ボイスドラマ『残響スパークル』最終話「夢のともし火」シナリオ公開!
こんにちは! ノベルボch公式noteです。
ボイスドラマ『残響スパークル』はお楽しみいただけましたか? Voicyにてアンコール放送もしていますので、まだの方はぜひノベルボchをフォローいただき、ご視聴くださいね。
全7回にわたって、『残響スパークル』のシナリオ完全版を無料で公開します。この記事では最終話「夢のともし火」を全文公開しています。
実際のボイスドラマを聴きながら読み込んでいただくと、声優の演技力に圧倒され、効果音や楽曲の効果に感動していただけるはずです。また、ボイスドラマ制作をしたいと考えている皆様の一助となれば幸いです。
シナリオ公開にあたって
・このシナリオは、収録時に声優が入れたアドリブや、編集時にディレクターが演出として加えた効果音を反映した『シナリオ完全版』です。実際の収録時や編集時に使用したシナリオとは一部仕様が異なります。
・行頭にある番号は、収録時や編集時に制作メンバー間で意思疎通をしやすくするための管理番号です。なお、シナリオ番号が一部飛んでいるのは、秒数を調整するために収録直前にカットしたことによるものです。
【著作権について】
この記事にて公開しているテキスト全文について、著作権は水島なぎ( @nagi_kotobano )に属します。一部または全部の無断転載、および許可のない二次利用(音声コンテンツ化、映像化を含む)はご遠慮ください。
『残響スパークル』最終話「夢のともし火」ボイスドラマはこちらから
『残響スパークル』最終話「夢のともし火」シナリオ全文
0(タイトルコール)
ノベルボchボイスドラマ 残響スパークル
最終話 夢のともし火
1
息を整えて、待つ。スターターが鳴る、一瞬を。
※SE スターターピストルの音。火薬。
1
残響の中、選手が一斉に走りだす。
2
あとは1歩ずつだ。近道はない。目の前のハードルを、1歩ずつ超えていくだけ。
ハードルってのは、障害でもなんでもない。
目標だ。
1歩ずつ、着実に超えていくための目標。
3
目の前のハードルが、近く見えることがある。隣の選手が見えなくなって、ノイズが消える。
仲間の応援が耳に届く。
行け。前へ。前へ。前へ……
※SE グラスと氷
4
遼「本当にうまいハードル選手は、跳ばないんす。そこにあるだけ。ハードルは目の前の目標で、前へ、前へって足を動かすだけなんす」
5
ゲン「へえ。そういうもんか。大学ではなんでやらなかった?」
6
遼「右の足首を、怪我しちゃって。もう二度と、同じようには走れないって気づいて、それで」
7
ゲン「そうか。……ほれ。飲め」
※SE 酒を注ぐ音
8
遼「あざっす」
※SE グラスに酒を注ぐ音
10
ラストライブは、楽しかった。
あっという間に終わってしまった。まだ、夢の続きにいるような気がする。耳の奥で、脳内で、火花が弾けたままだ。
11
名残惜しくて、最後まで撤収作業を手伝っていた俺は、終電を逃してしまった。ゲンさんがここにいていいと言うので、こうして酒を酌み交わしながら始発を待っているというわけだ。
※SE ごくごくと飲む音
12
遼「……っぷは。走ってる側からするとね。応援って、馬鹿にできないんすよ。大会本番で記録が伸びたり、実力以上のものが発揮できたりするんですって」
15
ゲン「聴こえるのか? でかい会場だと、一人の声援なんか届かねぇだろ」
16
遼「それが、ちゃんと届くんすよ。というか、声援が聞こえるのはコンディションがいい証拠っす。ゾーンっていうんですけどね。何もかもがクリアになって、つま先から髪の毛まで、力がみなぎる瞬間があるんですよ。逆に雑念があると、応援は聞こえない。そういうもんです」
※SE グラスと氷
17
ゲン「お前、本当に陸上が好きだったんだなぁ。……足、残念だったな」
18
遼「いや、もういいんです。挫折をなかったことにはできないし、コケても倒れても、立ち上がるしかないって思い出しました。ようやく、未練吹っ切れた気がします」
19
ゲン「そうか」
20
遼「俺、見つけたっす。俺……俺は、夢中になっている誰かを応援する人になりたい!」
22
遼「……ほら、今日、音楽ライターさんが来てたじゃないっすか。ああいう風に、がんばってる誰かに光をあてる仕事っていいなあって」
23
