
バランス評価を考える ~COMとBOSの関係性をみるための方法~
おはようございます☼
本日も臨床BATONにお越しいただきありがとうございます。
217日目を担当するのは、脳神経外科病院の回復期病棟にて勤務している理学療法士のシミーです!
私は今日も元気に臨床に励んでおります!(^^)!
今月の臨床BATONは特別号となっております👏
なんと、メンバー全員が『評価』というテーマでお届けします!
セラピストとして臨床において『評価』とは切っても切り離せませんよね。
臨床で患者様のために日々奮闘している11人の『評価』をあますことなくお届けいたしますので、是非チェックしてください。
前回は、『身体失認の脳画像とは』という内容でお届けしました。
臨床でよくわからない高次脳機能障害において、身体失認もやっかいですよね。
脳画像から身体失認をどう読み解くのかという内容になっておりますので、興味のある方は是非一度下記のリンクより覗いてみてくださいね!
本日は、『バランス評価』についてお伝えしていこうと思います。
臨床において『バランス』とは非常によく使うワードであり、患者様も『バランス』で悩むことは多々あるのではないかと思います。
バランスに関係する要素は非常に多く、何をどのように考えていけばいいのか混乱するのではないでしょうか?
そもそも『バランス』とはどのようなもので、どういった視点で評価を進めていけばいいのかをお伝えします!!
〇バランスとは?
身体質量中心(COM)を支持基底面(BOS)に対して制御する能力である.
引用:モーターコントロール原著第5版 研究室から臨床実践へ 原著Anna Shumway-Cook Marjorie H.Woollacott 医歯薬出版株式会社 P163
バランスというのはCOM をBOSに対して制御する能力のことです。
つまり、COMを制御することが重要なのです。
バランスは安定性という言葉と同義で使われ、上記のことをいいます。
身体質量中心(以下COM)は身体全体の質量の中心にある点と定義され、個々の体節のCOMの荷重平均を見つけることで計算されます。
支持基底面(BOS)は、身体を指示している面と接している身体の範囲と定義されます。

私たちは動かないと生活ができません。その生活の中でバランスとは課題(ADLなど)を遂行するために必要不可欠なものなのです。
BOSの中にCOMを留めておくこともバランス、BOSが絶えず変化する中でもCOMを維持しておくこともバランスです。
捉える現象としては、BOSとCOMの関係性です。
〇バランス制御の3つのタイプ
・姿勢平衡(postural equilibrium)
姿勢筋緊張を適切に保ち、姿勢動揺を伸張反射の調整を絶えず行うことによって達成されます。
座位、安静立位、一定速度での歩行などが姿勢平衡を必要とする課題です。
・自動的姿勢応答(automatic postural response:APR)
筋共同収縮(synergy)を組織化して予期せぬ外乱を緩和する修正制御の役割を果たしています。
歩行中の障害物につまずく、人ごみの中でぶつかるなどの課題であり、外乱を加えられたときに姿勢平衡を維持する能力のことをいいます。
・予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment:APA)
随意運動に随伴する姿勢反応で、肢節の運動によって生じる体重心の移動に先行して生じ、姿勢の安定性と随意運動の正確性を高めます。
重いものを持ち上げたり縁石を乗り越えるような課題です。
課題に応じてバランス制御のタイプは異なります。
患者様にとってどのようなタイプが苦手なのかを知ることで、どのような機能が足りていないのかを考えていきましょう。
〇姿勢戦略
反応的バランス制御に使われる運動パターンは4つあります。
・足関節戦略:主に足関節を中心とした身体運動を介してCOMを安定な位置に回復します
・股関節戦略:股関節に大きくかつ迅速な運動を発生することでCOMの動きを制御しており、足関節には逆位相の回旋を伴います
・踏み出し戦略:下降するCOMの下にBOSを配置させるために急速に下肢を動かし踏み出します
・リーチ把握戦略:BOSを拡張させ支持を得るために急速に物にリーチします
これらの戦略は外乱の大きさにより、足関節→股関節→踏み出しorリーチ把持と変化していきます。
COMの変化により戦略が変化してくるのでどのような戦略を取っているのかを把握できるようにしましょう。
〇バランス障害があるとどうなる?
バランス障害とは、BOSに対してCOMを制御できなくなった状態です。
このような状態に陥ると人はどうなってしまうかというと、転倒してしまいます。
そうでなくても、遂行している課題が遂行できない状態になったりと、行動全般に支障をきたしてしまいます。
つまり、ADLを安全に行えなくなり、転倒の危険性が高まるのです。
患者様の目的はそれぞれ異なりますが、バランスとは私たちを含め活動していく中で必要不可欠なものであるということを今一度認識しておかなければなりません。
私自身の経験として、「ADLが自立しているからバランスは問題ない」と安直に考えていたことがありました。
しかし、実際の病棟での生活や、退院後の生活の中で、出来ていると思っていたADLがその患者様にとっては不十分でありもっと良くなりたいと思っていたのです。
実際にバランスを評価してみると、安定していると思っていても課題の遂行には不十分であったことに気づきました。
BBSやファンクショナルリーチ、TUGなどで数値化してカットオフ値と比較することも重要ですが、どのようにCOMを制御しているのかを詳細に把握するということが欠けていました。
量と質のどちらが大切かということではなく、どちらも大切なのです!
COMとは目に見えないもので評価する中でも主観的になりやすくセラピストの経験に左右される要素であります。
しかし、バランス評価のバッテリーと合わせて考えていくことでより詳細な『バランス』を把握することができます。
そのためには患者様のわずかな変化も見逃さないような見方や触り方、誘導が必要であると思います。
〇バランスを評価する
まず、バランスの評価ではアライメントをみていきます。
COMとBOSの関係性を把握するため、各体節間の関係性がどのようになっているのかを把握しておかなければCOMをどのように制御しているのかわからないからです。
まずはCOMの位置を把握しておきましょう。
COMは立位の状態で骨盤内で仙骨のやや前方に位置しています。
仙骨の中にあるため、実際に反応をみていく際には上半身質量中心を指標にするとわかりやすいです。
上半身質量中心はTh7~9にあります。
評価の中でCOMの反応をみる際にはTh7~9を指標にしてみましょう。
方法としては、臥位、座位、立位でどのようなアライメントかをみていきます。
前後左右に対照的になっているのか?
みていくポイントとしては、頭部・肩・体幹・骨盤・股・膝・足がどのような位置関係になっているのかを把握していきましょう。
支持基底面の幅は、左右の内果(または中足骨頭)間の距離を測ることで数値化できます。

