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着飾らずに素の自分を出す━━株式会社グッドパッチ 代表取締役社長・土屋尚史さん流、SNSのつかい方

「Twitterは僕にとっては呼吸のようなもの。やる目的や理由が先にあるのではなく、そのときそのときの思いをただ残したいんです。それが結果的に資産になってもいます」

こう語るのは、株式会社グッドパッチの代表取締役社長兼CEOを務める土屋尚史さん。2020年6月にデザイン会社初の上場を果たしたグッドパッチでは、「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、ユーザー体験も含めた広い意味でのデザイン全般に取り組んでいます。

イベント「ビジネスに役立つSNSやnoteのつづけ方」では、デザイン会社ならではの視点をお持ちの土屋さんに、SNSのつかい方や活用のコツをうかがいました。

ツテがなくても「シリコンバレーに行く」と
ブログで宣言

━━土屋さんがメインでつかっているSNSはTwitterですか?

土屋さん はい。2009年にアカウントをつくったので、丸13年やってます。ほかにはFacebookとnote、プライベートでInstagramをつかっています。

━━起業を志して、SNSをビジネスに役立てようと思ってはじめたのでしょうか?

土屋さん 起業のためにSNSをはじめたわけではありませんが、30歳までに起業家になろうと決めていました。

2008年の秋から、サラリーマンをやりながらデジタルハリウッドに通い、将来起業するときの仲間をつくろうと考えました。京都錦市場商店街のホームページのリニューアルをデジハリの生徒で請け負うという企画があり、その統括を担当しました。

普通にホームページをつくってもおもしろくないから、商店街のお店全部にTwitterをやってもらうという企画を立てたんです。そのときの様子が、「商店街をTwitterで活性化」というテーマで『ガイアの夜明け』というテレビ番組に取り上げられました。そのタイミングで僕も本格的にTwitterをはじめました。

━━その後、2010年12月に起業準備を含めてシリコンバレーに行くことを決め、ブログも開設されたんですよね。

土屋さん 2010年の夏ころに起業準備をはじめ、いろいろな起業家の話を聴きにいったんですが、ディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長の講演がとくに印象に残りました。

当時南場さんは日本とシリコンバレーを行き来していて、日本のベンチャーとシリコンバレーのベンチャーは全然違うと気づいたそうなんです。シリコンバレーではアメリカ人だけで会社をつくる事例はほとんどなく、いろいろな人種・国籍のひとたちが集まっていると。だからこそ最初からマーケットがグローバルなんだと。

「これから起業する君たちは日本人だけでチームをつくってはダメだ。多国籍軍をつくりなさい」と、南場さんは講演でおっしゃっていました。その言葉がすごく響いて、「自分もシリコンバレーに行こう」と決めて立ち上げたのがブログ「Like a Silicon Valley」です。ブログにも書いたとおり、当時シリコンバレーにはまったくツテはありませんでした。ただ、これを書いておくことが将来的に何かのストーリーになるんじゃないかと思ったんです。

シリコンバレーに行くことを決意し、繋がりのあるひとを探す毎日。ある経営者のツテでサンフランシスコにあるデザイン会社btraxでインターンとして働くことになる(写真前列左端が土屋さん)

目的を求めず、呼吸をするようにTwitterをする

━━ツテがなくても「行くよ」と先にブログで宣言してしまうのもアリだなと思います。何かリターンを得るために情報発信をするわけではないというか。土屋さんの過去のツイートでも、「Twitterをやることに理由を求めてはダメ」と書かれています。

土屋さん Twitterは僕にとっては本当に「呼吸」なんですよね。個人的に相性がよかったんだと思います。僕はTwitterはオープンで、裏垢や鍵垢も一切ないんです。Twitterは他者への好奇心が強いひとにとってはいいツールだと思います。僕はTwitterというツールによって人生が変わったと言っても過言ではないと思っています。自分の視点になかったインプットがTwitterによってもたらされているし、人生を豊かにしてくれるツールです。

僕は「フォロワーを増やそう」と思ったことはないですが、フォロワーを増やすことを目的にしているひとたちが結構多いですよね。昔はフォロワーを買うなんてこともあったようです。僕からすると、そういうのは滑稽に見えます。

僕は2009年のTwitter黎明期からやっているけれど、途中からやりはじめてフォロワーを増やしていくのは確かに大変なのかもしれない。でも、最初はだれからもフォローされないし、ツイートを見てもらえないのが当たり前なんです。そこでやめてしまったらそれ以降のオポチュニティ(機会)を得られないということです。

自分の思いを残すことが「資産」になる

━━呼吸をするようにやっていくことで自然とフォロワーも増えるという話ですね。とはいえ土屋さんのツイートはバズっているものも多いです。以下は決意表明のようにも受け取れるツイートですが、こういうのも呼吸なんですか?

