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ACTion 26 『巡る世界 2』

 入れ替わり、部屋の隅で表示は灯った。部下だ。表で入室許可を求めている。応じてドアをスライドさせればプラットボードを携え現れていた。部下は今しがた極Yより通信があったことを告げ、プラットボード上へ人形を立ち上げるとシャッフルへ向けなおす。
 人形が踊り出すと同時に動話は翻訳さたると、与えた座標が『デフ6』エリア、ギルド商人の非対面式店舗であったことを、すでにもぬけのカラであったことを報告した。さらには店舗の留守録映像に対象が映っていたことと、ふまえて送信元を探り惑星『アーツェ』へ向かっていることもまた知らせる。
『アーツェ、ですか……』
 動きを止めた人形から部下がシャッフルへ顔を上げた。
『ここからOp・1までの距離と、あまり変わらんな』
 シャッフルは仮想デスクのコンソールを弾き、『アーツェ』の正確な位置確認にとりかかる。
『まだ彼らに任せるおつもりですか?』
『フェイオン以上の惨事は起きんよ』
『ですが我々の船は彼らよりアーツェに遥かに近い位置で待機しています……』
 問いかけへ十分承知している、とうなずき返し、食い下がる部下へ視線を持ち上げた。
『対象を確保することは重要だ。だが極Yを使うのは彼らから動話を剥奪するためでもある。それが上の考えなら従うのが我々の役割だ。乗り込んで手柄を奪うわけにはいかん。ただ』
 一呼吸おく。知らぬうちに詰まっていた眉間を開くと付け加えた。
『その極Yが対象を逃し続ければ、確かに本末転倒ということにはなるがな』
『すでに一個分隊の準備は整っている状態です』
 待っていたらしい。部下の段取りに抜かりはない。シャッフルはその目をのぞき込む。同時に、向かえば上の指示に背くこととなるともまた考えた。だからこそもう一度、勝負をかけるてみるか、とひとりごちる。そしておそらくこれが最後のチャンスだろうと感じ取りもした。
『確か、アーツェには古い連邦軍基地が残されていたな』
 仕草は自身にもわざとらしい。やおら宙を仰ぎ見る。
『視察、されますか?』
 切り返す部下こそ絶妙だった。
『そうだな。ここも一段落つきつつある。たまには貴重な資源のすす払いにつとめるのも悪くない』
 シャッフルは言い、一転してその表情を引き締めた。
『分隊員には必ず絶縁スーツを着用させろ。それから実弾の携帯は認めん。実験体は生きたままで確保したい。もちろん極Yとハチあわせた場合、我々は援護に回る。だが彼らがしくじりそうな時は我々の出番だ。遠慮はするな。後の責任はわたしが取る。実験体を確保しろ』
『了解しました』
 早速にも制服の胸元からケーブルを引き出した部下が、先端についたパッチをこめかみへ貼り付ける。骨で頭蓋内の声を拾いながら、別れてぶら下がるケーブル途中のマイクを使い指示を飛ばした。やり取りに集中していた視線をやがてシャッフルへ戻す。
『六百セコンド以降でしたら、いつでも出発可能です』
『分かった』
 ならば視察で席をはずす件を、うまくクレッシェへ伝えなければならない。出来るかどうか疑問は残ったが、やるしかないと胸の光学バーコードへ入出許可証ともなる階級章を転写させた。
 埋まっていた椅子から腰を上げる。前で部下が静かに頭を下げていった。

 その六百セコンド後、一艇の巡航船は『フェイオン』の傍らに停泊する白い船を離脱している。そこにシャッフルたちと、『アーツェ』で過ごす誰もの運命もまた乗せると。

★★★