TRPGシナリオ製作術 【TRPGシナリオの"絶対NG"な選択肢4つ】

忘備録的なまとめ第二回です。前置き無しで早速いきます。
どうしてTRPGに選択肢は必要なのか。選択肢についてまとめておきます。
なんなら最後の ▽まとめ から読んで頂いて、その後に気になる見出しをかいつまんで読んでいく方が分かりやすいです。
念のため断っておきますが、シナリオ中にクイズを出すシーンや、明確に正解がある問題を解くシーンがあったとして、その答えを選択肢として提示する場合は以下のまとめが全く当てはまりません。この記事にある選択肢とは、クイズの選択肢のことではなく、シナリオ中にPCが行う行動の候補の中から、PLが選ぶ行為のことを"選択肢を選ぶ"と指しています。


▼良い選択肢とダメな選択肢

●ストーリー的な側面から見た選択肢のメリット

  • 選択肢とはどちらかを選ぶのと同時に、どちらかを捨てるという取捨選択が発生し、それがPLの感情を揺さぶる。

  • 選択肢を選ぶことで世界がその選択に影響され、その様子が没入感を生む。

●ゲームデザイン・プランナー的な側面から見た選択肢のメリット

  • 目の前の問題に対して、やるべき行動を選んで実行することがPLの戦略を表現する場になる。

  • どのリスクを負ってどのリターンを得るのか、という選択肢を提示出来ると緊張を生む。(ローリスクローリターンの選択肢も混ぜて緩急を作ることも大事)

  • 選択肢は必ずしも取捨選択である必要はない。どの順番で探索するか選ぶだけでも選択ではある。

  • 選択肢を選んだことによって世界が影響されて変化し、変化後の世界から情報を読み取って次の選択肢に活かすサイクルがゲーム体験の基本となる。

●控えた方が良い選択肢

  • Aを選ぶのがまるで当然かのような雰囲気のなかでAかBかCか選ぶ選択肢

  • 選んでいるのではなく選ばされている選択肢

  • 選択肢を選んだ結果、世界が一切変化しない、またはどの選択肢を選んでも同じ変化をする。

  • 選択の結果、物語の主人公であるべきPCたちが活躍しないルートがある。

  • 選択肢を選んだ結果が、PLの予想外の結果になるように意図的にしてある。

  • 選択肢の中にノーリターンでリスクしかない選択がある。トラップのような選択肢。(選んでも損するだけの選択肢は、今後の選択肢全ての信用を失い、選択肢そのものを疑われるようになる)

▼この世に"絶対"はないのに選択肢は絶対必要なの?

●選択肢のないゲームもある

選択肢がほぼないゲームは確かに存在しています。それはサウンドノベル、ビジュアルノベルというゲームで、大きくノベルゲームと括られています。恋愛要素を重きに置いたストーリーが多く、かの有名な『Fate』や『STEINS;GATE』、ノベルゲームの金字塔といえば推理モノの『かまいたちの夜』です。サウンドノベル、ビジュアルノベルとは映像込みの小説といったゲームで、PLは映像シーンやテキストを読み進めるためにボタンを押します。ボタンが押されると次のシーンへ移ります。ノベルゲームで選択肢が出てくる場合、その選択によって左右されるのは『どのルートに行くのか』という選択であり、選択肢を選ぶことそのものにゲーム性はあまり発生しません。
一通りのルートのストーリーを観たいと思うので、結局は全てのエンディングに行くことになるでしょう。そのためには、いずれ全ての選択肢を選択することになりますので、片方の選択を選ばない、取捨選択することによる『選択肢の楽しみ』をゲーム制作者側が厳密にコントロールする必要がありません。そして、主人公が世界に与える影響は大小あれど、PLとしては『どのキャラクターのルートに行くのかどうかを決定している』という感覚があるだけです。世界に影響を与えている主人公を自分が選択肢を選ぶことによって操作しているという感覚はありません。

これは『選択肢というゲームデザイン』の中に含まれる『取捨選択というシステム』によって没入感が生まれていないことになりますが、ノベルゲームはストーリー勝負のゲームが多くあり、選択肢の中から取捨選択するという面白さを組み込まずとも面白さが担保されているため、選択肢の面白さというシステムはオミットされています。(PLは選択肢の時点でセーブして、望む結果じゃない場合はロードします)
さらにそもそもコンシューマーゲームはTRPGシナリオとは違って繰り返しプレイすることが前提にありますので、選択肢に対する重みが違うとも言えます。

