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【第1回 後編】はたらくことは生きること。キャリアオーナーシップ 探索ダイアローグを開催

パーソルキャリアと特定非営利活動法人ミラツクが中心となりスタートした「キャリアオーナーシップ」を深めるキャリアオーナーシップリビングラボ。アカデミアや実践者をお呼びするダイアローグの第1回目は、キャリアオーナーシップ5つの中心概念のひとつ「新しいものを受容し、自己変容を積み重ねる」をお題についてディスカッションを行いました。

こちらの後編では、軽井沢風越学園学長・岩瀬直樹さんと塩尻市役所の山田崇さんのお話を中心にお届けします。

第1回 前編はこちら

グラレコ_ダイアログ第1回

西原 文乃さん(立教大学経営学部国際経営学科准教授 / 日本ナレッジ・マネジメント学会理事)
名古屋大学法学部法律学科卒業。日本電気(NEC)に入社し海外PC事業の事業企画や販売促進に従事。一橋大学大学院国際企業戦略研究科で修士号、博士号を取得。一橋大学院 国際企業戦略研究科特任講師を経て現職。研究テーマは、組織的知識創造理論をベースとする経営戦略、組織行動、リーダーシップ、ソーシャル・イノベーション。
岩瀬 直樹さん(学校法人軽井沢風越学園理事 / 軽井沢風越学園 校長)
1970年北海道生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。埼玉県の公立小学校教諭として22年間勤め、学習者中心の授業・学級・学校づくりに取り組む。2015年に退職後、東京学芸大学大学院教育研究科にて学級経営、カリキュラムデザイン等の授業に通じた教員養成、現職教員の再教育に取り組む。2016年、一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団設立に参画し、現在は軽井沢風越学園の校長および軽井沢風越幼稚園の園長を兼任。3児の父。
山田 崇さん(長野県塩尻市 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長)
1975年、長野県塩尻市生まれ。千葉大学工学部応用化学科卒業。1998年、塩尻市役所に入庁。現在、塩尻市役所 企画政策部 地方創生推進係長。空き家プロジェクトnanoda代表、内閣部地域活性化伝道師、TEDx Sakuでの「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな地域活性化の取組み」に登壇し話題になる。信州大学キャリア教育・サポートセンター特任講師を務め、ローカルイノベーター養成コース特別講師/ 地域ブランド実践ゼミを担当。

ゼロからの学校づくりに見る、教育のあり方から考えた「受容し、自己変容すること」につながる6つのこと | 岩瀬 直樹(学校法人軽井沢風越学園理事 / 軽井沢風越学園 校長)

岩瀬さん  皆さん、はじめまして。僕は現在、2020年4月に開校した「軽井沢風越学園」というところで校長と園長をしています。僕のミッションは、学校教育にどう貢献できるかということにありまして、今日はまず、僕の課題意識と風越学園のこと、そして今日のテーマに関わることをお話します。

僕自身ずっと学校教育の現場にいながら、どうやったら教育を変えられるかと試行錯誤してきました。公教育に可能性を感じている一方で、変わろうとしても元に戻ってしまう慣性が働くところでもあると実感しています。昔から変わらずに、年齢ごとに教室を分けて、同じ方向に机を並べ、生徒に知識を伝授することが先生の役割になっている。

教材は全員同じ、授業も全員が同じことを教わるというモデルは、大正時代から変わっていません。教員にとっても、自分自身の経験から授業とはこういうものだと体現してしまうんです。でもこれ、果たしてこれから先も本当に機能するのでしょうか。

学校のありようは、25年後の社会のありようと直結していると考えられます。この先の社会をつくる子どもたちにとって、学校を「25年後の社会」だと捉えると、僕らがどういう社会を目指すのか、という視点から学校教育を考えることができるのではないか。慣性が働く学校だからこそ、未来の姿を実験できるのではないか。今こそ新しい学校の形が求められているんじゃないかと考えて、学校づくりに関わり始めました。これが軽井沢風越学園における、ぼくなりのチャレンジです。

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風越学園の特徴を少しご紹介しますね。軽井沢駅から一駅先にある中軽井沢駅から南に2キロメートルぐらいのところにあり、敷地はおよそ74,000平米ありますが、敷地の半分以上は森のまま残しています。義務教育学校で、1年生から9年生まで、そして幼稚園も併設しています。一般的に幼小中「一貫」といわれますが、幼稚園児、小学生、中学生が混ざりあって学んで育っていく場なので、ぼくたちは「幼小中混在」と呼んで定義しています。

