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『turn』

『turn』【超短編小説 088】

turn1307
生後6時間で死亡。
≪reset≫

turn6201
生後1週間と2日で死亡。
≪reset≫

turn10152
生後2ヶ月で死亡。
≪reset≫

turn271198
生後4ヶ月で死亡。
≪reset≫

turn3517423
生後6ヶ月で死亡。
≪reset≫

turn81664715
生後1歳2ヶ月で死亡。
≪reset≫

ワタシを産んだ女は病んでいた。
とても子供を育てられるような人間では無かった。
もはや人としての平等さにありつける程の人生を歩くことが許されない人だった。それでも少しづつ前に進んでいく意思を持っていた。女の後悔と反省の念が次の人生に少なからず影響を及ぼしていることをワタシは知っている。


turn1:その女の体内に初めてワタシが誕生した時。

turn1
妊娠3週目で流産。
≪reset≫

女は21歳。ガリガリに痩せ細った身体は、肉体も精神も何かに蝕まれているのは一目瞭然だった。女の21年間は惨い人生で憲法で保障されている人権など皆無な環境で生きてきた。今も生きているのが奇跡といっても過言ではない状況の中で女は気づくことなくワタシを妊娠して流産した。


turn852:女が初めてワタシと対面した時。

turn852
妊娠9ヶ月で死産。
≪reset≫

女は自分の体の変化に気づいていた。しかし産院に行くことも許されず、ただただ経過していく時間の中でワタシの存在を気にかけてくれていた。
ワタシは女の温かな体の中で女のか細い声を聞いた。
「ここに居るの?」
その数日後に女はトイレでワタシを産んだがワタシは新しい世界で息をすることはできなかった。

自由の無い過酷な生活環境の中、ひとりぼっちだった女はワタシの存在を感じた瞬間からワタシを強く必要としてくれた。この時から女の中でワタシを守るという意識が芽生え始めたのだ。


turn1215:女がワタシを守るために覚悟を決めた時。

turn1215
妊娠9ヶ月3週で死産。
≪reset≫

女は自分の親の顔を知らない。生まれた時から施設で育ち、物心がつき始めたころから裏社会に関わりそのまま落ちていった。裏切られ、利用され、食い物にされ、まともな人間関係を構築することもできずに心身ともに歪んでしまった女のことを誰も人間扱いはしてくれなかった。
そしていつからか女は闇の中で考えることすらやめて生かされていた。

そんな女がワタシの存在に気づいてから、徐々に心の中に光を灯しはじめた。女は自身とワタシを守るために逃げ出した。ボロボロのワンピースで靴も履かずに目が眩むほど明るいネオン街に飛び出した。
この街で廃人になり死んでいった人間を何人も見てきた女は自分もそうなると諦めていた。しかし女は前に進みはじめた。ワタシのために。


turn11976065214:ワタシ

turn11976065214
ワタシ21歳10ヶ月

たまに「人間に生まれてきたことが奇跡」という言葉を聞く。
しかしワタシは知っている。

何度も何度も繰り返される宇宙の始まりと終わりの中で同じように人生も繰り返されることを。
そして、僅かな誤差が生じることによってその人生は変化することを。
人間の思いや信念が物理現象に影響して僅かながら変化することを。
人間の希望と努力の末に「生まれてこれた」という結果があることを。

だから、ワタシがここに居るのは奇跡なんかじゃない、やっと辿り着いたんだ。ワタシもお母さんも、ちょっとずつちょっとずつ、もがき苦しみながら
前に進んで進んで、ようやくここまで来たんだ。
一度の人生の中で叶わなかった望み。人生が終わっても思いは残り続ける。
繰り返す次の人生の中でその思いが力をくれる。微量な力の積み重ねが何回目かの人生で望みが成就するんだ。

ワタシは、11976065214回目でここまで来ることができた。お母さんがワタシを産んでくれた年齢。

今度はワタシがお母さんへの思いを繋げていきます。
ワタシを産んでくれたお母さんの幼少期が少しでも幸せになるように。
どれほどの回数になるかは分からないけれど必ずいい人生になるからね。

「ありがとうお母さん」

《最後まで読んで下さり有難うございます。》

僕の行動原理はネガティブなものが多く、だからアウトプットする物も暗いものが多いいです。それでも「いいね」やコメントを頂けるだけで幸せです。力になります。本当に有難うございます。