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NOT A HOTELを卒業し、父と花屋の経営へ。創業期を支えたオーナーリレーション 富吉夏樹の決めた道

2023年10月末。NOT A HOTELへ2021年4月に参画し、セールスや商品設計、さらにはオーナーリレーションチーム(オーナーの方々と関係構築し、NOT A HOTELの体験価値を向上するチーム)の立ち上げなど、チームのみならず会社の成長を支えてきた富吉夏樹が退職します。彼女の実家は目黒川沿いにあるフラワーショップ「FLOWERS NEST」。彼女はこれから、父親と二人三脚で30年以上も続く家業を経営するという道を選択しました。

一部の仕事は業務委託として担当を継続しつつも、入社以降、まさに人生を懸けてコミットしてきた彼女の退職は、私たちにとっても一つの節目になることは間違いありません。富吉が入社して以降、ともに歩んできたCFO 江藤大宗も同席し、彼女がこの決断に至った背景、そして創業期からNOT A HOTEL、そしてオーナーの方々と向き合い続けた彼女が今思うことについて、じっくり聞きました。


「売り方を考えよう」から「売れない理由がない」に変わった2年半

創業以降のNOT A HOTELと富吉の歩み

──富吉さんが入社したのは、2021年の2月ですよね。それから約2年半の月日が流れたわけですが、今の率直な気持ちを聞かせてください。

富吉:この2年半は、本当にあっという間で……。江藤さんとともに、毎日をとても密度濃く過ごさせていただきました。休むことなく走り抜けてきたなという感覚で、365日NOT A HOTELのことを考えていたと思います。

富吉 夏樹:Sales/Relations。慶應義塾大学法学部卒。野村不動産にてオフィスビルや商業施設の開発・リーシングに従事した後、人事業務を担当。21年4月NOT A HOTEL参画。

江藤:富吉のなかでは、どのあたりから退職を考え始めたの?

富吉:自分のなかで、セールスの仕組みづくりをしたあとに、他のチームメンバーの活躍を直近で見るようになったことが大きいですね。ここ半年ほどで入ってきたメンバーが、最初からご契約までお客さまを担当している姿を見るようになって、一息ついたところがありました。

江藤:ネクストジェネレーションが活躍する姿を見て、富吉のなかで経験が一周したって思ったんだ。

富吉:そうですね。あとは実家の花屋の価値を高めたい、何かしら父と一緒に仕事したいと昔から思ってはいました。「父も元気なうちにいつかは…」と考えると、このタイミングはいい機会かなと思い、シフトしたいなと考えるようになりました。

江藤:富吉が入社してから今まで本当にいろんなことがあったよね。せっかくだからひとつずつ振り返っていこうか。まずは2021年の4月に富吉が入社した時は、その年の9月にサービスをローンチするための準備期間。販売サイトのつくり込みや、プロダクトの最後の詰めをしていた段階だったよね。

江藤 大宗:執行役員 CFO。慶應義塾大学卒。JPモルガン証券にて投資銀行業務に従事。M&A、株式引受業務の実務を経て、エグゼクティブ・ディレクターとしてインフラセクター企業を担当。2020年8月NOT A HOTELに参画。

富吉:そうですね。私の前職が大手不動産会社だったこともあり環境の変化が激しく、その頃は情報をキャッチアップして、とにかく周囲に付いていくことで必死でした。9月にサービスをローンチしてからは、ありがたいことにNOT A HOTELのビジョンに共感してくださる方が増え、売れ行きも好調でした。30億円以上の大きな売上があったので、契約書類の整備や引き渡しまでのプロセスの整理など、事務手続きを回すことに精一杯で...当時はトランザクションをミスなく円滑に進めることに重きを置いていましたね。

江藤:その頃の富吉は、セールスやオーナーリレーションというよりは、「リレーション事務」みたいなことをひたすらやってくれていたよね。そして、そのあとに富吉にとって真の意味での頑張りの時期が来る。2022年5月、初期の販売が落ち着いた頃に、セールスチームのマネージャーのような役割を担ってくれた。いわゆる「販売の仕方」をより深く考え始めたよね。