その点『かまいたちの夜』などの推理ゲームは一度のプレイで犯人に辿り着きたいというPLの欲求があるので、選択肢によって没入感や緊張感を生むような構造になるよう制作されています。そして、この推理ゲームを遊んでいるときの選択肢に対する考え方はTRPGシナリオを遊んでいる時の選択肢に対する考え方と近いかもしれません。

●PLの選択がゲーム的な面白さを生む

では、次のシーンに進むのか、次のシーンを飛ばすのか選べるゲームがあった場合、それはまさしく取捨選択ですし、こういった選択肢があるだけでゲーム性が発生するということも想像しやすいことでしょう。
童話のシーンを一字一句細分化して、いかに台詞や描写を飛ばしながら面白おかしい物語を作れるか競う「忙しい人向け童話製作バトル」というゲームがあったとして、童話の『桃太郎』の中から端折れそうなシーンや描写や台詞はどれぐらいあるでしょうか。もしくは、とある描写と描写をくっつけることによって、面白おかしい描写分を捏造する事ができるでしょうか。というように、描写文を取捨選択しているだけでゲーム性は発生していますし、こういう工夫だけでゲームにはなります。

TRPGの場合、世の中に存在するTRPGシステムは『PLが選択肢を選択する』ことありきでルールが作られてますので、何らかのTRPGシステムに準じたTRPGシナリオを書こうとした場合、選択肢を排除しようとシナリオ作者がしっかりと努力しないと、選択肢が全く発生しないシナリオを作ることは出来ません。選択肢のないシナリオ、もしくは選択肢があってもPCの選択が世界にほぼ影響しないシナリオのことを『吟遊詩人シナリオ』と揶揄されて、TRPGプレイヤー達から嫌悪されてきた歴史がありました。あえて『吟遊詩人シナリオ』でありながら面白いシナリオを書こうと思っている執筆の達人はこのようなnoteの記事を読まないと思います。なので、選択肢は絶対に必要で、選択肢は世界に影響を与える選択であるべきです。

▼選択肢があるのに面白くないシーンとは

  1. PLは選択したいのに選択肢が出てこないから面白くない

  2. PLの選択が世界(シナリオ)に影響しないから面白くない

  3. 選択した結果、世界(シナリオ)がPLの思っているように変化しないから面白くない

  4. PLのやりたい選択が選択肢の中にないから面白くない

選択肢にまつわる面白くないといわれる状況を上記にまとめてみました。それぞれ納得のいく状況もあるなかで、PLのわがままに思える状況もあるように見えるかもしれません。しかし、ストーリーとその世界観によって選択肢に制約や制限を設けることは可能ですし、そもそもTRPGシステム側のルールに従うことが前提なので、シナリオ側で上記の不満を抑えるやり方もあります。そして、ありとあらゆる選択肢をシナリオ作者が想定して一つ一つ対応しよう、という途方もない解決策を提示するわけではありません。
上記の状況1. 2. 3. 4. の解説と対処方法を説明します。

1. PLは選択したいのに選択肢が出てこないから面白くない

例えどんなシーンでも、その場にPCがいるのであれば、PLはPCの行動を選択したいはずです。大事なNPCが目の前でモンスターに食べられそうになったとき、助けたり庇おうとするPCがいる一方で、助けないという選択を取るPCもいるでしょう。助けたいのに食べられて死んでいくNPCを眺めるシーンや、別に助けたくないのにシナリオの流れでNPCを助けて、挙げ句に「別に助けてくれって言った覚えはないぜ」とかNPCに言われるシーンを作ってしまうと、それは没入感を一気に削ぐ最悪なシーンになります。例えそのシーンがシナリオ作者的に盛り上がるシーンだと想定していたとしても、自分の取りたかった選択じゃないシーンを見せられたPL側は一気に冷めてしまいます。

ここに一工夫加えたつもりで、NPCを助けますかとPLに問う時間があったとしても、助けるのが普通、当然といった雰囲気の中で選択肢として提示するのは『選んでるのではなく選ばされている』ことになり、PL側からのシナリオに対する信頼と没入感を失くす描写です。逆説的に、PLがしっかりと『選択している』という気持ちになれれば選択肢としては成功しているとも言えます。では上記の1. の問題をどうするのか、いくつか解決策を考えてみます。解決策をまとめると以下の通りです。

