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ボイスドラマ『残響スパークル』第3話「飛んで火に入る」シナリオ公開!

こんにちは! ノベルボch公式noteです。
ボイスドラマ『残響スパークル』はお楽しみいただけましたか? Voicyにてアンコール放送もしていますので、まだの方はぜひノベルボchをフォローいただき、ご視聴くださいね。

全7回にわたって、『残響スパークル』のシナリオ完全版を無料で公開します。この記事では第3話「飛んで火に入る」を全文公開しています。

実際のボイスドラマを聴きながら読み込んでいただくと、声優の演技力に圧倒され、効果音や楽曲の効果に感動していただけるはずです。また、ボイスドラマ制作をしたいと考えている皆様の一助となれば幸いです。

シナリオ公開にあたって

・このシナリオは、収録時に声優が入れたアドリブや、編集時にディレクターが演出として加えた効果音を反映した『シナリオ完全版』です。実際の収録時や編集時に使用したシナリオとは一部仕様が異なります。

・行頭にある番号は、収録時や編集時に制作メンバー間で意思疎通をしやすくするための管理番号です。なお、シナリオ番号が一部飛んでいるのは、秒数を調整するために収録直前にカットしたことによるものです。

【著作権について】
この記事にて公開しているテキスト全文について、著作権は水島なぎ( @nagi_kotobano )に属します。一部または全部の無断転載、および許可のない二次利用(音声コンテンツ化、映像化を含む)はご遠慮ください。


『残響スパークル』第3話「飛んで火に入る」ボイスドラマはこちらから


『残響スパークル』第3話「飛んで火に入る」シナリオ全文

シナリオ公開用第3話ヘッダー

0(タイトルコール)
ノベルボchボイスドラマ 残響スパークル 
第3話 飛んで火に入る

※SE 電車の発車音
※SE 走る足音

2
遼「はぁ、はぁ……あっちぃ……」

1
久しぶりに、本気で走った。危うく終電を逃すところだった。

4
遼「……あ!? 給料もらってねぇじゃん」

5
お、俺としたことが。
いや……あのおっさん、まさかわざと渡し忘れたのか?
仕方ない、明日ライブハウスへ取りに行くことにしよう。

※場面転換
※SE 街の雑踏 フェードイン

8
遼「こんちはー。鈴野遼ッス! すいませーん!!」

9
ゲン「おう、遼か。お前の兄貴に電話しようと思ってたところだ。昨日の給料、忘れて悪かったな」

10
遼「いえ、今日暇だったんで、別に」

11
ゲン「ちょっと待ってろ」

※SE 財布を漁る音。小銭多め

16
ゲン「んーっと……あれ? あーそうか、昨日……すまん。給料、一日待てるか」

19
遼「はぁ!?」

20
ゲン「はっはっは! 昨日の飲み代ですっからかんだ。悪い」

23
遼「ちょっ! もー……ライブハウスの経営って、そんなに厳しいんすね」

25
ゲン「俺だって本当は、昨日のあいつらみたいな力のあるバンドを、もっと応援してやりてぇよ。でも、最近の若いやつはライブに来ねえだろ。まあ、引き際を間違えると自分のケツも拭けなくなるしな」

26
音楽なんか、いつでもどこでも聴ける時代だ。ライブに行かないことを責められているわけではない、とわかってはいるが……この場所がなくなると思うと、やはり惜しいような気がした。