現在の在籍数は194名、年少から2年生までが前期で、3年生から中1にあたる7年生が後期という制度にしていて、クラスや学級はすべて異年齢が混在するため「ホーム」と呼んでいます。例えば「ホーム あ」には現在、年少3人、年中4人、年長3人、1年生5人、2年生4人という19人です。大人にとっては違和感があるかもしれないのですが、子どもたちはほとんど違和感がないようで、実はお互いが何年生か知らないまま過ごしているということが結構あるようです。子どもにとって年齢はさほど関係ないんだなと感じますね。

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僕らが大事にしていることは、「キャリアオーナーシップ」の概念と繋がることも多くて、おのおのが“つくり手”になるということを学校としても大事にしているんです。

これは学校のウェブサイトに載せていることでもあるのですが、子どもたち、スタッフ、保護者、地域の方々など、軽井沢風越学園では誰もがつくり手であると考えています。“つくる”ことを通じて、「自由に生きる」ということと「自由を相互に承認する」ということを繰り返して、一人ひとりが幸せになり、幸せな社会をつくる。だからこの学校に関わる一人ひとりがつくり手であるというところから出発しています。

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施設の特徴としては、閉じられた空間はほとんどないオープンなつくりになっていることが挙げられます。中央のライブラリーは学校の心臓として位置付けていて、後方には木工などのものづくりができる大きなラボスペース、そして森は、遊びや学びの場であると同時に多様性を守るために保全の活動もしています。

授業も学校自体がオープンなつくりですから、例えば7年生が学んでる時間に、本棚を隔てた横では3,4,5年生が国語のインストラクションを受けていたりする。お互いの授業の様子が伺えたり、教員同士も他の授業を見に行くことが結構頻繁にありますね。

3年生以上は一人1台Chrome bookをもっていて、文房具のように使っています。こっそりYouTubeを見たりゲームをする人たちも出てきはじめましたが(笑)、主に調べものをしたり、コミュニケーションのプラットフォームとして独自に開発した「Typhoon」にも使っています。「Typhoon」によって完全ペーパーレスで、スタッフ、子ども、保護者がコミュニケーションをとったり、学びの軌跡を残すために活用しています。

学びのカリキュラムにおいても異年齢であることが大きな特徴で、3歳から15歳が活動に応じて流動的な組み合わせで学習しています。それもセルフビルド、つまり自分で、自分たちで時間割をつくったり、自分が探求したいことを探求する時間というものを設けているんです。

算数や数学は異学年の自由進度になるため、個人のペースで、自分で教材を選ぶことにチャレンジしています。例えば3年生から7年生が混ざって過ごし、タブレットや教科書や教材を使ったりしながら、お互い学びあいながらも自分のペースで進めている。中には6年生で中学校の内容に入っている子もいれば、3年生の内容に戻って学び直しをしている子もいます。最初はやっぱり「進んでる」「遅れている」と気にしていた子が多かったのですが、半年ほどしてようやく「自分のペースでいい」ということを体得しているようです。

2階にもオープンな教室があって、どこに座ることも自由ですので、一人で勉強することもできるし、集まって学びたい人たちは集まって一緒に調べるなどもできる。廊下にはカウンター席もあるので、一人で集中したい生徒はこうした場所を選ぶこともできます。

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また、「遊びと学びを分けずにたっぷり遊ぶ」「遊びの中から学ぶ」ということを大事にしようとしています。読むこと、書くこと、表現することの時間も毎日とるなど、カリキュラムの柱が探求の学び、時間の半分ぐらいはプロジェクトに取り組むことで学ぶような感じです。教科融合のプロジェクトもカリキュラムの大切な位置に据えていて、約6週間かけるプロジェクトを年間6本行いながら探求していくという学び方です。

幼稚園の子たちは、晴れでも雨でもほとんど毎日を外で過ごしていますが、校舎の中にも入ってきたりして、小中学生が当たり前に一緒に暮らすように学んでいますね。

日々一緒に暮らしているからこそ起きるメリットもたくさんあって、例えば、年少さんが文字を書いているところに1,2年生が集まって教えてあげたり、一緒に遊び始めたり、あるいは幼児の様子を見ていた中学生が保育士になりたいというので、何日間か保育士体験をしたり。異年齢はメリットもデメリットもあるとされますが、僕ららは「混ざることから始めてみよう」と考えています。

「学校づくりをしている」と話すと羨ましがられることが多いのですが、「そんな幸せな世界じゃないよ」と思いますね。スタッフたちに聞くと、ゼロからすべてをつくることの大変さに直面していることが多く、実際ものすごく大変だと言っています。それらを踏まえながら、今回の「新しいものを受容し、自己変容を積み重ねる」につなげて考えたときに、6つのことを思いました。

