世界最大級のテクノロジーカンファレンスWeb Summitに出場した注目スタートアップ
世界最大級のテクノロジーカンファレンスWeb Summitが2021年11月1日から4日にかけて、ポルトガルの首都リスボンで開催されました。このカンファレンスを主催するWeb Summitは2009年に起業家のPaddy Cosgrave氏によって設立され、毎年11月頃にWeb Summit、毎年5月頃にカナダのトロントでCollision、3月頃に香港でRISE Conferenceなど、世界中でテクノロジーカンファレンスを開催しています。
そんな世界中が注目するWeb Summitですが、なんと2022年9月には東京での開催が予定されています。もちろん新型コロナウイルスの状況にもよりますが、2022年の注目イベントの1つになることは間違いないでしょう。
Web Summitでは世界中から参加する著名人や投資家などによる講演が行われますが、なかでも注目が集まるのはスタートアップ企業によるピッチセッションです。今回はピッチセッションでアワードに輝いたスタートアップのほか、日本でも受け入れられそうだと感じたスタートアップを8社を紹介したいと思います。
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注目のスタートアップによるピッチイベント
多くのテクノロジーカンファレンスでは著名人の講演から1日が始まることが多い中、Web Summitではスタートアップのピッチから1日が始まります。今年も事前の予選を勝ち抜いた65社のスタートアップが1日約20社ずつ、各社2分30秒の持ち時間でピッチを行いました。その後ファイナルに選ばれた3社が最終日に再度ピッチを行い、審査員やWeb Summit参加者などの投票によりウィナーが決まります。
それでは早速各スタートアップを紹介していきたいと思います。
Smartex.ai(ウィナー)
2021年のピッチアワードのウィナーに輝いたのはSmartex.aiです。Smartex.aiは繊維産業の大きな問題である繊維廃棄物の削減を目指すスタートアップです。従来の丸編み工程では繊維の縫い目が荒くなるなどの不具合が生じた場合でも生産プロセスが進み、工程の最後に人間が確認するため、生産量の約10%が廃棄物となります。もし不具合が発生した段階で製造プロセスを止めることができれば、被害を最小限に留め廃棄物の量も削減されることができます。
Smartex.aiが提供するのはAIとコンピュータービジョンを搭載したカメラとセンサーで、製造工程をモニタリングするソリューションです。それらを繊維生産機械に取り付けることで製造プロセス中に精度の高い検査を自動で行うことにより、上記の問題を解決します。将来的にはこのテクノロジーを繊維産業だけでなく、様々な産業に展開することを目指しています。
Okra Solar(ファイナリスト)
世界にはまだ8億人もの人々が電気を利用できずにいますが、Okra Solarはこの問題を解決するためエネルギー会社に対してラストワンマイル電化ソリューションを提供するスタートアップです。大規模な電気のインフラを構築・運用するためには多大なお金とリソースがかかり継続的なコストがかかりますが、Okra Solarのソリューションは安価で導入することができます。
エネルギー会社はOkraのソリューションを利用し、まず各家庭に対して簡単に設置できる太陽光発電とバッテリーをプラグ&プレイキットで提供します。その後設置された各機器からデータを収集してクラウドへ送り、各機器の運用を行うことで、予算や手間などの問題で電気設備が整っていなかった地域に電気を供給するという仕組みです。現在はナイジェリアやフィリピンなどの市場でOkra Solarの製品が活用し始められています。
バッテリーのプラグ&プレイキット(Okra Solar公式ウェブサイトから引用)
LiSA(ファイナリスト)
LiSAはEC事業者などにライブコマースのプラットフォームを提供するスタートアップです。中国や米国などでライブコマース市場が拡大していく中、従来のECサイトはこのトレンドの変化に対応することが求められています。LiSAのライブコーマスプラットフォームは既存ECサイトやアプリに簡単に埋め込むことができるというもので、ライブコマース機能を自社サイトに追加したいEC事業者をサポートします。実際にLiSAのライブコマース機能を追加したEC事業者は売上を増加させたという実績も出始めています。
Nylas