土屋さん これは当時の事業の状況や精神状況を表しているツイートですね。僕はツイートすることでそのときの感情を残しておきたいんです。ブログもそうですが、何者でもなかったときの自分の思いが文章として残っているのは、資産なんです。たとえば本を書く場合は、昔のことを思い出して書くから結構改ざんされますが、ブログやSNSはそのときの率直な思いを残せます。

ただ、僕は別に「資産を残そう」と思ってやっているわけではなくて、結果的に過去に書いていたものが資産になっているということ。それが何にもならなくても別にいい、という考え方です。

2011年5月のブログ記事。まだ10名程度のスタートアップだったUberのアプリを利用した体験を
当時のキャプチャとともに掲載している

みんな期待しすぎなんじゃないかなと思うんです。「こういうツイートをしたら反応もらえるかも」みたいな、短期的な成果を期待してしまう。

僕はただ素でツイートしています。「てにをは」とかもあまり気にしないし、きちんとした日本語にしなきゃとも思わない。SNS上でも表裏がないですし、実際とまったく変わらないんです。素を好きになってもらうのが一番重要だと思います。

自分自身の性格として、着飾ったり大きく見せたりするのが嫌いなんです。権威が嫌いで、基本的にひとをフラットに見るようにしています。ひとを見るときにはバイアスを外して見たいし、僕自身もそういうバイアスで見られたくない。だから、相手のバイアスというか期待値からなるべくジャンプの少ないコミュニケーションをするというのが鉄則だと思っています。

社内でも社外でも「素」を見せるのが重要

━━土屋さんのnoteも、当たり前のように3桁のスキがついていますが、やはり素をさらけ出している記事が多いから共感を呼んでいるんだと思います。それがきっとビジネスでは採用などにも結びついているんでしょうね。

土屋さん そうですね。ビジネスにも効いていると感じています。グッドパッチはデザイン会社ですが、組織デザインなどの領域で仕事をいただくケースも結構多いです。

企業は経営者や創業者が顔になることが多いので、やはりそのひと自身を知ってもらうことが大事だと思います。素のままの僕を好きになってもらい、共感してもらうことで、仕事を発注していただいたり採用に応募していただいたりするのが重要だと思っています。

社外だけでなく社内にも経営者や社長の「顔」を見せることは必要だと思います。会社の「ミッション」とか「ビジョン」というのは整形された言葉なんです。そうではなく、社長自身が多角的な言葉で伝えていくことが大事です。そうすることで社員の安心感につながるので。僕は社内のSlackでもよくつぶやいてます。Twitterでつぶやくよりも社内のSlackでつぶやくほうが多いくらいです。

━━Twitterより社内Slackのほうが多いんですね。ちなみに社内ではどんなことをつぶやくんですか?

土屋さん 芸能ゴシップとかをシェアして「ワロタ」とかつぶやいてます。仕事とは関係のないものも全部出してます。僕は社長然としたキャラクターでは全然ないので。僕のSlackのつぶやきに一番最初につくスタンプは「草」です(笑)。本当に目的のない会話なんですが、そういう雑談的なものがいい。すべてに対して目的を求めはじめると、ひとって辛くなるんですよ。

━━確かにそうですね。土屋さんはビジネスのためにSNSをはじめたわけではないと思いますが、これからビジネスでSNSをはじめようとしている方に向けてアドバイスをいただけますか?

土屋さん 自分の考えを発信するのが苦手なひとは、いきなり自分の考えを言おうとするよりも、まずは何かのニュースに自分の考えを1行だけ追加してツイートしてみるのがいいのではと思います。もしくは読んだ本の感想を3行くらいにまとめてつぶやくとか。日常生活を送る上で何かしらインプットは受けていると思うので、そのなかで見たもの聞いたものに少し自分の考えをプラスしてつぶやくだけでもいいと思います。

━━初心者の方にとっては実践しやすいですね。「フォロワーを増やす」などの目的が先にあるのではなく、土屋さんのように呼吸をするようにSNSをつかうことで結果としてビジネスにも役立っていたということもあります。その順番を間違えずにつかうことが大事だと思いました。本日はありがとうございました。

登壇者紹介

土屋尚史つちやなおふみさん
株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO

長野県佐久市出身。Webディレクターとして働き、2011年3月にサンフランシスコに渡りデザイン会社でスタートアップ支援に携わる。2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。UI/UXデザインを強みとしたプロダクト開発でスタートアップから大手企業まで数々の企業を支援。新規事業の立ち上げからデザイン組織構築支援まで幅広く手がける。自社開発のUIプロトタイピングツール 「Prott」は2015年度グッドデザイン賞を受賞。2020年6月、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。
note / Twitter

interview by 徳力基彦 text by 渡邊敏恵​​


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