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ボイスドラマ『残響スパークル』第5話「焼けぼっくいに火」シナリオ公開!

こんにちは! ノベルボch公式noteです。
ボイスドラマ『残響スパークル』はお楽しみいただけましたか? Voicyにてアンコール放送もしていますので、まだの方はぜひノベルボchをフォローいただき、ご視聴くださいね。

全7回にわたって、『残響スパークル』のシナリオ完全版を無料で公開します。この記事では第5話「焼けぼっくいに火」を全文公開しています。

実際のボイスドラマを聴きながら読み込んでいただくと、声優の演技力に圧倒され、効果音や楽曲の効果に感動していただけるはずです。また、ボイスドラマ制作をしたいと考えている皆様の一助となれば幸いです。

シナリオ公開にあたって

・このシナリオは、収録時に声優が入れたアドリブや、編集時にディレクターが演出として加えた効果音を反映した『シナリオ完全版』です。実際の収録時や編集時に使用したシナリオとは一部仕様が異なります。

・行頭にある番号は、収録時や編集時に制作メンバー間で意思疎通をしやすくするための管理番号です。なお、シナリオ番号が一部飛んでいるのは、秒数を調整するために収録直前にカットしたことによるものです。

【著作権について】
この記事にて公開しているテキスト全文について、著作権は水島なぎ( @nagi_kotobano )に属します。一部または全部の無断転載、および許可のない二次利用(音声コンテンツ化、映像化を含む)はご遠慮ください。


『残響スパークル』第5話「焼けぼっくいに火」ボイスドラマはこちらから


『残響スパークル』第5話「焼けぼっくいに火」シナリオ全文

シナリオ公開用第5話ヘッダー

0(タイトルコール)
ノベルボchボイスドラマ 残響スパークル 
第5話 焼けぼっくいに火

7
なぜか俺は、またライブハウスAAA(ノーネーム)に出入りしていた。ここ数日、機材の掃除や運び出しを手伝わされている。ゲンさんが言うには、居抜きで買い取ってくれるところがなかったので、機材は下取りに出すことにしたらしい。

9
ゲン「ちゃっちゃと動け。今日中に終わらせるからな」

10
遼「はぁ……給料出るんならやる気も出るんすけどねぇ」

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ゲン「ミコトをフッた馬鹿に出す金はねぇぞ」

12
遼「いやだから、俺はフラれた方ですって……」

※SE ヒールの足音

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ミコト「おつかれ~」

14
ゲン「……おう、ミコト」

15
ミコト「ケーキ持ってきたよ。休憩しよ」

16
遼「お、サンキュー!」

18
この数日でわかったことが3つある。
1つ目は、ゲンさんは酒好きの甘党だということ。2つ目は、ミコトがおじいちゃんっ子だということ。
そして3つ目は……この2人とAAA(ノーネーム)で過ごす時間が、俺は案外好きだということ。

21
遼「この前のケーキ、価格決まった?」

22
ミコト「まだ悩んでる」

23
ゲン「学校の課題か。原価計算はしたのか?」

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ミコト「もちろん。あとはどれくらい、価値を上乗せするか」