富吉:そうですね。

江藤:NOT A HOTEL AOSHIMA(青島)・そしてNASU(那須)が初速ですごく売れたあと、7月にFUKUOKA(福岡)の販売も開始した。でも、「買うのは実物ができあがってからでいいかな」といったお客さまもいて、コンセプトやCGパースのインパクト以外の琴線に触れられるものが提供できていなかった。つまりまだサービスに対して、自分たちでも言語化が完全にはできていなかった時期だったのかもしれないね。個人の紹介など、つながりで販売している間は良かったけど、今以上に大きな目標を達成するためには、「どう伝えるか」「どう売るか」が不足していた。そこの仕組みづくりで、ずいぶんもがいた記憶がある。

富吉:もう本当に、いろいろと試した期間でしたよね。オンライン説明会に加えて、現地見学会をやってみて、そこに社内の建築や運営チームも巻き込み、全リソースをフル活用しました。今でもオンライン説明会をやっているんですけど、最初の頃は参加者が3名程度で……まずは来てくださった方々に丁寧に応えていくことを積み重ねていました。あとは販売サイトを大胆にアップデートし、CGパースをもっと増やしてみたり。

また、先述した「売り方の工夫」だけではなく、AOSHIMAとNASUに次ぐプレイスであるFUKUOKAの商品設計も最初から担当させてもらってました。AOSHIMAやNASUを販売しながら得たインサイトを、販売前のFUKUOKAにフィードバックし、商品そのものをアップデートするような動きをしていましたね。いよいよ今年の11月に開業を控え、オーナーさんにも滞在をお届けできることが今から楽しみです。

今回の取材は、富吉の実家であるフラワーショップ「FLOWERS NEST」で行った

江藤:そうそう。あと富吉とは、NOT A HOTELの次の案件を一緒に検討するところもやってるんだよね。例えばニセコに土地を見に行き、「NEXT NOT A HOTEL」の絵をとにかく広げ、相互利用できる先の拡張性を考えてみたり。だから、今振り返ると事業開発っぽいファンクションも一緒に担っていたよね。

富吉:最初は組織に「セールス」という言葉が明確になく、ビジネスチームとしてすべて担当してました。用地の選定基準やホテル稼働とオーナー利用のバランスなど、裏側の仕組みを理解することで、セールスの場面でもより厚みを持った話ができたように思います。

──何がきっかけで、販売の「もがき」を克服したのでしょうか。

富吉:やっぱり2022年の11月、AOSHIMAが開業したことかなと思います。自分自身も本当の意味でNOT A HOTELの価値が腑に落ちたというか。コンセプトやCGパースだけでは伝わらなかったものをひしひしと体感したんですよね。実際に竣工した建物を見たとき、スケールが異次元の建築と、人工物が一切目に入らないロケーションとがあいまったときの開放的なあの感じ……一般的なデベロッパーだと絶対にできない。そこが自信を持って差別化できるポイントで、お客さまにも「この商品は間違いない」と自信を持って伝えられるなと改めて思いました。

江藤:それまで「売り方を考えよう」と言っていたのが、「売れない理由がない」に変わったんだよね。

富吉:そうですね。胸を張っていいんだと、良い意味で強気になれた気がします。

江藤:富吉の表情や話し方が、それまでと全然違うものに変わったよね。今でも鮮明に覚えてる。やっぱり確信を持つと話し方にも熱がこもるし、何より説得力が増した気がしたよ。2023年4月にはセールスのほかに「オーナーリレーションズチーム」が発足して、富吉がそこの責任者になり、今ではNOT A HOTELのオーナーの方々との関係性づくりがメインの仕事になっている。NOT A HOTELとお客さまの関係をより深く、より長期的に考えられるようなポジションが担えているのは、これまでの経験があるからこそだよね。

