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沈みつつ、朝

沈みつつ、朝

ソファに沈んだまま二人は朝を迎えた。
アサが先に起きて、キッチンまで行き水を一杯飲んだ。
タナカはその様子を沈んだまま、視界は霞んだまま眺めていた。

「明けましておめでとうございます」

アサにそう言われ携帯を確認する。
5:03と仰々しい文字の下に、1/1 sat。

「うん、明けましておめでとう」

タナカも立ち上がりキッチンで水道水を一杯飲む。
本能的に体の内に閉じ込めていた熱が、水の冷た

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漂う絵本

漂う絵本

「俺、絵本しか読まないんだ」

私が毎晩のように本を読んでいると、彼は隣でこう言っていた。
財布、携帯。出会った頃、彼はできるだけ荷物を持ちたくない性分であったが、いつしかそれに似つかないほど大きなカバンを持つようになった。小麦色で中身の重みによって湾曲したカバンは、マドレーヌのよう。

彼はそのカバンに、財布、携帯それに絵本を2冊入れていた。

「いつも思っていたんだけど、何で絵本1冊じゃなくて

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