25
ゲン「価値?」

26
遼「そう。そこなんすよ!」

28
遼「ケーキには、ケーキ1個分の代金を払いますよね。成果物があって、原価もわかってる」

29
ゲン「……そうだな」

30
遼「そこに上乗せする価値って、例えば『有名なパティシエが作った』とか、そういうことっすよね」

31
ゲン「まあ、そうだろうな。何が言いたい?」

32
遼「じゃあ、音楽は? エンターテイメントの価値って、どうやって対価に換算するんですか?」

33
ゲン「ああ……そういうことか」

※SE 煙草を吸う音

35
ゲン「それを決めるのは誰だと思う?」

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遼「えーと……?」

37
ミコト「そんなことよりさぁ」

38
遼「え!?」

37
ミコト「遼、明日ヒマ?」

40
遼「ヒマ……かな。たぶん。ゲンさん、ここの掃除、今日で終わりでいいんすよね?」

41
ゲン「……ああ」

42
ミコト「じゃ、映画行こ」

43
遼「映画? いいけど……」

44
あれ? 俺たち、先月別れたよな?
戸惑っていると、ゲンさんがギロリとにらんできた。

45
ミコト「もうっ。おじいちゃんが行けなくなったからでしょ」

46
ゲン「しょうがねぇだろ。機材の下取り、業者が明日しか無理だって言うから」

47
遼「あ、そういうこと……」

48
ミコト「じゃあ、明日11時に駅ってことでいいよね?」

49
遼「う、うん」

※場面転換

50
きっとこれが、最後のデート。
それでもいい。もうないと思っていた幸運だ、存分に味わおう。

※SE 駅前の雑踏 フェードイン
※SE 足音

51
ミコト「お待たせ! お昼、何食べよっか」

52
遼「その前に、チケット代出すわ。いくら?」

53
ミコト「あ、いいよ別に」

54
遼「そこはきちんとしよーぜ。一応、ほら……元カレなわけだし」

55
ミコトが渋々言った金額を、バイト代の封筒から出した。

56
ミコト「やだ、ちゃんとした財布使いなよ。なんで封筒?」

57
遼「いいんだよ。これは……『自分探し資金』だから」

58
ミコト「……ふふっ、何それ。自分探し? モラトリアム大学生にありがちなやつ?」

※SE フェードアウト

59
これ、本当はまだつきあってるのでは?
……そんな思いが頭をよぎるけど、ミコトから言われたあの一言が、火傷のあとみたいにずっと残っている。

60
(回想)※リバーブかける
ミコト「遼は、何かやりたいことないわけ? たった1回の挫折をいつまで引きずってんのよ」

61
ないよ。俺には何もない。
だからこそ見つけたい。夢中になれるものを見つけられたら、そのときは……もう一度、ミコトに好きだって言おう。

※場面転換
※BGM 挿入曲『ノンストップ・イマジネーション』(映画のエンディング曲イメージ)

62
映画は、ミコトの好きそうなミニシアター系の作品だった。

63
遼の心の声(映画って、すげぇな……エンターテイメントってすげぇわ。俺も、何かやるならこういう……誰かを元気にできるものがいいなぁ)

※BGM フェードアウト

64
エンドロールが終わり、館内に明るさが戻った。映画館を出た後も話は尽きない。

※SE 足音

65
ミコト「あー! 面白かったぁ~」

66
遼「今年度、3本の指に入る名作だったわ」

67
ミコト「わかる。映画ってさ、間違いなくカロリーあるよね。明日を生きるエネルギーになるもん」

69
遼「なんか、俺……一人でやらなきゃって、思いこんでたのかもしれない」

72
ミコト「んー。遼、陸上やってたからじゃない?」

73
遼「そうかも。レーンの中は孤独だし、隣にいるのは常にライバルだからな。でも、エンターテイメントって、こう、みんなで盛り上げてくだろ」

74
ミコト「まあ、映画なんて特に、一人じゃ作れないよね。あ、カフェ経営だってそうだよ? なんでも全部を一人でやるには限界があるもん」

75
遼「……そう。すごくたくさんの人が、一緒になって、ひとつの物を作り上げてる。音楽もそう、演劇もそう、映画もそう。みんなの夢なんだよ! すっげーよな! 専門性も役割も違うみんなが、ひとつのゴールに向かって走ってる。……祭じゃね?」

※SE 足音止まる

76
ミコト「ぁ……」

77
遼「……何?」

78
ミコト「ううん。遼のそういう顔、初めて見た」

79
どんな顔? と尋ねようとしたけど、AAA(ノーネーム)に着いてしまった。

80
何か言わなくちゃ。せめて潔く、少しでいいからかっこつけたい。

81
遼「じゃ……また。最後に、ミコトとあの映画を見れてよかったよ。たぶん一生、忘れない」

82
ミコト「……最後? ふーん。あたしとはもう、一生会わないつもりなんだ」

83
遼「え?」

84
ミコト「いいけど。遼がそのつもりなら」

85
遼「あ、だ、だって……俺、まだ見つかってないし! 夢中になれるものが見つかったら、そのときは……って思ってたけど」

86
ミコト「ごちゃごちゃうるさい。……ハッキリしろ、ばか」

88
遼「てっきり……ミコトはヨリ戻す気ないんだとばっかり」

89
ミコト「ばか。ケーキ押しつけるためだけに連絡したと思ってんの?」

90
遼「え……え!?」

91
ミコト「口実だよ。気づけばか」

92
遼「ミ、ミコト……!」

※SE ドアがバーンと開く

93
ゲン「帰れ!」

94
遼「ひっ、す、すみません!」

95
慌てて手を離したけど、ゲンさんは俺に怒っているわけじゃなかった。
下取りの業者が、急いで帰っていった。

96
ミコト「ど、どうしたのおじいちゃん」

※SE 煙草を吸う音

97
ゲン「あの野郎、安く買いたたこうとしやがった」

98
遼「えっ……じゃあ機材は?」

99
ゲン「売るのはやめた」

100
遼「えぇぇぇぇ!?」

※BGM ED『ナミダと、涙。』 カットイン→フェードアウト


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