『インサイト』とは「あるあるネタ」なのか? 『ニーズ』や『ウォンツ』は?
<(いつもの)前説>
仕事を通じて、様々な機会で、様々な企業や様々な人たちのマーケティングに触れることがあります。
マーケティング論とかブランド論とかコミュニケーション論とかは相変わらず、というかますます百家争鳴状態で、「それは理論じゃなくて単なる考え方じゃない?」とか「それってあの話を難しく不思議な言葉で置き換えただけじゃない?」とか思ったりすることも多々。
また、実際のマーケティング戦略に接したり見聞きしたりした際にも、「確かにあのフレームワークには則っていて、一見いかにもちゃんとしているように見えるけど、空いたマスを埋めているだけで何にも心に響いてこない」=「仏作って魂入れず」なこともあり。
そんなことに遭遇した時の記憶と思いを、備忘録としてつらつらと書いていこうと思います。
※なお、今後も含め、記述内容に関しては、後から色々考えて追加・削除など変更する場合もありますが、その際には変更前の記述と、変更した理由も記していくこととしますので、ご了承ください。
百花繚乱の「インサイト」の定義。
マーケティングの用語、
「似たような意味なのにわざわざオリジナルの名前を作って、いかにも自分独自のもののように言いふらす」
という技を駆使する輩もいれば、
「同じ言葉なのに独自の解釈をつけて『あなたの使い方はこの言葉の真実を突いていない:理解が浅い!』」
と喝破して自分の方に寄せようとすることを生き甲斐、じゃない生活の糧としているお方もいたりします。
その中でも筆頭格の一つ、と言えるのが『インサイト』。
ホントに人それぞれ違う表現で自分の考えるところの意味を語っていますが、主な解釈を簡単に言うと以下の3種になります(って私の表現で語っていますが):
[インサイト]
(1)英語"Insight"の和訳:「洞察」「本質を見抜く力」
(2)リサーチ用語としての『インサイト』:「消費者への深い理解」
(3)マーケティング戦略・戦術用語としての『インサイト』:「(その商品・サービスを)買う・使うきっかけになりそうなんだけど、まだ本人が気がついていないこと」
マーケティング(リサーチではなく戦略・戦術立案の際の)で使う場合に、上記の(2)を用いる人たちも結構多く、実は私もちょっと前まではその流れに近い、
「言われてみればその通り!と思うけど、本人は意識していないこと」
というような解釈をしていました。
なお、この(2)は、本人が自覚している欲求『(顕在)ニーズ』に対して無自覚・意識の奥にある『潜在ニーズ』とほぼ同義であると認識しています。
でもこれだと、「やった、見つけた!」と喜んだのも束の間、ブランド・商品に結びつかないことも含まれてしまうため、マーケティング戦略・戦術の立案には寸足らずとなってしまい、着眼点としては良いものの解決策の提示ができないものとなってしまいます。
これ、お笑いなどでよく用いられる『あるあるネタ』と似てます。ミルクボーイがコーンフレークネタ形式で色々な話題を取り上げるというお笑いをやっていますが、あれが「そうそう、あれってそういう部分がある!」とか気づいて共感し、笑ってしまうのは、まさに自分の頭のどこかにあったけど表に出てきていないことを彼らが引き出してくれたから、です。(でもだからといってその対象となったものをほしいとか買おうというような気にさせるものではない)
戦略・戦術立案のための「インサイト」とは
では解決策やブランドにつながる意味での『インサイト』ってどう表現したらいいのだろう、と考えていた時に知ったのが、高広伯彦さんがご自身のブログ、mediologicでインサイトに関して説明していた記事にあった以下の図で表したものでした(図をクリックするとSlideshareサイトに飛びます):
この、「消費者自身が気がついていないけど実は頭の中にあるニーズ」と「ブランド」を結びつけるものが『インサイト』なのだ、という指摘。
私の頭の中にあったけど気がついていなかった、解決策につながるという意味ではまさに私にとっての『インサイト』でした。