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ひとつは、「新しいものに出会う経験」というのは圧倒的に必要だということ。学校教育はよくも悪くも均質化して、全国どこに行っても同じ仕組みでできているので、そこから一歩出て、自分のいる世界の文化から出て見直す経験は、自己変容を積み重ねる上では圧倒的に大事だと思うんです。

2つ目は、「自立した行動をとる機会」がたくさんあることの大切さです。自分でやってみたいと思ったことに挑戦できる経験は、実は子どものときこそ積み重ねるべきではないか、と。例えば小中高校でチャレンジの機会にあまり恵まずに、急に大人になってから新しいものにチャレンジしようといわれても難しいと思うんですよね。新しいものにチャレンジして、失敗して、フィードバックを受けて、改善する、この原体験を積み重ねることがひとつの「キャリアオーナーシップ」を育てる本当に根っこになると考えています。

3つ目は、「フィードバックがプラスになる経験」をたくさんすること。6年生のある2人が「森川プロジェクト」というものを始めました。軽井沢にある森と川を守ろうというプロジェクトで、ゴミ拾いをしようって声をかけたら人が全然集まらない。そこで、「楽しくしないと人が集まらないんじゃないか」と考えて、「風越の川を辿ると日本海につながるのか?」と問いかけるクイズを張り出したんです。

みんなの答えをシール投票して、じゃあつながっているかどうかみんなで様子を見に行ってみよう、と。「風越ヒロシ探検隊」と名付けて本当に見に行き、「つながってた〜」と感動して、じゃあついでにゴミを拾って、川に愛着をもってもらう、ということをしてるんです。これは、「人が集まらなかった」というフィードバックから、どうしたらいいかを繰り返し考えて試してみた成果です。子ども時代にそういう経験を積み重ねると、大人になってからも自分のオーナーシップが身につけやすくなりますよね。

4つ目は、「学ぶ時間を勤務時間の中に確保する」ことです。ぼくは、教員が成長し続けることがカリキュラムを良くして、その結果、子どもの学びが良くなると思っているので、学び自体を仕事の中に位置づけていくことが大事だと思っています。風越学園では、水曜日が午前中授業、午後は研修の時間、月に1回は丸1日研修ができる日を設けていて、各自学んだり研修したり、読書会などの時間を設けることを文化にしようと試みています。

そして5つ目は、経験からの取れ高を増やすというか、「経験から学ぶことの総量を増やす」ことです。リフレクションの中で培っていく専門性は、質を高めて自己変容を促す上では欠かせないと思っています。

そして最後に「つくることと壊す」こと。ゼロからつくるというのは怖いことで、新しい教育カリキュラムをつくるのも、ものすごく怖いことなんです。セルフビルドみたいな時間は、保護者から「本当にこれで何かを学んでいるのか」というような声が出ることもありますが、不安の声に引っ張られてたじろいでしまうと、もう解消する方には行きづらい。それよりも、実現したい世界、ありたい世界から考えてみることを大人が何度も何度も経験して、その経験から「新しいものを受容すること」が生まれてくるんじゃないか。そう思ってスタッフと日々、実験のように続けています。

西村さん  ありがとうございました。岩瀬さんに質問などあれば。西原さんどうですか?

西原さん  圧倒されながらお話を聞いていました。うちの学校では、プロジェクトベースラーニングやアクティブベースラーニングといって、学生にビジネスプランをつくってもらったりしているんですが、そうした自由な取り組みに対して、何も型や枠組みはつくらないのか、もしくは、自由とはいえある程度の範囲を設定しているのか、伺いたいです。

岩瀬さん  以前フィールドワークとして研究者の方がいらしたとき、「やりたいことの格差が広がるのでは」という指摘をくれた方がいました。この環境でいきいきとやりたいことに挑戦する子と、手持ちぶさたになる子がいるのではないか、と。スタッフたちも気づき始めていて、やりたいことって内面から湧き出るのではなく、関係性や新しいものとの出会いから始まるのだ、と。僕らそういう場をできるだけ用意することをためらっちゃいけないね、と話しています。

一番やっちゃいけないのは、「何したい?」って聞くことでしょう。ぼくらはただ「あれもできるよ」「これもやってみようよ」という誘いをためらわずに続けること。その上で選択してもらえるといいんじゃないかと思っています。

