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海外に出る理由はグラデーション

「海外移住と留学どちらを先に決めたんですか?」
と何度か聞かれたことがある。すぐに答えは思いつかずやけに冗長な移住前ストーリーを並べて相手を退屈させてしまう。自分でもどちらかはいまいちわからない。留学はなんなら20代の始めから考えていたが、家族で移住すると決めなければ実現しなくてもいいくらいの夢だった。海外移住も夫が日本に来てからいつかは帰るものと考えていたし、子どもが生まれてからその気持ちはさらに強くなっていった。コロナ過と第三子出産で勢いづきそのまま実現してしまったというのが正直なところだ。行き当たりばったり人生。

こんな状況なので「すごいですね!」と言われることにもしっくりこない。この行き当たりばったり人生のなにがすごいのだろうか?

しかしベルギーに来てたくさんの日本人に会い交流するうちに留学や移住する人にはある一定のパターンがあると気づき、なぜそう思われるのかが少しわかった。イギリス時代はほぼ日本語を話さず出会った日本人も片手で数えるくらいだったのだが、今は日本人同士の交流も楽しめるほど大人になった。

留学や海外移住する人々にはどうやら2種類あるようだ。前者はただ外国に住みたいという欲求のもと行動する人、後者は何か明確な目標がありそれをを成し遂げるために海外で学んだり働いたりして経験を積みたい人。

印象としてはイギリスや北アメリカ、オセアニアなどの英語圏に前者が多い気がする。語学留学やワーキングホリデービザなどで海外にわたる人々は人生の夏休みを謳歌している。反対にベルギーに来てからは後者と思われる人々にたくさん出会った。ベルギーに来たかったというより大学で学びたい特定の選考や学費の安さ、専門的な職業などに就くために来る方が圧倒的に多い気がする。ベルギー人のパートナーについて渡白する人もここに含まれるのではないか。もちろんどちらか一方ではなくグラデーションのように濃淡はありながらどちらにも属する人が圧倒的に多い。

「海外に住むってすごい」のもやもやの正体が朧気ながら見えてきた。海外志向がイコール後者と考える人が多いのだ。私はどちらかというと前者で明確な達成したい目標をもっているわけではない。よく聞かれる「卒業したら何をしたいんですか?」という質問には常に答えに窮している。「人類学は将来性を期待する人が選ぶ学部じゃありません」とお茶を濁している。

しかしながら、前回の渡英は圧倒的に前者だったが今回のベルギー移住はグラデーションだ。フランス人の夫は日本が好きだからではなくわたしと住むために来日した。現地で日本語を学び働き、過酷な職業環境を経験しながらいくつかの仕事を転々とした。気づくと10年が過ぎていた。わたしがイギリスで暮らした5年間よりも圧倒的に長い時間を過ごしていたのだ。子どもも生まれこれからずっと日本で暮らす。フランス人の夫にとってこれは結構重い決断な気がした。

夫からヨーロッパに移住しようと言われたわけではない。わたしのやや強引な提案がなければ今回のベルギー移住は叶わなかっただろう。もしあのまま日本に滞在し10年後夫が急に仕事を辞めヨーロッパに帰りたいと言ったとしたら?すぐに着いていける自信はない。30代の今ならできても仕事でキャリアを積んだ40代でリセットするのは心身ともに難しい。国際結婚で長く日本に住みながら40代以降でパートナーが自国や海外に移住したがるケースをブログなどで読み思った。高齢の夫の家族ともう少し頻繁に会いたかったのも大きな理由だ。

家族にとってバランスよく住める場所にベルギーを選んだ。それは同時にわたしが今後の人生をマイノリティーとして生きることを決めた瞬間だった。子ども達は現地に馴染みそれが当たり前になっていくだろう。しかしわたしはいくらここの暮らしに慣れてもベルギー人になるわけではない。それは前回のイギリス暮らしで実感した一つの答えだった。

でも前者のようなわくわくはずっとわたしの中にある。知らなかった土地で人々と出会い現地の言葉を学び交流することでその文化を知る。なんてシンプルで楽しいんだろう。その気持ちはまだなくなってはいないのだ。


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