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臨床の思考【動かない右手[失行症の訓練の組み立て方]】

動きません

手は足と違い、もう片方の動く手を使えば、大抵のことは問題なく出来ます。

その為、動かし方が分からなければ全く使えません。

特に、右片麻痺の動かない手に関しては、いくら運動単位を動員しても、学習として汎化しにくい傾向があります。

なぜなら、問題が根本的に違うので…

私が体験した症例を交えてお話ししたいと思います。

失行症って珍しい病気と思ってないですか?

左半球損傷 = 「失行症

と疑うべきです。

観念失行、観念運動失行など、病名通りの症状ではなく、

右片麻痺の世界は、

行為受容器での情報変換が出来ないことで、

動かない手」になっている、

もしくはなっている可能性があることに視点を置いてください。

自費リハビリ施設に通われる方は、

ある程度麻痺がある方なので、

単なる随意性低下や不活動による廃用性の問題も混ざっていますが、

右麻痺の方の殆どが『高次脳機能障害

いわゆる『失行症』の問題を来しているケースが圧倒的に多いです。

症例を交えてお伝えします。

右手を「動きません」と答えた症例

【症例情報】
▶︎ A氏、30代前半、女性
▶︎ 出産時出血で被殻出血(予測では視床寄り)
▶︎ 右片麻痺
▶︎ 軽度の失語症(身体の言語でエラー、情動系で軽度の喚語困難、コミニケーションは容易)
▶︎ 発症から1年弱
▶︎ SLB+T字杖にて屋内外歩行自立、体幹機能は保たれており非麻痺側でのバランスは上手、右腰背部の疼痛、反張膝を認める。

初回体験時、不可思議な現象を目の当たりにしました。

A氏に、「動かせる範囲でいいので手を動かしてみてください」と教示をすると

「動きません」

ときっぱり断られました。

その際、全く動かす素振りは無く、随意的な反応は一切ありませんでした。

この『動きません』の言葉に隠された問題は何か。

考えましょう。

「動きません」の記述は随意性の問題?

まず、考えられるのが随意性の低下です。

実際に動かす事が出来ないなら、現実的に動かす事は出来ないでしょう。

しかし、この方の歩行を見た時、その可能性は無いと判断できました。

非麻痺側優位での立ち上がり~歩行、その時、麻痺側下肢での支えは全くできておらず、杖を斜めに付け、麻痺側下肢は膝関節でロックさせ、外部の環境を上手く使いながら固定的な姿勢を取っていました。

その中で、上肢の緊張は一切上がりませんでした。

麻痺側で支える事が出来ていないにも関わらず…

何に基づいて「動きません」と判断しているのか

まず、考えなければいけないことは、

「何に基づいて動かないと言っているのか?」

についてです。

人は必ず行為受容器で運動イメージと実際の運動単位に下す過程があります。

この時に、比較される運動イメージと、実際の運動単位のズレを修正して、運動をコントロールします。

この方は、被殻出血なので大脳皮質は生きていることが予測できます。

その為…

病前の体性感覚のイメージで動かしている

可能性が非常に高いです。

失行症の捉え方

一度、整理をしましょう。

A氏の右手について「動きません」と記述したのはなぜでしょう。

私の仮説は以下です。

右手の動きについて、潜在的に動かせる機能があるにも関わらず、「動きません」と記述があり、視覚情報への注意が強く、狙った場所が全く動かない状態でした。

体性感覚と言語の情報変換のエラーが生じており、被殻出血の為、大脳皮質は生きていることから、病前の体性感覚のイメージで動かしていることで「動きません」と記述したと仮説。

A氏は被殻出血により、大脳皮質から受容器までの経路が損傷を受け、病前に使っていた経路が使えない状態が脳の中では起きました。

しかし、行為受容器の設定が病前のままの為、運動単位の動員が取れず、機能としいて保たれている体幹での代償が生じています。

つまり、病前から病後へのアップデートが出来ていない状態と言えます。

簡単に言うと右手という言葉と今の右手があっていないということです。

それに対して、リハビリはどうすればいいのでしょうか…

訓練の組み立て【基準を作る】

違いが無いものに情報は生まれない

A氏は動かない右手に対して、何と比較して動かないのかを明確に表現ができません。

なぜなら、身体的な言語は使えず、病前のイメージで身体を動かそうとしているので、麻痺側から得られる情報が何もないからです。

つまり、この「何もない情報を知る為の基準を作ること」こそが失行症状には必要な訓練となります。

A氏の場合、言語は病前と近い為、言語的な教示や身体の言語は訓練とは導入してはいけない。

その為、

体性感覚-体性感覚で訓練を組み立てる』

必要がある。

麻痺側での訓練は「できない/わからない」で処理する為、難しいので、

非麻痺側から基準を構築していきます(このケースは両手の行為からでもOK)。

視覚情報を基にどこが、どう動いているのか(体性感覚)を指差しと接触で示させ、
認識できた段階で閉眼でどこをどう動いたか(体制間かう)を上記と同じ方法で示させる。

単関節レベルで基準が出来た段階で、その基準を麻痺側に置き換えて、上記の方法を行い、

非麻痺側と麻痺側のイメージの違いを認知させる。

そこから、

肘関節と肘関節ではない関節=肩関節。

肘関節と肩関節ではない関節=手関節。

と学習の積み重ねを図っていくと動かせるようになる。

おわりに

A氏の受けた病院でのリハビリはかなりお粗末なものでした。

高次脳機能障害の知識が無い為に、できない事を言語的に教示された影響で、非麻痺側でしか行為を選択できない状態になっていました。

まだ30代にも関わらず、また潜在的な機能が保たれているのにも関わらず、適応しないSLBの装具で自宅退院となり、今後はSLBは外せないと医師と理学療法士は結論付けていました(直接TELしました)。

その理学療法士は20年のベテランでした。

本当に、残念に思います。

1人でも、こういった症例が救われればと思います。

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