  • 物理的に行動制限を設ける

  • シナリオに必要な選択肢かどうか精査する

  • どちらの選択肢が選ばれても良いようにルート分岐を書く

  • 『よろしいですか?』「はいorいいえ」の確認メッセージはゲーム体験の不便を減らすために必要

●物理的に行動制限を設けるなどして、PCの選択肢を減らす

例として、NPCがモンスターに目の前で食べられそうになっているシーンに対して、選択肢を減らしたい場合の話です。
まず選択出来るような状況じゃないということにするのが解決策の一つです。PCは両手両足を縛り付けられているだとか、PCの目の前ではなく遠い所で食べられそうになっていて助けに行く猶予がないとか、既に食べられて息絶えてしまっているだとか、NPCを助けてしまうとNPC以上に大事な何かを失うだとか、助ける行動を選べないようにする必要がある場合は、制限を設けやすいので簡単です。もちろん、両手両足を縛られていても口が塞がっていないので呪文でどうにかしますという魔法使いPCや、遠いところにいるNPCのピンチを助けることなど朝飯前の凄腕スナイパーみたいなPCがゲームに参加している可能性を考慮する場合、制限を設けるためにもありとあらゆるPCの発想を想定して行動制限していく必要があります。

そして、さらに難しいのは、助けないという選択肢を選べないようにする場合です。こちらの解決策は少なく、NPCを見捨てるとNPCの命だけじゃなくPCにとって大事な物や事柄も一緒に無くなってしまうような状況である、とするのが定番です。ですが『ボディガードとして雇われているから助けるのが仕事である』という状況だったとしても、よほど助けたくないNPCだった場合は、自分の仕事や人生が台無しになっても見捨てる選択肢あるでしょ! というわけで、助けないという選択肢を物理的に制限するような状況はかなり難しいです。そのNPCを助けるしか無い、という状況を作ることができれば良いのですが、筆者は定番以外の方法を思いつきません。

●そもそもその選択肢は『選ぶ楽しみ』があるか?

結局のところ、ストーリー展開的に絶対に死ぬNPCをシナリオで用意した場合、そのNPCを助けたいとPCが思ったとしてもストーリー都合上助けられないというシナリオを書くことになりますが、それは本当に死ぬべきNPCなのでしょうか。

NPCを助けるかどうかの選択肢に限らず選択肢全てに言えるのですが、シナリオ作者はシナリオを書いていますので、ストーリー展開的に絶対に死ぬNPCが出てくるシナリオを書かなければいいのです。今一度冷静になって、ストーリー上重要な局面で選択肢が発生するシーンと発生しそうなシーンを見直してみてください。PLやPCに適切なタイミングで適切な選択肢を提示出来ていますか。それらのシーンに出てくる選択肢は、出た瞬間にPLが「ハッ……」と息を飲むような選択肢、少しでも一瞬でも悩む選択肢を提示出来ているでしょうか。どの選択肢を選ぶかというときに感情が揺れ動くような選択肢を提示できて、ようやく『取捨選択の楽しみ』というものをPLに感じてもらっているということになります。

よくある話として『NPCが死んでしまうシーンは悲しいので、PLやPCの感情の変化が発生しているから良い』という考え方がありますが、TRPGはPCの行動を宣言できますので『助けるのに失敗して助けられなかった』のと『助けるという選択肢が無くて助けられなかった』には同じ悲しいという感情でも大きな違いがあります。結果エモければ良いのではなく、その違いが生まれる過程こそが大事です。

●どちらの選択肢が選ばれても良いようにルート分岐を用意しておく

上記のような重要な局面の選択肢を選ぶとき、どちらのルートが選ばれてもGMが困らないようにそれぞれのルートを書いておく必要があります。NPCが死んでしまうのか生きているのかで違う展開になる箇所があるのなら、それぞれ別の描写文やセリフを用意しておく必要があります。
文章量が増えるので尻込みしてしまうかもしれませんが、重要な局面の重要な選択肢のルート分岐を考えておく必要があるのであって、道中の選択肢全てにルート分岐したときの描写文を用意するという話ではありません。

シナリオを読むのはGMですので、シナリオの中身が伝わりやすいように短い文章量になるよう努めて書くことも大事です。書けるからといってルート分岐がAルートからZルートまで26種類のルートがあります! というのは読みやすいシナリオではないかもしれません。

●『最終局面シーンに進みます。よろしいですか?』とか『その行動は危険を伴います。行いますか?』という選択肢「はいorいいえ」は必要

こちらは選択肢の中でも例外として、ゲーム的な意思の確認はゲームプレイ中の不必要なストレスを排除するために必要です。PLやPCが不便に思ってしまうような可能性があるのなら確認するように、シナリオ側で指定しておきましょう。
ゲーム体験中に不便を感じると没入感が阻害されますので、不便にならないように選択肢を用意する場合があります。そして、この確認のための選択肢に取捨選択の楽しみや戦略的な楽しみを盛り込む必要もありません。親切すぎるぐらい確認の選択肢は入れておきましょう。

