目だ。たまに、直前で急にプラットホームが変わることがあるので乗るまではしばらくそわそわする。いや、乗ってからも遅延だなんだっていろいろ起こりがちなので、日本のように予定通りにはいかないと思っているくらいがちょうどいい。

ちなみに、数年前までは駅には改札機などなく、誰でも自由にプラットホームに出入り出来た。なのでたまに電車に乗っていると、途中の駅でジプシーや物売りが乗ってきて色々訴えてきたものだ。そんな人たちは多分チケットもなしに乗っていていた気がする。

乗客は予約席なら券売機か窓口でチケットを買い、自由席なら街中や駅中の売店でチケットを買う。ネットで予約ももちろんでき、その際はスマホ画面があればOKだ。
チケットを入手しただけでは安心してはならない。忘れてはならないのは、打刻。目当ての電車に乗る前に大抵プラットホームの入り口にある機械で打刻する。(ちなみに、座席を指定しているチケットは打刻が不要だ。けども、私は習慣で、なんだかあの時刻の刻印がないと不安で打刻をする癖が付いている。)
この打刻を忘れると、電車内で回ってきた車掌さんに罰金を取られる。いくら急いでても、打刻は忘れてはいけない。きっとその打刻する数秒に、今日もドラマが生まれているだろう。

券売機で買うときは、以前はジプシーのおばちゃんとかが勝手に操作の手伝いをしてお金をくれとか言ってくる時があった。押しに弱そうな日本人なんか格好の餌食だろう。何回かそのやりとりをしたことがあるが、はっきりノーといえば「ちぇ」みたいな感じで諦めてくれる。スリなどもいるので油断はできないが、彼らのたくましい生き方に考えさせられる。彼らはまさに流浪の民で、イタリアなどでは疎まれる存在であるが、そのルーツをたどればいろいろ見えてくるなと、以前BS NHKの「旅する音楽」という番組を観てから少し彼らへの捉え方が変わった。そして彼らとのどこか滑稽なやりとりは、異国での生活をより味わい深くしてくれるものだった。

今回もそんな出会いがあるかと思っていたが、なんと、駅にはプラットホームに行く際に立派なゲートが出来ているではないか。しかも入り口にはスタッフがいてチケットをチェックする周到さ。その変貌ぶりには、今回の旅で一番驚いたことかもしれない。

これは後日フィレンツェのS.マリアノベッラ駅で撮影。ゲートができてる〜〜〜〜!!!!


21:10、発車まで20分ほどのところでいざ列車へ。駅員のボリュームパーマに帽子のお姉さんがセクシーだ。

今回予約したのは
Inter City Notte Roma Termini 21:31 Siracusa 9:36
Economy Cucette C4 Confort-Promiscuo
ローマ始発の夜行列車、エコノミータイプの寝台列車4ベットコンパートメント、男女混合
イタリアに発つ前日18日に日本からネットで予約した。
ベットタイプの夜行列車は初だったので、口コミを調べてだいたい想像していたけど、やっぱりなかなか狭いもんだ。細めの二段ベットが2セット、しかも上段は手すりも何もないのでなかなかスリリング。この圧迫感が非日常的で冒険感を増すではないか。ベットの上には簡単なアメニティーと、小腹用のビスコッティと桃のネクターが置いてあった。アメニティーにはサラサラシート的なものも入っていて、意外と気が利いている。

同室には同じくローマから乗り合わせた、ヒッピー経由カントリー歌手着地チックな姐さんという雰囲気のハスキーボイス女性、シチリアに帰省するのだとか。

もし相方と二人+大きいスーツケース4つでこのコンパートメントを占領しようと思っていたが、すでに相乗りが一人、途中でもう一人増えるかもしれないのでその計画は遂行ならず。
スーツケースを通路に置けば完全に塞いでしまうので、どうしたもんかと考えた末、ベットの下に見つけた空間に二つ、そして余った二つは上段へ上げた。今思えば落下してきそうで怖いので、下段に置けばよかったのにそこはすでに下段で寝ると決めていた私への優しさだったのだろう。
細長い体を直角×2で折り曲げた様は、不法入国者かなにかのアドベンチャー感を醸し出していた。相方、Grazie!!

そしてガタゴト揺られ、イタリア半島の西側、膝からすねを伝い、つま先へと向かっていく。この列車旅は、つま先に位置するVilla San Giovanniビラ・ジョバンニまでがまずは序章である。
まず、ローマから通常の電車として移動し、そしてこの港にて、なんと電車ごと船のなかへ我々人間は船荷として積まれ、海峡を渡り対岸のシチリア島屈指の港町メッシーナへ着く。そして電車は船から降ろされ、くわえられた口から逃がされたネズミのように、再び走るのだとか。。なんとも大胆な運搬方法。

そういえば、留学中にこの海峡のことを教えてもらった記憶がある。本当は本島とシチリア島をつなぐ橋を渡す計画があったのだが、それはおじゃんに。シチリアマフィアの圧力があったとかなかったとか、まことしやかな噂だと。なんともイタリアっぽい話にワクワクし、いつかこの列車に乗ってみたいと思ったものだ。

マフィアについては、友人のシチリア・パレルモ出身のサックス奏者が「マフィアの故郷だよ」と悪戯な笑顔でいつも自己紹介していた。シチリアにおけるマフィアの影響は根強いので、誰でもそれくらいネタにできるものなのかどうかは、今度真剣にシチリア人に聞いてみたいものだ。

そうこうしているうちに、ついにつま先まで来た。
グーグルマップで逐一現在地をチェックしていたので、近ずくごとにドキドキが大きくなってきた。こんなに真剣に現在位置の推移を見たのは、夜行バスでイタリアからオーストリアの国境を超えた時以来だ。もう朝方の5時頃、ついに港まで来た。一大イベントに一人興奮し、右往左往しながらムービーを撮った。


電車は何列かごとに分断されているようだ。
これ、船の中!なかなか不思議な光景!!興奮が冷めやらず、寝ていた相方をお越しにいく。どうやら海を渡る30分ほどは、列車を降り船の中を散策できるようだ。

黒い海に浮く船、その中に列車。生ぬるく湿った風が眠い体に纏わりつくが、気分はミーハー度マックスで最高潮。

そうこうしているうちに対岸に着く準備が始まった。

働くおじさんズ。対岸の港を一斉に迎えている。背中がかっこいいぜ。
脳内にはライムスターの働くおじさん。俺たちやってるぜ。

ゆるゆるとだべりながら仕事。だべるのが仕事。俺たちやってるぜ。

ぞろぞろと、繋がれて、でてゆく列車たち。

無事、連結が完了したところで満足して自室に戻った。もう朝の6時程だ。


シチリア南部沿岸線からの朝日は熱くて冷たかった。早朝から海岸で潮干狩りのようなことをする人々、海辺の町々、刻一刻と明るんでいく空。


私たちはついにシチリアに上陸した。

-------------------------------------------------

|マガジン|

▽ちょっとした自己紹介▽


筆者が営むイタリア雑貨屋
douzo
大阪市中央区伏見町2丁目2-3伏見ビル2階16号室
お店のInstagramも、どうぞ
フェイスブックも、どうぞ
---------------------------------------------




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?