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ステークホルダー資本主義 by HBR勉強会

 この記事は、ダイヤモンド社が発行するビジネス誌”ハーバードビジネスレビュー”の特集を取り上げて、ざっくりと紹介するものです。2021年10月号は「ステークホルダー資本主義」というテーマでした。特集の中の「パーパス経営の実践に英雄はいらない」という論文にも触れつつ、最新のビジネストレンドをざっと紹介していきます。

 格差拡大や気候変動問題、パンデミックなど、世界が危機に直面するいま、社会や地球環境の持続可能性に向けて、企業は株主のみならず、従業員、顧客、取引先、コミュニティなど全てのステークホルダーを戦略の中心に据えなければならない。パーパス主導の経営こそが、長期的な企業価値を実現し、新たな未来を作ることにつながる。(ハーバードビジネスレビュー2021年10月号P27 特集の中表紙より)

「株主利益の最大化」があらゆる問題を引き起こす 

 いままでの資本主義は、株式会社の場合「企業の唯一最大の目的は株主利益の最大化である」という考え方が基本にありました。昔ながらの家族で営むような小規模な商売から、徐々にビジネスの規模が拡大し、機関投資家の力が強くなるにつれて「もの言う株主」が存在感を増すようになり、株主利益を追求することが会社として最大の目的だと考えられるようになりました。

ステークホルダー資本主義図1

 ところがその反動として、社会のさまざまな所に問題が出てきたという意見があります。働いている人たちの給料を上げず、取引先から安く仕入れることで大きな収益をあげ、それを株主に分配するため、所得の格差がどんどん拡大します。ハーバードビジネスレビューが発行されているアメリカでは、株主の構成は白人男性が多いため、人種間の経済格差も拡大し、「なぜ白人ばかり豊かになるんだ・・」という心理的な溝を生みます。権力と富を持つ人の影響力はますます強くなり、持たない人の影響力はますます弱くなります。余裕を失った人々の不満の矛先が、自分達の仕事を奪う可能性のある移民やマイノリティーに向けられ、より立場の弱い人たちの排斥運動にも繋がります。

 また、株主利益を最大化するためにどんどん経済活動をすることにより、CO2を排出して地球温暖化が進み、ゴミが増え、生態系の破壊や異常気象が起こり、住む場所を失った人達が移住せざるを得なくなるような未来にも繋がります。

ステークホルダー図2

 株主利益を追求する資本主義の姿勢が、こうした現代の様々な問題を引き起こしているのではないかと、今までの資本主義のあり方に疑問を呈する声が出てきているのです。

「株主利益の追求」に変わる「ステークホルダー資本主義」とは

 もちろん株主利益を追求する考え方が全ての問題の原因かはよくわかりません。しかし今までの資本主義に変わる、新しい資本主義のあり方として注目されているのが、今回のテーマである「ステークホルダー資本主義」と言われる考え方です。

 ステークホルダー資本主義とは、株主だけではなく、その企業に関わる様々なステークホルダー、例えば授業員、顧客、取引先、地域コミュニティなどにも貢献し、金銭的にも還元しようという考え方です。もちろん株主も還元先に含まれますが、必ずしも今までのような、まず最初に最優先される存在ではありません。

ステークホルダー資本主義図3

 いままでの株主利益の最大化という目標に変わって、ステークホルダーを重視した経営に舵を切るために重要視されるのは、「その企業は何のためにビジネスをしているのか」「誰のためにビジネスをしているのか」という「パーパス」です。今までは「株主のために」「株主の利益を上げるために」ビジネスをしてきました。それが無くなるので、改めて会社の目指す先を定義しないといけません。会社組織の方向性を変えることは強いリーダーシップが求められます。会社の向かうべき方向を示し、みんなの意識を揃えるために、企業のパーパス(存在意義)を再定義し、それを戦略の核に据えるのです。

ダノンCEOの解任劇

 特集の中の論文「パーパス経営の実践に英雄はいらない」では、ダノンCEOの解任騒動が語られています。ダノンは日本でもヨーグルト製品や、飲料水「エビアン」などで有名な、フランスの食品会社です。ダノンの会長兼CEOだったエマニュエル・ファベール氏は、パーパス経営のトップランナーと見られていました。ファベール氏はフランスが法で規定した新しい会社形態「使命を果たす会社」を名乗り、自社製品を通じた健康の改善、地球資源の保護などのパーパスを経営の軸に据える方針を掲げ、株主の承認を取り付けていました。