2. PLの選択が世界(シナリオ)に影響しないから面白くない

選択肢はあればあるほど良いのかというと、そういうことでもありません。ゲームの中で選択肢が出てきたとき、どの選択肢が選ばれても世界はその選択に影響されて変化しないといけません。ちょっとした変化でも良いですし、バタフライエフェクトと言われるような間接的な原因の変化でも良いのですが、全く変化しない選択肢はNGです。世界が変化しない、シナリオが何の影響も受けない選択肢を選んだときのPLは『……それで?』という気持ちになって終わることになります。そういう選択肢はただ単純に物語のテンポやリズムを阻害しただけでデメリットしかありません。

そして、大きく変化してしまえば良いのかというと、そういうことでもありません。その選択を選んだ結果、シナリオのラスボスである魔王がNPCの手によって倒され、NPCの手によって黒幕の国王も陰謀を暴かれて世の中は平和になりました。めでたしめでたし……という選択肢はNGです。こちらは脚本技術的な理解不足とゲームプランナー的なところの理解不足の合わせ技に加えて、シナリオを遊ぶ前のPL選択である『どのPCで遊ぶか』という選択を全く無視してしまっている最悪の選択肢です。
脚本という側面から見ると、物語というものは主人公が主人公である理由が必須であり、それがないがしろにされてはいけません。ラスボスの魔王の他に黒幕の国王がいる場合、せめてどちらかは主人公が主人公だったからこそ倒すことが出来たというシーンを含めて物語が終わるべきです。
ゲームプラン的な点から見ると、PLが結果を予想して納得した上でその選択肢を選んでいるのなら良いのですが、情報もなく結果が予想できない中で、全ての問題が解決してエンディングに行く選択肢を提示するのはNGです。ただ運良く偶然クリアしてエンディングに到達出来てしまう可能性を提示するのは選択の結果として面白くなりませんし、そういうプランでPLにゲーム体験を提供するという考え方が間違っています。(偶然クリアしてエンディングはダメですが、偶然ショートカットしてPCが有利になるのは受け入れられます。この違いは何でしょうか)
最後に『どのPCで遊ぶか』という選択を全く無視している点ですが、シナリオを遊ぼうとしたときにPLが最初に選択するのはPC作成時のステータスや性格を決めているときです。または既に作成されたPCを選択することもあるでしょう。どちらにしろ、PLがそのPCを選んだということは、そのPCだからこそ経験出来るはずだったゲーム体験というものを一切飛ばしてエンディングに行くような選択肢はNGです。

上記の問題点に関連する『選択肢に必要な要素』を書き出して、それぞれ解説していきます。

  • どこのシーンでどんな選択肢を出すかコントロールするために、意識的に選択肢を提示し続ける。

  • 選択肢を選んだことで世界に影響を与えたことをPLに向けて描写する。(何も変化がないように見せかける場合も、水面下で影響していることを匂わせる)

  • 世界に大きく影響を与える選択肢は慎重に設定する。

  • 物語のテーマに沿った選択肢を必ず設定し、その選択がルート分岐先の基点になるようにする。

  • ストーリー的な観点からも、ゲーム的な観点からも、そのPCだからこその物語になるように選択肢のリスクとリターン、世界への影響力を調整する。(強力なリターンがある選択肢や世界に大きな影響を与える選択肢は、どんなPCでも同じゲーム体験になるので、PCを考えてきたPLの選択を無視することになる)

●どこのシーンでどんな選択肢を出すかコントロールするために、意識的に選択肢を提示し続ける。

「PCは件の街に到着しました。めぼしいロケーションは駅と図書館と大学、そして歓楽街です。他にもこの街に存在しそうなお店や施設には向かうことができます」
「PCは件の廃屋に到着しました。立派な3階建ての洋館ですが、塀に囲まれていました。門は閉ざされていますが、カギを使って開ける、またはカギを破壊することは出来そうです。塀は2mほどの高さがあるものの、乗り越えることが出来るかもしれません。この廃屋に対してその他の行動宣言をすることも可能です」
「一緒に探索していたNPCが、今まさに怪物に食べられそうになっています。今なら助けることも可能そうですが、NPCは「ここは私に任せて先に行って下さい!」と叫んでいます。PCはどのような行動を取りますか?」

上記のように選択肢は、その他の行動宣言を促しつつ、具体的な行動宣言例もいくつか提示しています。もちろん、PLそれぞれの考え方のもと街を探索したり、廃屋に侵入したり、NPCを助けたりすると思われますが、この時に考えられる選択肢にそれぞれリスクとリターンを設定しておきましょう。リスクもリターンも大げさなものを設定する必要はありませんし、選択肢によっては同じリスクや同じリターンでも構いません。さらに、ロケーション選択・探索個所の選択と、選択肢における取捨選択とは両立が難しいという問題もあります。