西原さん  ありがとうございます。「暗黙知」の話を先ほどしましたが、何がやりたいかをはっきり言えない子も少なくなくて、でも、何をやりたくないかは言えたりするので、いろんな選択肢を挙げてみることが大事だというのはすごく腑に落ちました。ありがとうございます。

西村さん  では最後の登壇は、リビングラボ実証実験の現場でもある長野県塩尻市から塩尻市職員の山田崇さんです。

「新しいものを受容し、自己変容を積み重ねる」越境的市職員としての挑戦 | 山田 崇(長野県塩尻市 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長)

山田さん はじめまして、山田です。長野県塩尻市役所で公務員をしていて、新卒からなので勤めて23年になります。現在45歳なんですが、37歳までは普通の公務員でした。

「キャリアオーナーシップ」という点で変化したのは、2012年にわたし自身が空き家を借りたことで、それが現在の働き方につながっています。

プライベートで空き家を借りたきっかけは、違和感でした。わたし自身はレタス農家の息子で、公務員しかやったことがないのに商店街活性化なんかできるわけないな、と。またもうひとつ、塩尻市民約6万8千人のうち市の職員は569人、1/120の人が500人集まって10年先のまちづくりや未来を考えることにも、違和感を抱えていました。

今はいくつかの働き方をしていることもあって、越境的な人材だといわれたりします。今回の「新しいものを受容し、自己変容を積み重ねる」に重ねて考えたとき、自分の中にあった違和感と、そこに異議を唱えて行動したことを続けて、何が起きたのか。市職員の挑戦として、どんな課題感で何をしてきたか、という話をしますね。

「最初は普通の職員だった」といったのは、「公務員なんて誰にでもできる」「去年の担当者と同じことをやったらいいんでしょう?」みたいな、相当なめてるところがあったんです。仕事の負荷としては大学の研究室よりも楽だな、とか。
ところが転機は2008年ぐらいから人口が減り始めたことでした。その時に感じたのは、「国に言われたから」とか、「隣の市がやってるから」とか、「市長に言われたから」という理由だけですることがうまくいかなくて当たり前だな、ということ。つまりレタス農家の息子で、商店街で商売をしたことないのに商店街の活性化ができるわけがない、と思ったんです。

それで一軒の空き家を借りて、「nanoda」というプロジェクトをしてみた。これが、違和感のある現状に異議を唱えた、わたしの「キャリアオーナーシップ」だったと思います。

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現在関わっているものは色々ありますが、仕事として始めためたものは、民間連携で行う地方創生協働リーダーシッププログラム「MICHIKARA」と、シビックイノベーション拠点となる「スナバ」。そこから派生した形で現在、副業として、オンラインコミュニティをつくる応援を行う「塩尻CxO Lab」、あと、市役所をハックすることをテーマにしたオンラインでの取り組みも行なっています。

空き家プロジェクトの「nanoda」のことを少し話すと、空き家を借りたのは2012年、わたしが37歳の頃です。特別な目的をもたずに商店街の一軒の空き家を借りてみて、現場で何が起こっているのか、誰が困っているのか、そもそも空き家って何なのかという課題把握から始まりました。そこでは、自分の中で湧き上がってきた「やってみたい取り組み」を実践することを、この8年間で480回以上してきました。

「スナバ」という場づくりにも携わっていまして、これは当初1か月のプログラムだった場所を、拠点にできるように整備し、シビックイノベーションを起こす場づくりをしようという試みです。年間に10万円を払う人が60人いて、それがコミュニティとして機能していることもあり、現在ドロップインは受けていません。共に集まり、成長し、リビングラボという機能から新しい社会実装をしていくものです。

地方創生協働リーダーシッププログラム「MICHIKARA」も非常に学びが多いです。塩尻市は本当に素敵なところでして、市の総合計画の中に「地域課題を自ら解決する人と場の基盤づくり」という政策が書かれているんですね。多様な市民と行政と民間企業が共に新しい未来と地域をつくる取り組みを行なっていて、これまでに27のテーマを進めてきました。

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地方創生については、そもそも2004年に施行された「地方分権一括法」により、住民の福祉と増資を図るためにも、自主的かつ総合的に実施することが法律の目的として定められているんです。でも中々うまくいかなかったから、地方創生という交付金ができたんじゃないかとも思ってるんですが、塩尻市も最近では様々な取り組みを進めています。直近では「竹中工務店」と一緒に森林グランドサイクルの地域連携協定を結びました。

