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勇気のはなし。

「いっしょにあ〜そ〜ぼ〜!!!」

沈黙。
その言葉は受け取られず、宙に浮いたまま。

数日経った今でも、胸がきゅうっとなる。

勇気とは、勇ましい気持ちのことである。
これまでたくさんの勇気に出会い、感動し、かっこいいなぁ……と震えてきた。

大魔王に対峙するとき。
スーパーヒーローの宿命を背負ったもの。
圧倒的不利でもヴィランに背を向けないやつ。

すごいやつの数々の勇気に心震えてきたけれど、現実の画面の外にはスライムすらいない。スクリーンから出れば、超人は一般人の最上位を超えてこない。ヒーローはいるけど、スーパーはいない。ヴィランは、目には見えないやつばかりだ。いるにはいるからやっかいだ。

だからわたしたちが、最も勇気を出す瞬間。
それは、自分を越えるときか誰かと関わるときである。

息子くんは、やさしい。
そりゃあもう、めちゃくちゃにやさしい。

トイレットペーパーが無くなれば誰に言わずとも補充しておくし、
ちょっとした持ち物や髪型の変化に気がつくし、
言葉は真っすぐストレート。
電車とヒカキンが大好きで、自分が好きなものには一直線だ。

でも、ちょっと引っ込み思案なところがあって、何かと遠慮してしまうときがある。


コロナもあって、地域の友だちがあまりいないところに、急に引っ越しが決まった。市内の引っ越しとはいえ、遊ぶ公園や生活圏も変わる。

そして、引っ越した先の公園で起きたのが、冒頭のそれである。

その日、遊びのテンションがマックスになっているキッズたちに、息子くんが声をかけた。

「いっしょにあ〜そ〜ぼ〜!!!」

数秒の沈黙。こちらも見るキッズたち。

「わ〜〜〜!!!!」

キッズはそのまま何もなかったかのように、駆けずり回り去っていったそうな。

「なんかぁ、みんなきこえてなかったみたいで〜。でもすなばのこはいたんだけど、まだはなせなくて〜。」

夜、ベッドに入って「きょうなにがいちばん楽しかった?」と言い合うのが我が家の定番なのだけど、その流れで息子くんがぽつぽつと話してくれた。

たぶん、誰も悪くない。もともと出来ている輪に入るのは、とても大変である。受け入れる方もテンションマックスの遊び中はむずかしいだろう。
大人だって、子どもだって、誰だってそうだ。できてる空気に入っていくのは、しんどい。


受け取られなかった言葉が宙ぶらりんのまま、となりの砂場には小さい子がひとりもくもくと砂あそびをしていて、息子くんはもう一度話しかけた。
だけど、その子はまだおしゃべりできる歳じゃなくて、結局一人(と奥様)で遊んで帰ったそうだ。

「そっかそっか〜。大丈夫、また遊びにいってみようね!」

ニコニコ話す息子くんだけど、このちっちゃい体でものすごい勇気を出したんだろう。

数日経っても胸が苦しくなるから、一緒にいた奥様の胸が押し潰される感覚は計り知れない。


もっと早く公園に行ってあげれば。
ママさんや親から輪に入れるようにしてあげてたら。
コロナだからってやめずに、地域の集まりに連れていってあげてれば。
友だちのつくり方を、もっとちゃんと教えられたら。


たらればが途切れなくて、その日子どもたちが寝静まったあとももやもやが止まらなくなった。子どもたちが寝静まったあと、二人で解決策を話したけど深いため息しか出ず、なんとなくバラエティを流し見して、ベッドに入った。

わたしも奥様もそんなにコミュニーケーションに自信があるほうじゃなくて(むしろわたしはからっきし)、友だちたくさんタイプではない。

でも、大人の友人関係はグラデーションだ。いろんなものが紐付くから、いろんなやり方がある。
だから、嫌なら自分から離れたり、役割や仕事をクッションにした関係にしたり、付き合う時間を選んだり。
そんで、つらかったら自分のこころを甘やかしたり、呼吸ができるような時間を設けたり。
なんとでもなるのだ。


でも、未就学児くらいの友だちって0か100だ。
子どもの時間は、密度が全然違う。
刹那的に仲良くなったり、ならなかったり。
すべてのことばがストレートで、真っすぐで、だから外れたときの威力もでかい。


真っ暗な、真新しい天井を見上げて思う。
最後に勇気を出したのは、いつだろう。

小さい頃、友だちってどうできたっけ。
いつの間にか仲良しになって、ケンカして、仲直りして。
たぶん、そんな感じだったと思う。
知らないうちに、最初の勇気を使って、誰かとつながりをつくってきたのだろう。
父も、母もこんな思いが胸に浮かんだんだろうか。

どんなにがんばっても、親が友だちをつくってあげることはできない。アシストはできるかもしれないけど、シュートはできない。
その一歩は、すんごいことなんだよ。



今日、息子くんの勇気は空振りだった。
でも、大丈夫。大丈夫、と自分にも言い聞かせながら、毎晩「きょうはなにが一番たのしかった?」と聞く。
こんなにやさしくておもしろくていいやつだから、いつか素敵な友だちに出会えるから。

きみの横で一緒にじっと耐えつつ、その勇気が報われるそのときを待っている。

はやく、友だちと遊べるといいね。
たのしみだね。

おやすみ!


おわり。

待てうかつに近づくなエッセイにされるぞ あ、ああ……あー!ありがとうございます!!