●ロケーションの選択肢の場合

  • 行けるロケーションを全部提示すると行く前から疲れて萎えちゃうし、新しく行けるロケーションが増えるワクワク感を無くしている。

  • 探索結果によって解放されるロケーションと、ロケーションはあまり関係なく状況によって渡せる情報とを用意して、PLの宣言に柔軟に対応出来るようにしておく。

  • 『行くロケーションを選択→リスクを負ってリターンを得る→世界が変化する→次に行くロケーションを選択』という流れを意識する。

  • ロケーション選択に取捨選択の面白さを追加する場合、そもそもロケーション移動に取捨選択を取り入れるのはリスクとして制限時間などを導入する必要があるため、必ずしも取捨選択にする必要はない。

駅と図書館と大学と歓楽街のほかに、提示されていないロケーションとして街の公園や街外れの廃屋、警察署にも情報があるというシティシナリオを考えている場合、最初に全ての選択肢を提示しておくより、回ってほしい順番になるようにいくつかのロケーションは提示しないでおくと良いです。大量のロケーション選択肢を提示することのデメリットとして、将来的に全て回ることをPLが想像して「大変そう……」と逆に萎えてしまう可能性があります。そして、探索して得た情報によって行けなかった場所が行けるようになったことの解放感やワクワク感という楽しみを提供できません。(日本のRPGは序盤から徐々に徐々に探索できる場所が増えていくようにプランニングされています。ゼルダの伝説シリーズもドラゴンクエストシリーズもファイナルファンタジーシリーズもオープンワールドになって久しいRPGですが、最初期からマップの隅々まで行けるようにはなっていません)

ロケーションを全て回るタイプのシティシナリオも、いくつかのロケーションを回って次のシーンに進むタイプのシティシナリオも、ロケーションを最初から全てオープンにするメリットはありません。街を探索する場合、事前に何らかの情報によって行くべきロケーションが提示されているものだと思いますので、まずはそこで問題解決の手掛かりを集めて、次に行くべきロケーションが判明して……という流れがロケーション選択肢のコントロールをしやすい定番の方法だと思います。

PLの提案によって本来シナリオにないロケーションを探索したいという宣言に対して、そういう場所用にロケーション関係なく手に入る情報を用意してGMの塩梅で情報を出させるシステムを記述しておくのも有効な手段です。ストーリー展開上、ロケーションを固定しないと不自然になってしまう情報だけは特定のロケーションで手に入る情報として扱い、ロケーション固定をしなくても不自然にならなそうな情報は積極的に汎用情報としてストックしておくと便利です。そういったロケーション固定されていない情報は、技能判定の成功判定時に発生するより高い成功時(CoCTRPGシステムでいうところの決定的成功やハード成功)に追加で渡す情報としても取り扱えるようになりますし、シナリオに想定されていないPLからの提案があって、その提案の成功報酬として情報を渡すときにも使用可能です。
PLの選択に柔軟に対応して、適度なリスクを負ってもらい、適度なリターン(情報)を報酬として渡し、選択したことで世界に影響があったことを描写する。この流れを意識してください。

ロケーション選択と取捨選択を両立させる場合についてですが、ロケーション選択時に取捨選択させる場合、時間的な制約があるという状況設定が定番だと思われます。タイムリミットがある中で、PCは全てのロケーションを回ることは出来ないとした場合、どこに行くべきか考える楽しみが生まれます。しかし、時間的な制約というのはかなり強力な制約でありつつ、難易度の調整も難しいです。そのため、取捨選択という部分をオミットして、どういう順番でロケーションを回るのか選択させるだけにフォーカスしても良いでしょう。ロケーションを回る順番で後々のシナリオ展開に変化があるだけでも、選択の楽しみというものは生まれるはずです。

●探索個所の選択肢の場合

  • そもそも、選択するまでもなく手に入る情報はまず渡す。

  • 探索個所ではなく探索するための技能を提示する方が情報の管理が楽。

  • どの技能でどの情報が出るのか、より良い成功によって情報量が増えるようになっているかが重要。

  • 探索個所に取捨選択の面白さを追加する場合はロケーションと同じく時間制限を追加するのが定番だが、そもそも探索個所を調べている時は情報を精査して推理する楽しみもあるため、必ずしも取捨選択にする必要はない。

ロケーション選択肢に考え方は似ています。ロケーション選択肢のセオリーがそのまま通用しますが、それに加えて情報量の変化を一工夫します。とある廃屋の一室に入りましたというシーンがあったとして、そこがどういう部屋なのか一見して分かる情報は全て渡したあと、どこをどう探索するのか、調べるのかをPLに提示する場合を例とします。

