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【識者の眼】「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(10):積極的勧奨の再開」奥山伸彦

奥山伸彦 (前JR東京総合病院副院長)
Web医事新報登録日: 2021-11-26

11月12日の第72回厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会)の決定を受けて、8年余ぶりにHPVワクチンの積極的勧奨が再開されることとなった。その根拠は、①多様な症状とHPVワクチンとの関連についてのエビデンスは認められていない、②子宮頸がんに対する予防効果が示されてきている、③症状に苦しんでいる方に寄り添った支援について適切な対応がなされてきた、④十分な情報提供が行われるようになっている、ことを挙げ、「大きな方向性として積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」としている。

「HPVワクチン接種後の多様な症状」とは、ワクチン接種のストレスを契機として発症した身体の疼痛を主徴とする機能性身体症状で、それには、①身体症状症としての生活と意識の変容、②身体不活動によるdeconditioning、の2つの要素があり、背景に生物心理社会的リスクが複雑に関係していると理解している。当時、初めての筋肉注射という不安や性教育も含む理解の困難さによる心理的リスク、家族、教育者、医療者など周囲からの支持の不確かさと、繰り返しマスメディアが報道する疼痛、痙攣、麻痺などの画像から受ける社会的リスクが、思いの外、被接種者の状態を不安定にしたと考えている。

2017年、国際疼痛学会が第3の痛みの仕組みとしてnociplastic pain(組織損傷、あるいは体性感覚系の病変や傷害の証拠がないにもかかわらず、侵害受容の変容によって引き起こされる痛み)という概念を提唱し、最近日本の疼痛関連学会が「痛覚変調性疼痛」と命名した。これは、検査上異常が確認できない、これまで心因性と誤解されてきた痛みの解明に新たな光を投げかけるもので、実は「多様な症状」の多くは、将来こういった脳の働きの可塑性(plasticity)で説明できるようになるのでは、と感じている。

日本の医療者も社会も、原因解決型の医療は原因が医学的に解明されなければ迷走する、という悲劇を自覚しなければならない。患者に相互の信頼を持って寄り添いながら、肯定的なコミュニケーションに努め、有用性を集めて患者の苦しみを救う、という医療の原点に戻る必要があり、それには国の用意した協力医療機関の医師だけではなく、患者と接するすべての医療者の役割と責任が大きいということは言うまでもない。

■連載「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか」の過去の記事
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか」(1)
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(2):何が起きたのか」
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(3):実際の症例」
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(4):ワクチン接種と疼痛」
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(5):痛みと慢性疼痛、CRPSについて」
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(6):ISRRと日本の現状」
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(7):接種前のリスク対応」
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(8):発症時の初期対応」
「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(9):治療の考え方と実際」

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