あと、塩尻市内を自動運転のバスが走行しているのですが、これは経産省と内閣府から三種類の予算を自分たちで取ってきて進めているところです。また、このキャリアオーナーシップリビングラボの実証実験でも、「東芝」と一緒にワインの可視化をIOTで行うような取り組みも進めています。

実際、「MICHIKARA」に参加していた市職員27人中14人は、国のコロナ対策立案チームにも入っていて、それぞれが別に誰に言われたわけでもなく、オーナーシップをもって8億9千万円という予算に取り組んでいるなど、この6年間で「なぜ」とか「いつまでに」といったことを具体的に語れる職員が増えてきたという変化が見て取れます。

以前「リクルート」の方と一緒に取り組んだ際、「ATIとn=1」という概念を教えてもらいましたが、これは、「圧倒的な当事者意識をもつ市の職員が政策をつくる」ということなんですね。我々は国や県と違って、何か実施したことで最初に喜ぶ市民が身近にいるんです。だからこそ我々の取り組みによって、本当に笑顔になる人をちゃんと捉えることが必要なんですね。でもまだ、うまくいくことの方が少ないので、どれほど優秀な企業とご一緒しても課題は残っていて、現実の課題もあることを知らされています。

民間企業と事業をして、得意なものは得意な方にやってもらえると良いんですけど、「じゃあ行政には一体どういう存在意義があるんだろう」と考えるわけです。わたし自身は、行政は公共問題というものの問題設定を行い、民間部門の協力を引き出して、政治家も民間企業もできないことにコミットするのがいいんじゃないかと思っています。実際「市役所をハックする」もそんな思いから始まりました。

わたしの問いのひとつは、「38年間クビにならない公務員は本当のところ、何をすべき存在なのか」ということなんです。塩尻なら1/120の存在であり、わたし自身は市職員キャリア10年間なのですが、人生の間ずっとプライベートでしてきたことを仕事にでき初めてきました。自分で空き家を借りてみたら空き家バンクの担当になったり、プライベートで講演をし始めたらそれが塩尻のプロモーションになったり。一人の塩尻市民でもあり、公務員でもあるという、肩書を行ったり来たりすることがわたしの中で大きくなってきました。

何か状況に違和感を感じているんであれば異議を唱える。自分なりに何かしないと変わらないということ、そして、やってみなきゃわからないということを2012年からずっと続けてきたことが、自分の「キャリアオーナーシップ」のヒントになっているのかと思います。以上です。

西村さん  ありがとうございました。質問がある方いらっしゃいましたら。

岩瀬さん  山田さんを突き動かすものは何でしょうか。

山田さん  「自分で決めた約束」でしょうかね。それに、小さく始めることで継続しやすいようにしていることもあると思います。一軒家の「nanoda」も。3ヶ月契約を更新しているんです。

わたし自身は計画主義ではなく、適応主義なんです。だから、「なんで公務員続けてるんですか?」と聞かれることもあるんですが、公務員辞めちゃうと元公務員というコモディティになってしまうので辞めないんです。自分みたいな人材は公務員側にいた方が民間企業のためにもなると考えている自分もいて。あとたぶん、まだ目立ちたいんでしょうね。

3人にとっての「変容する力」とは

西村さん  では最後に、皆さんにとって「変容する力」とは何かをお聞かせください。

山田さん  わたしにとっては圧倒的に他者が必要なことですね。関係性は友だちだけではなく、他者とのコンタクトの多さや、はたらくを通じた対話と内省をたくさん繰り返しています。

岩瀬さん  自己変容するとき、ぼくの感覚では痛みが伴うんですよね。自分の当たり前だったことや良いと思っていたことを否定すること、問い直すことが含まれることが多いからかもしれないですが、ポジティブに生まれ変わるだけじゃない、痛さみたいなものは何だろうなと考えています。

西原さん  心の壁を破るのが結構怖かったり痛かったりするのかもしれませんね。心の壁を破る一歩が踏み出せるか踏み出せないかが自己変容する力なのかと思うんですけども、一人で踏み出せる人もいれば一人じゃできない人もいて、一人でできない人は他の人と対話する中で、「自分は大丈夫なんだ」と感じられる。人と人との中からそういう勇気が出るのかなと思います。

第2回ダイアローグでは、ゲストに島根県雲南市役所の光野由里絵さん、京都大学准教授の塩瀬隆之さん、「株式会社FROGS」の山崎暁さんの3名をお迎えし、それぞれの取り組みと背景にある思い、そして「自分自身のキャリアを調和し、相乗効果による好循環を生み出すこと」をテーマにお話を伺います

(第2回はこちら

●キャリアオーナーシップリビングラボ 


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