見出し画像

ドラム動作の獲得に向けて

趣味活動は、生きていく上で必要不可欠ではありませんが、この「やりたいこと」ができないことは、ここで言う趣味活動は人が人らしく生きていくためには必要不可欠だと、私は思います。
 
本日は、回復期病院で1年目の時に担当させて頂いた患者様(以下A氏)の獲得したい行為、「バンドの復帰」を目標に介入した内容を投稿したいと思います。

はじめに

セラピストは、自分が経験した事のない「趣味活動」、サッカーや野球などのスポーツもあれば、トランペットやギターなどの音楽関係、編み物や洋服づくりなどの創作活動など、多種多様な行為を達成する為にあらゆる手段を用いて、リハビリを提供します。

その時、セラピスト自身が経験した事の無い活動に対して挑まなければいけません。その行為にどういった手段で獲得に導けるか、一つは、動作分析が必須だと考えます。

趣味活動を観察する為の手段

ここでは、ドラムを取り上げますが、A氏がイメージしている部分を再現するには、以前の行為を観察できるデータ(動画や写真)、本人や家族、友人の記憶、その行為に近い能力を持っている人の動作観察があげられます。

この時、私が選択したのは
①「以前の演奏の動画を借りて、現在と過去との相違を抽出する」
②「ドラム経験者の動作分析する」
③「文献から、ドラム動作に必要な構成要素を検討する」
を実行しました。

①以前の演奏
これは、バンドということもあり、映像が暗く、ボーカルメインで撮影の為、あまり参考にはなりませんでした。
②ドラム経験者の動作分析
係長の1人がドラム経験のある方で、簡易的なドラムセット(音の出ないやつ)を先輩から借りて、病院内で動画を取らせてもらい、その分析を行うと、ドラムに必要な構成要素が大まかに図る事が出来ました。
③文献
これも意外に文献として分析データがあり(もちろん片麻痺ではありません)、より細かい構成要素を調べる事が出来ました。

ドラムとは?

山本らは「ドラムは、曲のリズムを決定する重要な役割を担うことが多い。正確なリズムや曲の史にあったリズムによって、バンド全体のテンポを保ち、曲の雰囲気を表現する事で、激しい曲では動作を大きくし激しく叩き、静かな曲では動作を小さくゆっくり叩くことで、曲想を視覚的に相手に伝える事ができる」と述べています。

この動作を獲得する為には、どういった構成要素が必要で、A氏がどういった部分でドラム操作を困難に感じているのかを抽出する必要があります。

ドラムに必要な構成要素

①機能的な座位
☑「重心を低く保ち、体幹/骨盤を安定させる」
☑「頭頚部/体幹/両上肢のゆとりを作り、上半身でリズムを取る」
➡その中で、両上下肢は別々の動きで音楽を奏でる
②スティック操作
☑「手首のスナップ」
☑「その跳ね返りから次の動作に」
☑「右上肢は一定のリズムを保ち」
☑「左上肢はアクセントを加える」
③リズム
☑「右上肢は8つのビートを刻む」
☑「左上肢は2拍4拍でアクセント」
☑「右下肢は1拍3拍でアクセント」
☑「左下肢はリズムキープ」

はっきり言って、これ僕もできません(笑)。
この要素が決まれば、まずは目指すべき動作がはっきりするのでA氏との共有、現在なにができなくて、なにができているのか、そして、それを獲得する為にどのような訓練をしていく必要があるのか、A氏自身が分かればモチベーションも上がるので、どんどん良くなっていくと思います。

A氏の訴え

A氏からは以下の訴えを聞かれました。

『スティックが内側にぶれる、強く叩けない、リズムが遅れる』

ここで、短期的な目標として『スティック操作』の向上に関わりました。

仮説①

山本は「座位においても骨盤は下肢帯と活動性と安定性を強調し、上半身の動的・巧緻的な運動に土台としても重要な役割を果たしている」と述べている。

A氏は、右腰背部の固定的な代償姿勢を選択し、麻痺側肩甲帯~体幹筋群を選択的に使うことが出来ませんでした。
そこでは機能的座位、骨盤/体幹の選択的な動きの獲得を図りました。

仮説②

真鍋は「多裂筋、内腹斜筋、腹直筋は上肢の運動に伴って活動する。このように上肢の運動は下部体幹の安定性と関係している」と述べている。

A氏は、肩関節/前腕/手関節を分節的に動かす事が出来ず、手関節を固定的に動かしていました。
そこで、機能的な座位姿勢を保持させた中で、各関節の選択的な動きの獲得を図りました。

仮説③

段階付けでの訓練として、次の訓練を行いました。

(1) 叩いた時に上肢の動きを止めて、座位姿勢/手関節の動きをフィードバック
(2) 叩いた時に跳ね返りを感じ、無駄な力を使わずに叩く
(3) リズムに合わせて叩く
(4) 両手両足の中でも一定のリズムを保ちながらドラムを叩く

この経験を経て、当初の短期目標であった『スティックが内側にぶれる、強く叩けない、リズムが遅れる』を獲得する事が出来ました。

おわりに

人生の中で、趣味活動は重要であり、人が人として生きていく為には、この趣味活動は大きな価値を生み出すと思います。

ここに対して、リハビリできる時間は病院では制限されており、なかなか挑戦できない部分です。ですが、そこを踏まえて、患者様が今後、どの様にこの活動を獲得できるのかを説明は可能なので、そういった関わりができるセラピストが1人でも増えて頂けると幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?