遼「それからAAA(ノーネーム)みたいに、誰かが活躍できる場所をつくるのもいいっすよね。だって、こういう場所があるからこそ、バンドとか劇団とかエンターテイメントが世の中に出てこれるわけでしょ……あ、えーっと……できれば、ですけど」※後半、気まずくて黙り込む感じ
25
ゲン「……ふっ。死んだ魚が、息を吹き返したな。あるじゃねーか、お前にも。腹の底からわきあがってくるマグマみてぇな情熱が。夢中になれるもんが、ちゃんとおまえにもあるじゃねえか」
※SE 酒を注ぐ音
36
ゲン「……俺もな。昔、挫折したんだ」
37
遼「え……」
38
ゲン「若い頃は、音楽で食っていくつもりだったんだけどなぁ」
39
売れないミュージシャンが、彼女との間に子どもができたのをきっかけに結婚し、就職。
上司ともめて辞表をたたきつけ、独立。嫁の反対を押し切って、ライブハウスを始めた。
よくある話だ、とゲンさんは笑った。
※SE グラスと氷
40
ゲン「嫁にも息子にもずいぶん苦労をかけた。でもな、後悔はしてねぇぞ。どん底にも意味を与え、光を当ててやれるのがクリエイティブのいいところだ。血ヘド吐いて宝石を生み出すのがエンターテイメントの醍醐味だろ。ここはそういう場所だ。30年、やってよかったよ。AAA(ノーネーム)からメジャーになったバンドもいるんだぜ」
42
この人は、「信じる」人だ。売れていないミュージシャンたちの才能を信じた。AAAという場所がともし火となり、誰かの夢になることを信じた。そして俺のことも信じてくれたんだと思う。だからあの時、残り火に真綿をねじ込むようにして、俺にここを手伝わせたのだろう。
43
遼「……ほんとに、ここ……なくなっちゃうんすか?」
44
ゲン「ああ。AAA(ノーネーム)はやめる」
45
遼「……ぐすっ」※鼻をすする
48
ゲン「馬鹿やろう。しゃんとしろ」
※SE 背中を叩く→なでる音
49
叩かれた背中が、熱い。今までで一番、優しくて、熱かった。
50
遼「ゲンさんはこれからどうするんすか?」
51
ゲン「あー……夫婦で隠居、と思ったけどな。お前らのせいで、腹の底にしまってた燃えカスに火がついちまった」
53
ゲン「……ま、楽しみにしてろ」
※場面転換
※BGM ED『ナミダと、涙。』 カットイン
54
あの夏、ライブハウスAAAは30年の歴史に幕を下ろした。
3年が経ち……今、新たな幕が上がる。
※SE 防音扉をあける音
55
遼「お待たせしました! 開場しまーす!」
56
ライブハウスAAA(ノーネーム)は、多目的スペースZ-one(ゾーン)として生まれ変わった。
音楽ライブだけじゃなくて、演劇ができる小劇場や、絵画の個展会場、習い事の練習場所として活用してもらっている。
AAA(ノーネーム)の元スタッフが立ち上がり、地元の商店街と協力して、クラウドファンディングを立ち上げたんだ。たくさんの人の応援のおかげで、Z-one(ゾーン)は地域の交流の場になった。
※SE ヒールの足音
58
ミコト「やっほー。オープンおめでと」
59
遼「ミコト!? 店は?」
60
ミコト「定休日。も~、あたしの予定、ぜんっぜん見てないよね。アプリで共有する意味ある!?」
61
遼「ははっ、ごめんごめん」
62
ミコト「ま、忙しいのはいいことだけどさぁ」
63
大学を卒業した俺は、Z-one(ゾーン)のスタッフとして働いている。イベントのない日は、地元の飲食店や起業家を取材するライターのようなこともやっている。
ミコトは、商店街にある人気カフェの雇われ店長だ。独立に向けて資金を溜めつつ、修行中。
64
遼「ゲンさんは?」
65
ミコト「今、沖縄だって」
66
遼「沖縄ぁ!? 先週、札幌だったよな」
67
ミコト「ギター片手に全国のライブハウスに参戦って、今いくつだと思ってんの? まあ、おばあちゃんも楽しそうだからいいけどさぁ」
68
遼「いずれ、Z-one(ゾーン)でもやってほしいんだけどな。いや……取材が先か? ご長寿ミュージシャン特集でも組むか」
69
ミコト「……ふふっ、好きにやれば? おじいちゃん、喜ぶと思うよ」
70
遼「うん。そうする」
71
真綿をねじ込まれた残り火が、再び燃え上がった。
誰かの生きざまが残響となり、くすぶっていた魂を揺さぶったのだろう。
風が吹き、雨が降れば、また挫折を味わうかもしれない。
それでも、夢のともし火は消えない。そこを目指して進むだけだ。
1歩ずつ。
前へ。前へ。
※BGM ボリュームアップ→フェードアウト
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?