例えば机と窓枠と本棚と床とベッドと……というように情報が出てくる箇所全てを選択肢として提示すると探索する前からPLが疲れてしまいます。そのため、探索個所を提示するのではなく、その部屋を探索するために使う技能を選択肢として提示する方が手っ取り早いです。どの技能に成功したらどの情報が出るのか、技能の普通の成功とより良い成功で情報量をより多く出来るかに注力してみましょう。

もちろん、選択肢である以上は取捨選択の楽しみを付与することができます。部屋に入って使える技能をいくつか提示して、その技能の中から一つの技能を宣言してもらい、それ以外の技能は使えないとするのが取捨選択です。もしくは部屋の中で調べられる箇所を探索個所として提示したあと、全ての箇所を探索することは出来ませんとするのが取捨選択です。
このように、取捨選択するのが楽しいという選択肢の大前提と、探索中に情報が手に入る推理の楽しみの両立は難しいです。なので、ロケーションとは違って探索個所を取捨選択させる楽しみはオミットして、手に入った情報をじっくり推理してもらうことに集中してもらう場合の方が楽しい可能性もあります。取捨選択を提示することだけがゲームの面白さではありません、バランスに注意しましょう。

●行動宣言の場合

  • 行動宣言こそTRPGの基本であり、選択肢の中から取捨選択することの基本でもある。

  • 行動宣言の選択はリソースの消費行動なども含まれる可能性があるため、よりリスクとリターンを意識する必要がある。

  • 行動宣言の選択全てに取捨選択の楽しみやリスク・リターンの管理を盛り込む必要はない。一番盛り上がるシーン目掛けて重要な選択肢を提示出来るかどうかの方が重要。

PCの行動を宣言するということは、PLの頭の中に浮かんだ選択肢の中からどの行動をするのかを選んだ結果行われるものと、シナリオ側から選択肢として『どうしますか?』と行動宣言を促すシーンがあると思います。どちらにしろ、行動宣言はどのタイミングでもどのシーンでも行われ続けて、シナリオを次のシーンに進める推進力の役目を担っています。
PCが何も行動しなければ、シナリオは次のシーンに進めずに停滞するか、何もしないという行動を選んだことによるリスクを負ってリターンを得ることになるでしょう。シナリオ側で何も行動しないという行動を想定している場合は特殊な事例として、ひとまず脇に置いて説明を続けます。

「一緒に探索していたNPCが、今まさに怪物に食べられそうになっています。今なら助けることも可能そうですが、NPCは「ここは私に任せて先に行って下さい!」と叫んでいます。PCはどのような行動を取りますか?」
この状況下でPCをどう行動させるか行動宣言を促した場合、PLは助けるのか置いていくのか選ぶ必要があります。「ここは任せて先に行け」という定番のシーンでどうするかはPLやPC次第であり、明確な答えが事前に情報として手に入っていない場合はかなりPLやPCの思想に左右されるでしょう。こういう選択肢を提示して、助けるリスク・リターンと置いていくリスク・リターンをPLに想像させて、結果どちらを選ぶか取捨選択する、という流れこそ選択肢の醍醐味です。
行動宣言の選択肢の場合、上記にある選択肢のメリット全てを享受することが出来ます。もちろん、行動宣言の選択肢全てに取捨選択の緊張感を持たせても良いですし、重要な選択肢に絞っても良いです。ここはシナリオ作者のバランス感覚次第です。

行動宣言はロケーションや探索個所を選ぶ時と比べて、よりゲームルールやシステムに関わる行動を選択する場合もあります。代表的なのはリソースの消費行動です。MPを消費して呪文を唱えるだとか、HPを減らして特殊な行動をするという行動です。これらの行動も行動宣言に含まれれる可能性があるため、リスクとリターンの設定もより幅広く設定できます。
もちろん、全ての選択肢に細かい設定をつけていくよりも重要なのは、物語のテーマに関わる選択肢を提示している時がシナリオ中で一番盛り上がるようにゲームをプランニングすることです。メリハリを付けるという意味でも、ハイリスクハイリターンの取捨選択は物語の山場まで取っておきましょう。