NylasはEメールやカレンダーなどのツールと連携するAPIを提供するスタートアップです。例えば開発中のサービスをOutlookのカレンダー情報と連携させたい場合、NylasのAPIを利用すれば複雑なコーディングなしに簡単に連携することができます。この数年で決済機能をAPIで提供するStripeや銀行口座との接続をAPIで提供するPlaidなど、APIを活用して機能実装を提供するスタートアップの成長が加速していますが、NylasはEメールなどのコミュニケーションツールとの連携領域にフォーカスしています。
Bubble
Bubbleはノーコードプラットフォームを提供するスタートアップです。ユーザーはPythonなど従来のプログラミングコードを書かずとも、パワーポイントと似たような操作でアプリケーションを作成することができます。現在多くのノーコードスタートアップが誕生している中、Bubbleの特徴は多種多様なテンプレートを用意している点で、自分がイメージするテンプレートを利用するとすぐにアプリケーションを作成することが可能です。2021年7月にInsight PartnersがシリーズAをリードして$100M(約110億円)を調達して注目を集めました。
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FlutterFlow
FlutterFlowはモバイルアプリに特化したノーコードツールを提供するスタートアップです。その特徴はノーコードで作られたアプリの裏で動いているのがFlutterという点です。iOSとAndroidの両方をカバーできるため、各OS毎にそれぞれサービスを構築する必要がなく、モバイルアプリの開発効率良く行うことができます。また多くの裏で書かれるコードを公開していないノーコードツールが多い一方、FlutterFlowではコードを公開しているためGithubとの連携も可能です。
Fast
FastはECサイトの決済機能と個人認証サービスを提供するスタートアップで、決済体験を改善することでECサイトの売上増加を目指しています。最初はクレジットカードなどの決済情報を登録する必要がありますが、そのあとはFastのチェックアウトサービスを導入しているECサイトなら2クリックで決済が可能となります。2021年1月に決済機能をAPIで提供するStripeがシリーズBラウンドでリードし$102M(約112億円)の調達に成功しました。Fastの競合になるBoltは2021年10月にシリーズDラウンドで$393(約432億円)の調達に成功、Checkout.comは2021年1月に$450M(約495億円)の調達をするなど、成長がますます加速していくECサイト上の決済領域から目を離せません。
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NachoNacho
NachoNachoは米国アクセラレーター・アルケミスト出身者によるスタートアップで、B2Bに特化したマーケットプレイスを提供します。取り扱うのは、クラウドサービスのAWSやデザインソフトウェアのCanvaなど、企業が利用する様々なツールです。その特徴はマーケットプレイスで販売するだけでなく更新などの管理もできる点です。様々なツールをサブスクリプションで利用することが一般的となっている中、販売から管理までを1プラットフォームで提供することで、利用企業の管理負担を減らします。また出品側もマーケットプレイスで販売することでユーザーとの新たなタッチポイントが生まれるため、双方にとって活用するメリットがあるプラットフォームになっています。
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注目ポイント
私が注目したのはライブコマース機能を提供するLiSAです。このところ個人のクリエイターがYouTubeやゲーム関連の配信に特化したTwitchなどのプラットフォーム上で稼ぐ市場が成長していますが、そこにライブコマース市場が加わることでクリエイターが活躍する場がますます広がっていくことが予想されます。
ガートナーが2022年のテクノロジートレンド予想で3大テーマの1つに「信頼できる基盤の構築」を上げていましたが、ライブコマース市場が拡大する中、そられをバックエンドで支えるインフラストラクチャ関連のテクノロジーがより重要になっていくでしょう。クリエイターエコノミーを支えるインフラストラクチャのスタートアップが今後一気に成長する可能性がありそうです。
今回はコロナ禍のためオンラインでの参加となりましたが、次回はリアルで参加がしたいと感じたイベントでした。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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