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ボイスドラマ『残響スパークル』第4話「薪なくば火たたず」シナリオ公開!

こんにちは! ノベルボch公式noteです。
ボイスドラマ『残響スパークル』はお楽しみいただけましたか? Voicyにてアンコール放送もしていますので、まだの方はぜひノベルボchをフォローいただき、ご視聴くださいね。

全7回にわたって、『残響スパークル』のシナリオ完全版を無料で公開します。この記事では第4話「薪なくば火たたず」を全文公開しています。

実際のボイスドラマを聴きながら読み込んでいただくと、声優の演技力に圧倒され、効果音や楽曲の効果に感動していただけるはずです。また、ボイスドラマ制作をしたいと考えている皆様の一助となれば幸いです。

シナリオ公開にあたって

・このシナリオは、収録時に声優が入れたアドリブや、編集時にディレクターが演出として加えた効果音を反映した『シナリオ完全版』です。実際の収録時や編集時に使用したシナリオとは一部仕様が異なります。

・行頭にある番号は、収録時や編集時に制作メンバー間で意思疎通をしやすくするための管理番号です。なお、シナリオ番号が一部飛んでいるのは、秒数を調整するために収録直前にカットしたことによるものです。

【著作権について】
この記事にて公開しているテキスト全文について、著作権は水島なぎ( @nagi_kotobano )に属します。一部または全部の無断転載、および許可のない二次利用(音声コンテンツ化、映像化を含む)はご遠慮ください。


『残響スパークル』第4話「薪なくば火たたず」ボイスドラマはこちらから


『残響スパークル』第4話「薪なくば火たたず」シナリオ全文

シナリオ公開用第4話ヘッダー

0(タイトルコール)
ノベルボchボイスドラマ 残響スパークル 
第4話 薪なくば火たたず

1
何度も夢に見る。
ハードルを越えて着地した瞬間の、火薬が爆ぜたような音。
担架で運ばれながら見上げた、空の青さ。

※SE 目覚まし時計→止める

2
遼「はー……俺も相当、未練がましいな」

3
ちょうど2年前。高校3年生の夏、合宿中に右足首のアキレス腱を壊した。
手術をしたが、高校最後の大会には出場できなかった。

4
夢を見たのは、昨日の舞台のせいだろう。
拍手喝采のカーテンコール。引退公演を成功させたリーダーが羨ましかった。
俺もあんな風に、花道を飾りたかった。

5
遼「このバイト代、何に使おう……」

6
いつもなら、友達と一緒にパーッと飲み食いして終わる。でも、このお金はそうする気にはなれなかった。

7
……よし。このお金は、陸上よりも夢中になれるものを見つけるために使おう。
ライブに行ってみるのもいいな。他の舞台を見るのもいい。自分探しの旅行か、あるいは……

※SE スマホの通知音(思考を遮る)

8
遼「……ん? ミコト!?」

9
先月別れた元カノに、「渡したいものがある」なんて呼び出されたら、ちょっとは期待するよな。

19
ミコトは俺と正反対で、夢中になれるものがある人だ。
製菓の専門学校に通っていて、「早く自分のカフェを開きたい」が口癖。
別れ話で、何て言われたっけ。確か……

20
(回想)※回想シーン=リバーブ
ミコト「遼は、何かやりたいことないわけ? たった1回の挫折を、いつまで引きずってんのよ。……一緒にいてもつまんないんだよね。別れよっか」

21
あの時は言い返せずに別れた。
今は? 今ならミコトに、なんて答えるだろうか。

※場面転換
※SE 街の雑踏 フェードイン

22
ミコト「急に呼び出してごめんね」

23
遼「いや。相変わらず忙しそうだな」

24
ミコト「まあね」

25
何て言おう。ごめん? 俺が悪かった? 夢中になれるものを見つけようとしてるんだ、とか……
言葉を探していた俺に、ミコトが何か押しつけた。
白い箱。なんだか甘い香りがする。

26
遼「……何これ」

27
ミコト「実習で作ったケーキ。もらってよ」

28
遼「……え!? 渡したいものってこれ? 俺、このために呼び出されたの?」

29
ミコト「うん? そうだよ?」

30
ヨリを戻せるのでは、というかすかな期待を打ち砕く、この素っ気なさ。未練があるのは俺だけなんだな。
このまま帰ったら、本当に終わってしまう気がして……俺は箱を開け、レアチーズケーキを選んでその場で食べた。