 ところが、その数ヶ月後の2021年3月に、突然彼は取締役会から解任されてしまいました。彼の解任を求めたのは、解任劇のわずか3ヶ月前に同社の株式を取得したアクティビスト(もの言う株主)だったと言われています。

 ファベール氏は今までの株主利益の最大化を目指す方針から、ステークホルダー資本主義を実現に向けて舵を切る、カリスマ的な立場と見られていました。もの言う株主によって彼が退任に追い込まれたことは、株主利益第一主義に対するステークホルダー資本主義の敗北としてセンセーショナルに捉えられました。

 この論文の結論を簡単に説明すると、ファベール氏のようなカリスマが1人いるだけでは、今回のように反対派に攻撃された時に改革が頓挫してしまうので、複数のリーダーが率いる形や、パーパスを組織に根付かせ、カリスマリーダーに頼らない組織の文化として、ステークホルダー資本主義を根付かせる必要がある、というものです。論文の中では株主利益第一主義VSステークホルダー資本主義という二項対立が、今あちこちの企業を舞台に起こっているという捉え方をされています。決着はまだついていません。でもステークホルダー資本主義の勝利に向けてみんなで協力していこう、という主張になっています。

特集のかんそう

<特集の感想>


 世界的な大ベストセラーになった「金持ち父さん貧乏父さん」という本があります。有名な本なので、お読みになった方も多いかもしれません。その本の中で金持ち父さんは、自分の時間を切り売りして働く労働者や自営業者と、仕組みやお金を作って更にお金を稼ぐビジネスオーナーや投資家の間には大きな壁があり、お金持ちになるためには壁の右側に行くことが非常に大切だと説きました。壁の左側にいる限り、いつまでもお金のために自分の時間を切り売りして働き続ける”ラットレース”(回し車を走るネズミのような状態)から抜けられないと、本の中で繰り返し説明しています。

ステークホルダー図4

 株主利益第一主義の世界はまさにこの世界です。壁の右側はどんどん豊かになり、壁の左側は一生懸命働いても、結局企業として株主に利益を渡すことが最重要事項なのですから、働く人はなかなか豊かにはなれません。もちろん従業員の立場で高い給料をもらう人もいますし、職場の環境改善に努め、従業員が気持ちよく働けるような環境を整えることに熱心な企業もあります。ただし、株式会社である限り、その目的は最終的には株主の利益を最大化することが、究極のゴールとして掲げられます。
 
 金持ち父さんが言うように、壁の右側に回れば短期的には稼げるかもしれません。ただしマクロな視点で見れば、左側は「市場」でもあります。長期的に見ると、格差が広がって左側の人たちがお金が無くなり、物を買わなくなれば、結局は右側の人たちの儲けも減っていきます。最終的には時間差でどちらも貧しくなる危険性をはらんでいるのです。

 現実的には全員が右側に回ることはありえません。今まで個人としてこの大変さを乗り越える基本戦略は「努力する」でした。資本主義の世の中で強くたくましく勝ち抜いた成功者の中には「努力すればば報われる。成功したければもっと努力するのだ」と言う人がいます。今回、勉強会の参加者からは以下のような意見が出ました。

「がんばれば成果が出る」はちょっと間違えると「成果が出ていない人は頑張っていない」になりがち

 資本主義の競争原理は大きな経済成長をもたらし、みんなが頑張る結果として、世の中は豊かになりました。一方で、立場や、性別や、国などによって役割分担をしながら経済成長を目指すと、全体としては大きな収益をもたらしますが、収益の配分はどうしても偏りが出ます。

 がんばれば成功する、という考え方は素晴らしいですし、努力することはもちろん重要ですが、みんなが頑張りを強要される社会は、結構しんどい社会でもあります。がんばりがまったく実を結ばない人もいれば、立場によって、頑張っても経済的に報われないポジションにいる場合もあります。

 ステークホルダー資本主義がそうした「頑張らないといけない社会」への処方箋になるのかよくわかりませんが、個人的にはステークホルダー資本主義を目指す世の中の流れが、より多くの人にとって今よりも生きやすい社会になることに繋がるといいなぁ、と思います。 

 ハーバードビジネスレビュー勉強会は、毎月第2土曜日にZoomを使用したオンラインで開催しています。事前準備ゼロで参加できるので、お気軽にお申し込み下さい。詳しくはPeatixで「ハーバードビジネスレビュー勉強会」と検索をして下さい。皆様のご参加をおまちしています。

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