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妖怪の世界に「これからを生きる」ヒントがある(かも)

子どもと「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメを見ている。
シーズン3のエンディング曲は吉幾三が歌っていたのか、と驚く。

その名も「おばけがイクゾー」

歌のみならず作詞・作曲も手がけ、歌詞と曲調に水木しげる先生の世界観をしっかりと踏襲しながら、独特に訛り、タイトルに自分の名前まで混ぜ込む遊び心。
さすがは吉幾三、と当時とは違う感想を持った。

そして、当時と異なる感想としてはもう一つ。

♪ おばけは死なない~ 病気もなんにもない

シーズンを追って歌い手が変わっても、変わらず流れるオープニング曲の中で、覚えている人も多いであろうこのフレーズを改めて聞き、不思議な気持ちになる。

近年、現実味を帯びはじめ、注目度の高まっているのが老化研究である。
老化研究の第一人者であるシンクレア博士は「老化は病気であり治療できる(David A. Sinclair, 2020)」と述べ、その著書「LIFE SPAN」は20か国で刊行され世界的なベストセラーとなっている。

LIFESPANの表紙

一昔前まで、若返りや不老不死はSFの中にしかなかったが、いまやアンチエイジング研究は「遅らせる」を越えて「若返らせる」段階にあり、投資や創薬開発も相当規模に進んでいる。

実現すれば倫理的な問題が発生し賛否両論が出てくることも含めて、まさしくイノベーションである。老いなき世界の足音は、すぐそこまで来ていると感じさせる。

20年前までこの世にかたちさえなかったものを、いまやほとんどの人が手にし、肌身離さず身につけるようになった。スマートフォンである。

かつてテストでのカンニングは予想される正答をあらかじめ紙に書いておくか机に忍ばせておく必要があったが、いまではスマートフォンをこっそり操作し盗み見ればほとんどのペーパーテストに対応することができる。

こちらはカンニング違い

そして、そうした膨大な情報の海の中からたしからしい情報をつかみ、まるで人間のように応答するChatGPTが世間を驚かせ、AI技術はチェスや囲碁、将棋の世界ではプロをも負かし、もはや敵なしとなった。

「Deep Blue(ディープ・ブルー)」に敗北するチェス王者ガルリ・カスパロフ

結果として、情報の記憶や知識、計算能力に以前ほどの価値を見出せなくなってしまった。「歩く百科事典(walking dictionary)」や「人間計算機」という異名も、スマホの陰にかすんでしまう。公教育は遅々として変わらないでいるが、人間が身につけるべきとされるスキルや能力の中身は、スマホ以前、AI以前と様変わりしている。

そのとき、この歌が改めて脳裏をかすめる。

♪ おばけにゃ学校も 試験もなんにもない

学校や試験は、将来的に今とすっかりかたちを変えてしまうはずだ。すると未来は、もしかしたら妖怪たちの世界といえるのではないだろうか。

「ゲゲゲの鬼太郎」シーズン3の第1話は、たんたん坊と呼ばれる妖怪が暗躍する。

たんたん坊 わりと強い

自然を破壊する人間の傲慢さに憤り、この世に人間は不要だと思い立ち、人間を取り込んで妖怪に変える力を使って、この世界の全てを妖怪だけの世にしようと企む。

作中でたんたん坊はほかの妖怪も従えて、建設中の競技場の工事を中止させ、そこに「妖怪城」を出現させる。不思議に今の世相ともリンクする。

闇夜にそびえたつ妖怪城

さらった人間を妖怪に変え、妖怪城を根城に人間に取って代わる計画を立てる妖怪たち。「手あたり次第、子どもをさらってこい」というたんたん坊の命令に、お安い御用で、と答えながら「なぜ、子どもばかりなのですか」と尋ねる「ねずみ男」にこう答える。

「妖怪にするのは、人間として未熟なやつが一番だから」

たんたん坊

震えが止まらない。

鬼太郎は一貫して人間と妖怪の仲裁役をしているわけだが、「妖怪の世界で妖怪たちが幸せに生きるとはどういうことか」を考えることと、「未来において人間が幸せに生きるとはどういうことか」を考えることは似ている気がする。

♪ おばけは死なない~ 病気もなんにもない
♪ おばけにゃ学校も 試験もなんにもない

人間世界にある苦痛が妖怪たちの世界にはないよ、と歌われるこの曲で、それらが取り除くことのできる苦痛になったとき、人間が新たに抱える苦痛は何か?その世界で生きることの幸せは?

妖怪たちの持つ苦痛や幸せを想像してみることが近道かもしれない。
他の話も見てみたくなった。ゲゲゲの鬼太郎はなんとも奥深い。


おわり

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