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臨床の思考【身体と手の間の関節が無い症例】

脳卒中患者の上肢に問題を来している多くの方は空間に対して、手指をどのように動かすかに注意を向ける傾向があります。

例えば、「ペットボトルに手を伸ばす時あなたはどこを動かしますか」と質問すると、多くの方は「手」と記述します。
 
結論から言うと、手だけではありませんよね。

この時、言語として「伸ばす」と使っているので正しくは「」です(細かいですが…)。
 
大切なのは合ってるあってないではなく、
視覚的に見えやすいor麻痺の症状が出やすい」箇所である「」に意識が向きがちです。
 
理由は簡単です。

病前はそんなこと意識しないですし、視覚的にも注意が向きにくいので、必然的に本人は、物と手の関係にしか認知過程が働かないのです。

その為に、セラピストは何ができるのか、ただ手を伸ばす時に肘を使って下さいでは何の意味もありません。

症例を交えてお話しいたします。

症例(以下A氏)【基本情報】

30代女性、右片麻痺、下肢より上肢が重く、弛緩性麻痺で日常生活上では麻痺側上司の参加は一切ない。
軽度失語症を認めるが、意思疎通は可能、左半球損傷によるうつ傾向あり、自身の身体についての記述や、目標は具体的にはなく、「手が動くようになってほしい」のみ発言が聞かれる。

回復期5ヶ月を経て、退院後すぐに当センターを利用。障害受容が出来ておらず、回復へのモチベーションが低いも、今後の不安から利用となる。

「手を挙げてみてください」

第一声が「動きません」でした。

動くのに動かないと話す意図は何か、とまずは考えましたが、基本情報にも記載した通り、うつ傾向やモチベーションの低下、障害受容も出来ていないので、身体的な変質よりそちらの要因が強い印象でした。

「できる範囲で手を挙げてみましょう」

この質問で右上肢を動かしてくれましたが、その動きは不可解な動きでした。

『座面は左後方に移動させ、右股関節は屈曲/外旋から踵は浮き、骨盤〜胸椎は屈曲/右回旋、肩甲骨挙上/下方回旋/肩関節伸展/肘関節屈曲』させて、前上方とは反対に後方に手を移動させる動作を行いました。

この動きは、『肩を動かす指示と、肩を動かす指示と、手を動かす指示で同じ現象』が起きました。

なぜこのような現象が起きたのでしょうか??

右麻痺の手を挙げる動作とは?

「手を挙げる」という言語的な意味理解の低下は右麻痺だと容易に想像がつきます。

少し話がズレますが、よくセラピストの評価の時に「手を挙げて下さい」と声掛けをする事が多いと思いますが、左麻痺では空間の認識と自身の関節との不一致が生じて、代償的なパターンを使って上肢を挙上させますが、右麻痺では違う反応が起きる事があります。

1つは『手を挙げる動きをどのように認識しているか』です。

手を挙げるのも人によっては肘を出来るだけ曲げた状態で顔の横あたり手を伸ばす方や、肘を出来るだけ伸ばした状態でピッと手を伸ばす方もいます。

人によって、この「手を挙げる」という動作は、考え方や動かし方まで異なる為、右麻痺は『失行症』という症状が出現するので、より混乱を招くことが多いです。

体性感覚-視覚-言語の統合がうまくできない右片麻痺の方に対しては、そういった側面も視野に入れた観察や評価が必須となります。

話は戻りますが、この方が「手を挙げた」時に、なぜ上記で説明したような現象が起きたのか。考えてみましょう。

なぜ、肩と肘と手の指示で動きが変わらないのか?

目的の行為は『机上にあるペットボトルを持つ』として、観察/評価をまとめます。

まずは抗重力筋の活動が得られないことによる筋緊張の低下が前提にあります(今更ですが)。

回復期5ヶ月の中で、特に上肢の訓練を受けず、亜脱臼の為、肩の運動に制限を来していたそうです。
 
その中で、手は机上に設定し、ペットボトルまで手を伸ばす時にどの関節を使う必要があるか問うと『手です』と記述があった。
 
th「これは手が動いていますか?」
↪︎視覚情報も入れつつハンドリングしながらリーチアウト
A氏「肩ですか?」
↪︎上記同様
A氏「わかりません」
 
この時、意図的に肘関節のみ動かしつつリーチアウトを繰り返しましたが、肘関節への注意は向くことができませんでした。

右上肢を動かすと言う認識が手に固執している事もあり、手を空間に動かす時にどの関節がどういった役割があるのか、視覚と体性感覚のズレも生じていると思いますが、言語的な意味合いにも変質がある為、各関節の動きに対して、個別的な動きを求めても同じ動きになったのはここが原因ではないか、まで仮説としてはあげます。

考え方

手を挙げる動きで屈曲回旋パターンが出現することは多々あります。

これに対して、筋緊張の問題や、痙性麻痺、感覚障害、筋出力の低下など、外部環境的な問題も多く潜んでいますが、それだけではないことを考えてほしいです。

この方が5ヶ月もの期間を病院で毎日欠かさずリハビリに取り組んでいたのに、机にすら手を乗せる事ができない現象について、あなたならどう考えますか?

アライメントを整えたり、筋を促通したり、反復的に課題を取り組むだけでは解決しない問題が潜んでいるのだと思います。

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