3. 選択した結果、世界(シナリオ)がPLの思っているように変化しないから面白くない

これはPLのわがままだろ! と熱くなる前に、こうなる原因を考えましょう。この問題が起きる最大の原因は『その選択肢を選んだ結果どうなるのかPLが情報を精査できていない、または情報を持っていない』のが原因です。どうなるのか結果が分かった上でその行動を選ぶのはPLの意志ですが、こうなると思ってなかったPLがその行動を選んだ結果「思ってたのと違う!」という展開になるのは不満の元になってしまう可能性があります。その選択が重要な局面であればあるほどこの問題は大きな問題になりがちですし、選択肢のリスクの設定という考え方と混同してしまうのも危険です。
しかし逆に言えば、選択肢に含まれるリスクとリターンをPLがある程度予想出来ている状況で、そのリスクとリターンを許容し納得した上でこの選択肢を選べていれば不満は生まれません。(「納得」は全てに優先するぜッ!!)そして、序盤中盤のちょっとした選択肢の時に起きる予想外の変化は、ここまで大きな不満になりません。

対策としては、PLがその選択肢を選ぶ理由をヒアリングする時間を設けることです。どういった理由で、どういった結果を期待してその行動を選ぶのか、PLに直接確認してしまうのが良いです。そうすることで、PLが誤解している、またはリスクとリターンの予想が間違っているとGMは気付けますし、そういった状況でどうすれば良いのかの指針をシナリオ内に記述しておくことで、トラブルを回避できる可能性があります。(例えば、直接「何らかの情報を見落としている」とか「現在のあなたたちは〇〇に関わる情報が欠けている」とストレートに伝えてあげるのもトラブル回避の有効な手段です)

そもそも論として、しっかり誤解のないように情報を伝えることが出来ているのか、シナリオ作者は文章や描写、設定資料に矛盾が無いかどうかをしっかり推敲しておきましょう。PLが描写や情報を誤解したのか、GMがシナリオ文章を読み間違えたのか、そもそもシナリオ作者の文章に間違いがあるのか、この問題は誰かの失敗や間違いによって起きてしまっている可能性があります。GMとPLみんなが一丸となって、間違いが起きているのならお互い訂正することは出来るでしょうが、その場にシナリオ作者がいるかどうかは分かりません。つまり、その場でシナリオ側を訂正できる人がいない可能性がある以上、シナリオ作者は十二分にシナリオ内の文章に間違いがないか確認しておく必要があります。

さらに一歩踏み込んだ考え方として、結局はPLのわがままだとして切り捨てる勇気も必要です。上記のような対策も設けて、十分な量の情報が手に入るように難易度が調整されているにも関わらず、それでも「思ってたのと違う!」というPLもいます。推理の難易度が高く難しいシナリオを書いたとして、プリプレイ情報で『推理難易度が高い』と説明した上で、それでも参加することを決めたPLが、結局推理を見誤ってしまった悔しさの余りに「思ってたのと違う!」と叫ぶこともあります。まとめると以下の通り。

●この問題はPLが情報不足の状態で選択肢を選ぶと起こる場合がある

●シナリオ作者としては選択肢におけるリスク設定のつもりでも、PLが理不尽だと感じたリスクは不満となってこのような問題に発展する場合がある

●PLやGMが情報を誤解している、予想を見誤っている、情報の伝達に齟齬が発生している、といったヒューマンエラーの可能性があるため、重要な選択肢や誤解が生まれそうな選択肢の前に情報を精査する時間やヒアリングの時間を設ける

●シナリオ作者の文章に不備がある可能性がある、しっかりと推敲する

●結局、一部のPLから「思ってたのと違う!」と言われるのは仕方がない

4. PLのやりたい選択が選択肢の中にないから面白くない

こちらの問題は前述した『1. PLは選択したいのに選択肢が出てこないから面白くない』のときにも少し説明しましたが、無限にあると言ってもいい選択肢をシナリオ側で全て提示することは実質不可能ですので、どんな選択肢にも『その他の選択肢としてPLが思いつく行動を宣言できます』とか『その他の探索個所も探索することが出来ます』、『この街にあると思われるお店や施設も行くことが出来ます』と一言添えて置くのが良いと思われます。
もちろん、シナリオ側で具体例として出していない『その他の選択肢』が選ばれた時用の情報や、PLの行動宣言の中からキーワードをトリガーとして出す情報(「机の裏を覗いてみます」といった行動宣言があったからこそ出る情報)などを設定しておく必要があるでしょう。
しかし、ロケーションや探索個所について『4. PLのやりたい選択が選択肢の中にないから面白くない』という感情は沸きづらいと思われます。この不満が出るときは大抵、行動宣言の選択肢をシナリオから提示されたときに噴出する不満だと思われます。
例えば「目の前で無差別に通行人が化け物に襲われています。どのように助けますか?」
という選択肢があったとして、この選択肢には助けないという選択肢が無いように見えます。このような選択肢を提示してしまうと、「助けたくないのに助けるという選択肢しかない!」という不満に繋がります。