33
遼「……うまい」

34
ミコト「えっ……ほんと?」

35
遼「うん。なんか、懐かしい」

36
ミコト「あはっ。前はしょっちゅう食べてもらってたもんね」

37
笑った。
やっぱり、ミコトの笑った顔が好きだ。
ふと、ミコトの手にもうひとつケーキボックスがあることに気づく。

38
遼「……その箱は?」

39
ミコト「ああ、もう1人もらってくれる人がいるの。今から渡しに行くんだ」

40
それ、新しい彼氏!? ……と、のどまで出かかった問いをグッと飲み込む。

41
ミコト「じゃあね。あたし、こっちに用があるから」

42
遼「待って。……送らせて」

43
ミコト「いいのに。駅、反対だよ?」

44
遼「どうせ暇だし」

※SE 2人歩く足音

45
ミコトと並んで歩くのは久しぶりだ。
本当にこれで最後なんだろうか。何を話そう、何を伝えたらいい?
考えているうちに、ミコトはどんどん話を振ってくる。

46
ミコト「ねえねえ、さっきのケーキいくらで売れると思う? あ、経営実習の課題なんだよね。原価からいろいろシミュレーションしてるけど、価格決めるの難しくって。どう思う?」

47
遼「あー……えーと……どうだろ。1000円とか?」

48
ミコト「高すぎるでしょ」

49
遼「いや、マジでうまかったし……じゃあ500円?」

50
ミコト「それじゃ、原価ギリギリになっちゃう。ちゃんと価値も上乗せしないと」

51
遼「そういうもん?」

52
ミコト「当たり前でしょ。儲からなかったら、お店続かないじゃん。綺麗事だけじゃやっていけないんだから」

53
遼「……あ」

※SE消える(思考に没頭)

54
ゲンさんも同じことを言っていた。「綺麗ごとだけじゃ生きてけない」って。

55
演劇や音楽も同じだ。
場所代や出演料のほか、グッズやCD制作には原価がかかる。そこに上乗せするお金が、劇団やバンドが得る「対価」だ。

56
昨日見た演劇には、そこにお金を払う人がいた。ライブだってそうだ。ファンがチケットを買い、グッズを買う。だからこそ、あのバンドは音楽を続けていられる。ライブハウスAAA(ノーネーム)だって、もっと稼げていれば潰れることはなかった。

57
薪がなければ、火は消える。
エンターテイメントには「お金」がつきもの。
世知辛いけど、それが真実。

58
ただ夢中になれるだけじゃ意味がないんだ。
稼げなきゃ意味ない。お金をかける価値があるもの、誰かにお金を払ってもらえるもの。
そうじゃなければ、右足首の未練は振り切れない。
青春全部を懸けて熱中していた陸上よりも、夢中になれるはずが……

59
ミコト「遼。……りょーう!」

※SE戻ってくる(フェードイン)

60
遼「え?」

61
ミコト「あたし、ここに用があるから。またね」

※SE 階段を駆け下りる音

62
遼「あ、うん……え? ここ!?」

63
半地下のライブハウス、AAA(ノーネーム)。なんでミコトがここに?

64
ミコト「おじーちゃーん! いるんでしょ~!?」

68
遼「……え? おじいちゃん?」

64
ミコト「おじいちゃーん。あ、いたいた」


65
ゲン「……おう、ミコト」

66
ミコト「このケーキ、もらって!」

67
ゲン「またか」

70
遼「おおおおおじいちゃん!? ゲンさんが? ミコトの!?」

69
ゲン「……遼、そこでなにしてる」

72
ミコト「うっそー、2人知り合いだったんだ」

73
ゲン「おい、男のダチがいるなんて聞いてないぞ」

74
ミコト「あー、友達っていうか……元カレ?」

75
遼「ミコトォ!?」

※SE 煙草を吸う音

77
ゲン「そうかそうか。元、か。……おい、遼。上がってくよな?」

78
終わった。俺、死んだ。
絶対なにか勘違いされている。
ゲンさん、フッたのはお宅のお孫さんです。俺は捨てられた方です。
……なんて言えないまま、肩をガッチリ組まれてしまった。

※BGM ED『ナミダと、涙。』 カットイン

78
ライブハウスAAA(ノーネーム)との縁は、どうやらまだ、切れそうもないらしい。

※BGM フェードアウト


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