※ちなみに、wikipediaでのカスタマーインサイトの説明は、上記2)のリサーチにおけるインサイトですね、英語版含め。
じゃあ潜在ニーズの『あるあるネタ』のように、この「ブランドと潜在ニーズをつなげるもの」という意味での『インサイト』を例えるなら何だろう?と考えて、思いついたのは『アイディアレシピ』。
「身近にあるこんな食材と道具をこういうふうに使うと、こんなにお手軽で、でも美味しい料理がほら出来上がり!」という動画とかを見て、
「あ、なるほど!カンタンでおいしそう!」と思うだけでなく、「自分でもその食材と道具を使って作ってみよう!」という気持ちにまで(料理をすることが嫌いな人でなければ)させてしまうパワーは
・「それほどお金も手間もかけずに美味しいものを作って食べられたら嬉しい」という、普段具体的に思っていることではない『潜在ニーズ』を、
・「その食材・道具を使って作る解決策」に結びつけている、
という意味で『インサイト』なんじゃないかと。
※他にもっと面白い例えを思いついたら、追記していきますね。
ちなみに、「インサイトは潜在ニーズを意味し、上記の意味での『インサイト』は『アイディア』のことだ」という意見もあり、それはそれで一理あるのですが、『アイディア』という言葉が持つ意味や役割が多様すぎるため、誤認識や誤用につながる可能性もあるため個人的にはあまり相応しくないと考えています。
※なお上記、どれが正しい・違う、という話ではなく、実際にマーケティングの戦略・戦術を作る際に、プロセスがシンプルで重複することがなく、周囲と(理解しやすい考え方なので)同じ考え方で進めることができ、かつ解決策の提示できる方法として個人的にはこれが一番役立つとオススメしたいもの、ということです。
「ニーズ』と『ウォンツ』とは?
似たような時に使われる用語の『ニーズ』と『ウォンツ』、これも簡単に言うと以下のようになります:
(4)『(顕在)ニーズ』:「〜したい」という、すでに頭の中にある欲求(例:「自分が考えていることを他の人に発表する場が欲しい」
(5)『ウォンツ』:その顕在しているニーズを達成するための手段(例:「noteに記事を書く」「clubhouseで発言する」)
※なお上記の顕在ニーズのうち、まだ技術的に実現できていないものを『未充足のニーズ』『Unmet Needs(アンメットニーズ)』と言います。
この『ウォンツ』もなかなかの曲者で、上記以外にも
(5-1)「ほぼ上記の顕在ニーズと同じ、〜したいという欲求」
(5-2)「ほぼ潜在ニーズと同じ、意識の奥にある欲求」
(5-3)「それまで頭の中にはない、全く思いつかなかったことだけど言われると欲しくなるもの」
というような解釈が存在します。
(5-1)と(5-2)は、他に言い方(『(顕在)ニーズ』『潜在ニーズ』)があるのにわざわざ混乱させるような使い方をしなくてもいいんじゃない?ということでそれほど主流になっているようには感じません。
また(5-3)に関しては、言語化されていない頭の中の暗黙知に関する定義・解釈としてそういうものが存在するのかしないのか(「本当に頭の中にないものに対して興味を持つのか、実は本人が意識していないところで頭の中に入っていたのではないか」等)、といった神学論争的なものになりそうな要素があり、私はその分野の学者や専門家ではないのでこれもあまり深入りしません。
結構文章が長くなってきたので、この『(顕在)ニーズ』と『ウォンツ』、そして『潜在ニーズ』と『インサイト』の違いをいくつか例をあげて解説、とか、「どうやってインサイトを見つければいいの?」、という話はまた次回以降にて。
用語に迷うことなく、目指すは消費者に「買いたい!」と思ってもらえるようなインサイトの発見とその展開です。
そのためには実際に自分自身で世の中にあるブランドを対象にし、それにどれだけ新しいインサイトを見つけられるか、という日々の自主訓練も大切となります。冷たい水の中を震えながら登っていきましょう!
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