そもそも、行動宣言こそ十人十色で、PLやPCの発想や性格次第でありとあらゆる行動宣言の可能性があるなかで、シナリオ側が総てを提示しきれないのは当然と言えば当然であり、『その他の選択肢としてPLが思いつく行動を宣言できます』と一言添えたところで、『では圧力鍋とパチンコの玉と花火を分解した火薬を使って即席爆弾を作って――』といった宣言にシナリオ側で対応する必要があるのかというのはTRPGの命題でもあります。

というわけで、そういった宣言をどう裁くのかはGMに任せる! ということにして、『その他の選択肢としてPLが思いつく行動を宣言できます』と一言添えるのが無難なのは間違いありません。定番で無難な選択肢を例としていくつか提示しつつ、可能性として考えられる『その他の選択肢』をある程度想定してコツコツとシナリオ内に記述しておくのが良いでしょう。
そして、更に重要なのは『シナリオの舞台設定』や『NPCの背景設定』といった資料を作ってシナリオ内に記述しておくことです。こういった設定資料があれば、GMはその資料を参考にして『その他の選択肢』のリスクとリターンをアドリブで設定していくことが可能です。問題が発生する舞台は港町なのか山間の村なのか、激辛料理が好きなNPC、左足が義足のNPCなどなど、設定がより詳細であればあるほど、『その他の選択肢』から選ばれた行動宣言にGMが対応しやすくなるはずです。対策をまとめると以下の通りです。

●『その他の選択肢』があることを選択肢に提示する

●総ての行動宣言を想定してシナリオに結果を記述するのは不可能なので、GM裁量に任せることも必要

●GMへの参考資料として『シナリオの舞台設定』や『NPCの背景設定』といった設定資料を詳細にしておく

▽まとめ

  • PLは行動宣言をするための選択肢を常に持っているし、PLはどの選択肢を選ぶべきなのか情報を欲しているし、選択肢を選んだからには世界(シナリオ)に変化が欲しい

  • 選択肢を選びようがないままシーンがどんどん進んでいく。情報が全くないまま選択肢を選ぶことになる。選択肢を選んだ結果、意味が全くなかった。この三つがNG

  • PLに現在の状況を情報として伝える→その情報をもとにして選択肢を選ぶ→その選択肢に設定されているリスクを負いつつ、リターンを得られるかどうか技能判定などしたりしなかったりする→成功すればリターンを得る、失敗すればリスクを負う。そもそも判定無しでリターンを得られる場合もある→得た情報をもとに次の選択肢を選ぶ

  • 選択肢というシステムには取捨選択する楽しみと、リスクとリターンを天秤にかける緊張感を付与することができる(付与するかどうかは自由なので、取捨選択しない選択肢や、ローリスクとローリターンの選択肢もあり)

  • PLは選択肢を選ぶときに『取捨選択しなければならない情緒』と『最適解を選びたい戦略的な楽しみ』を見出して悩むことになるし、時にはこの二つの感覚によって選びたい選択肢が分かれて悩むことがある

  • どの選択肢を選ぶか悩むということは、世界に没入出来ている、または没入したいというポジティブな気持ちになっているということ。本当にどうでもいい選択肢はあまり悩まない

  • 大量の選択肢を一度に提示するのは逆にゲームプレイの快適性を失う。選択肢は適度な量になるようコントロールする

  • どれを選べばいいのか難しい選択肢は、PLに良くも悪くもストレスを与える。究極の選択肢はシナリオ中もっとも盛り上がるところに挿入して緊張感にもメリハリを付ける

  • 過度なリスク、過度なリターンはシナリオへの没入感を阻害してしまう。ギリギリ許容できるリスク、ギリギリゲームを破壊しないリターンを見極め、ハイリスクハイリターンはシナリオ中もっとも盛り上がるところに挿入する

選択肢は"緊張と緩和"のテクニックや"フロー状態"を意識する。リターンとして情報や報酬を渡しながら、時にはリスクを負ってもらう。選択肢によってはルートが分岐する。物語の終盤に向けて選択肢の難易度とリスク、リターンは徐々に上昇していく。三幕構成のテクニックを参考にしつつ、クライマックスにて物語のテーマに沿ったハイリスクハイリターンの選択肢を提示する。

ということになるでしょう。選択肢に関連するテクニックとして『緊張と緩和』のテクニックや『フロー状態』、『三幕構成』、『ステークス』といった脚本用語やゲーム用語を知っておくと楽しく選択肢を提示出来ると思います。
選択肢については更に詳細に例題等など含めて説明することもできそうなぐらい奥深いゲームシステムですが、ひとまずはここで一区切りとさせて頂きます。この記事がシナリオ執筆のお役に立てば幸いです。

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