ここまでみてからCOMをどのように制御しているのかを評価していきましょう。
・安静時立位姿勢での姿勢動揺を触診します(呼吸などによる動揺方向をと程度を把握)
・座位での安定性限界と姿勢戦略を確認します
前後左右への誘導や随意的に重心を移動するときの姿勢戦略を確認します
・立位での安定性限界と姿勢戦略を確認します
前後方向に誘導し、対応の動き始めや姿勢戦略の特徴を把握します

・立位にて頭頚部、肩甲帯の自由度を確認します
片側踵上げまたは頭上を越えるリーチなどの末梢の選択的な動きに対する姿勢制御の状況を確認します


姿勢制御がよい状態にあれば、頭頚部・四肢の各関節を選択的に動かす(誘導に対して追随する)ことができ、COMを高い位置で維持できます。
しかし、姿勢制御に問題がある例では、運動・誘導前から身構えが強く、誘導に対して抵抗があり、姿勢動揺や偏倚が大きくなります。
また、COMは低下したり、高い位置で維持できなかったりします。
最初に確認したアライメントと、徒手的に、随意的に確認した重心移動からどの方向にCOMを制御しやすいのか?を把握します。
アライメントとCOMの移動に関係性があるのかを考えながら進めていくと、どの方向やどういった課題ではバランスがいいのか、悪いのかを明確化することができます。
実際の一例を考えていきます。
立位の状態で徒手的に重心を前方移動させたときに患者様が体幹を前傾するような反応が出たとします。
このような反応は股関節戦略を使っていると判断できます。
そのときに、姿勢を止められるか?それとも上肢で支持しようとするか?
さらに、上肢を自由に動かすことができるでしょうか?
止められるのであれば、COMを制御できているということです。
上肢で支持しようとするということは、COMを制御できずBOSから逸脱することを防ぐために上肢で支持してBOSを広げるという反応です。
最初の誘導の方向を麻痺側と非麻痺側で比較してみて反応の差からCOMをどう制御しているのかを確認していきます。
上肢を自由に動かすことができるのであればCOMを制御できているということでもあります。
止められない原因は何なのか?
→筋緊張異常?運動麻痺?感覚障害?など、どのような身体機能の低下が影響しているのかを考えていきます。

〇まとめ
・バランスとは、COMをBOSに対して制御する能力のことであり、バランス障害とは、COMをBOSに対して制御することができない状態のことです。
・バランス制御のタイプは3つ、姿勢平衡、自動的姿勢応答(APR)、予測的姿勢制御(APA)があります。
・バランス障害があるとCOMを制御できないため、転倒につながってしまいます。そうではなくてもADLの遂行に問題が生じ、結果として介助が必要になったり、活動範囲が制限されてしまいます。
・バランス評価ではまず、アライメントからみていきます。ポイントとしては頭部・肩・体幹・骨盤・股・膝・足がどのような位置関係になっているのかを把握していきましょう。
・アライメントが確認できたらCOMをどのように制御しているのかを評価していきましょう。
・COMが高い位置で維持できない、身構える、抵抗感がある、頭頚部や上肢の自由度が制限されるなどは十分な制御ができないということがあるかどうかを判断するポイントとしてみていきましょう。
〇参考文献
・モーターコントロール原著第5版 研究室から臨床実践へ 原著Anna Shumway-Cook、Marjorie H.Woollacott 医歯薬出版株式会社
・理学療法ジャーナル バランス再考 第52巻 第9号 2018年 株式会社医学書院
・脳卒中の動作分析-臨床推論から治療アプローチまで 金子唯史2018年 株式会社 医学書院
・基礎運動学 第6版 2008年 中村隆一ほか 医歯薬出版株式会社
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
バランスとは非常に多くの要素が関係しており、ここに記載したものは「COMとBOSの関係性について」に限局した内容です。
まずは現象として捉えることができ、理解して患者様に説明できないと、『バランスが悪いです』という非常に抽象的な説明となり何がどうなっているのかわからないままとなってしまいます。
是非、明日の臨床から患者様のバランスを評価するための一助になると幸いです。
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