※SE 電話の着信音。ガラケー

27
ゲン「お、悪い」

28
※電話の受け答えをするゲン
ゲン「はい、AAA(ノーネーム)です。……え!? あ、それは…… あー、あいつの紹介で……じゃあ、明日。はい、お待ちしてます」

29
遼「……どうしたんすか?」

30
ゲン「あー……ここらで活動してる小劇団からだ。一晩貸してほしいって。公演するはずだった劇場でボヤ騒ぎがあって、急に使えなくなったらしい」

31
遼「うわぁ……って、え? 劇団? 演劇なんかできるんすか、ここ」

32
ゲン「やってみねぇとわからねえな。でも、この場所がまだ誰かの役に立つんならうれしいね」

※SE 煙草を吸う音

34
ゲン「……あ。スタッフがいねえ」

35
遼「えぇ!? 昨日いたみなさんは?」

36
ゲン「あいつらには前々から、閉店すること言ってあったからなぁ。転職先も面倒見てやった」

37
遼「へー……」

40
ゲン「飛んで火に入る夏の虫。どうせ明日、給料取りに来んだろ。打ち合わせ同席しろ。そんで面白そうだと思ったら、お前、手伝え」

41
遼「え? はぁぁ!?」

※場面転換、間

42
劇団リーダー(女)「この度は本っ当に、ありがとうございますぅぅぅ!」

43
劇団のリーダーは、俺の母さんと同じ年くらいのおばさん……じゃなくて、女性だった。バンドのメンバーとは昔のバイト仲間で、その縁でAAA(ノーネーム)にたどりついたらしい。
公演を予定していた劇場の、電気設備だかなんだかがショートして、ボヤ騒ぎになったそうだ。1週間後の公演日までに復旧できないとわかり、公演場所を探していたとのこと。

47
劇団リーダー(女)「私、これが引退公演なんです。どうしてもやり遂げたくて……」

49
遼の心の声(まあ……引退するなら、花道を飾りたいよなぁ)

50
ゲン「よし、じゃあ明日から頼むな、遼」

51
遼「え!? 公演当日だけじゃないんすか!?」

52
ゲン「日数分の給料は出すぞ。ライブの分とあわせてな」

53
遼「……わかりましたよ、やりますよ!」

※場面転換
※SE 準備中のざわめき

54
次の日から俺は、毎日AAA(ノーネーム)に通った。大学2年の夏休み、金はないが時間はたっぷりとある。

55
練習風景も見学させてもらい、劇団のメンバーたちともちょっとだけ仲良くなった。
主役の俳優さんは俺の兄貴と同い年で、普段はラーメン屋で副店長をしているそうだ。相手役の女優さんは少し有名で、最近は再現ドラマにも出ているらしい。

56
まぶしいようなこの気持ちが、「羨ましい」という感情だと気づくのに、そう時間はかからなかった。やりたいものがあって、仲間がいて。夢を叶えようとしている彼らが……羨ましかった。

※場面転換
※SE 拍手喝采

57
公演は無事終了した。
並べた座布団の半分ほどしかお客さんは入っていなかったけど、みんな満足そうだった。

58
ゲン「打ち上げ、行かねぇのか。誘われてたろ」

59
遼「いいっす。また終電ギリだと困るし」

60
ゲン「そうか。じゃあ……ほい。今日までの給料と……ライブの日給。悪かったな、遅くなっちまって」

62
数枚の紙幣が入った封筒が、やけに重く感じる。
もうこのライブハウスに来ることもないだろう。

63
ゲン「……どうした」

64
遼「あ、いえ。その……」

65
ゲン「言ってみろ」

66
遼「あんなに大変なのに……なんでみんな、一生懸命になれるんすか? 儲かってるわけじゃないっすよね?」

67
ゲン「まあ、綺麗事だけじゃ生きてけねぇよなぁ。夢……いや、夢中になれるもんがねぇんだな、お前には」

68
遼「……」※戸惑いのブレス音

69
ゲン「そのうち見つかるといいな。気ぃつけて帰れよ」

※SE 遠ざかる足音

70
遼「……夢中になったって、全部が全部、叶うわけじゃないのに」

※BGM ED『ナミダと、涙。』 カットイン

71
右の足首がうずいた。
もう、忘れたと思っていた。
踏み込んだ瞬間、地面から受け取る反発。
ハードルを越えた瞬間の、高鳴る鼓動。
飛べなくなって2年も経つのに、足が、体が、まだ覚えている。

72
遼「……くそっ」

※SE 地面を足で踏みつける音

73
虫けらを踏みつぶすみたいに、もう叶わない夢の残骸を消せたらいいのに。

※BGM フェードアウト


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