NOT A HOTELは仕事を超えて、生き方や振る舞いまで変えてくれた場所(富吉)

──セールス、そしてオーナーリレーションとしてずっとお客さまに向き合い続けてきた富吉さんですが、その経験から何を得られたと感じていますか。

富吉:まず最初にお伝えしたいのですが、私はオーナーの方々(ここで名前を挙げたいくらいですが)お一人おひとりに対して本当に感謝の気持ちしかありません。これだけ会社と同じ方向を向いてくださるお客さまは他にはいないんじゃないかなと思うくらい、オーナーさん自身がNOT A HOTELを「自分ごと」として捉えてくださって。我々セールスチームの味方になってくださっていることを感じ、すごく力になりました。

江藤:オーナーリレーションズチームの責任者になってから、オーナーの方々との付き合い方がより密度が高いものになっていたんじゃない?

富吉:そうですね。仕事やサービスに直接関係あることだけではなく、生き方や振る舞いまで教えていただいていると感じます。

江藤:富吉は前のインタビューで、「なくてもいいけど、あるともっと豊かになるもの」について語っていたけど、まさにオーナーさんがそれぞれ持っている「必要ないけれど、あったらいい」という哲学が、他のオーナーさんや富吉自身にとっての哲学にもつながっていって。バウムクーヘンみたいに、同心円状にどんどん広がり、厚みが出ていくんだろうね。そういえば、ワインの資格まで取ってたよね?

富吉:そうなんです。とあるオーナーさんと会話したことがきっかけで、ワインエキスパートの資格を取りました。仕事を終えて、寝るまでの時間にワインの勉強や飲み比べをして、そのまま寝落ちしたこともありましたね(笑)。他にも、オーナーさんから教えてもらったホテルやレストランに行ってみたりして、どんどん吸収していこうと思うようになっていきました。オーナーさんに寄り添いたい、会話についていけるようになりたいという気持ちが、もともとあった私の好奇心に火をつけ、人生をより豊かにしてくれたように思います。

江藤:最初の頃、富吉が「なんでオーナーさんに自分の言葉が響かないのか?」と聞いてきたことがあって、その時に僕は「オーナーさんが興味を持つような知識や経験を、富吉自身がしていないからじゃない?」と答えてたんだよね。

富吉:めちゃくちゃ覚えています(笑)。悔しかったけど、図星かなと。

江藤:でも、今ではそんなことはまったく思わない。富吉は素直だから全部体験しにいくし、どんどん吸収する。今は無双状態だと思う。オーナーさんはきっと富吉と話すことを今、とても楽しんでくださっていると思うよ。

富吉:そうであれば、うれしいです。江藤さんはこの2年半、ずっと変わらずにフラットな意見を言ってくださったので、江藤さんに肯定されると、本当に大丈夫、自信持っていいんだなと思えます(笑)。

『父とともに経営したい』という富吉のライフプランを応援したかった(江藤)

──冒頭で「お父さまと一緒に仕事したいと昔から思っていた」という話がありましたが、もう少し詳しく教えていただけますか。

富吉:なんとなくですが、ずっと実家の花屋をいつかは父と一緒に経営したいと思っていたんです。幼い頃から自慢の父で、世界一尊敬をしている人であり経営者なので。自分で事業をゼロからはじめて、30年以上も続けているのが本当にすごいなと思っています。

江藤:NOT A HOTELに入ってから、お父さんと話す会話の内容も変わってきたと思う?

富吉:以前より、経営的な話やそもそもの想いの部分(なぜ花屋をはじめたのか)を聞く機会が増えていますね。尊敬の気持ちは持ちながらも、「もっとこうした方がいいんじゃないか」と提案するようになったり。まだまだビジネスとして改善の余地があると思えるようになりました。

江藤:自分が事業をつくるところに携わったことで、しっかりお父さんと横に並んで会話できるようになったんだ。

──江藤さんは、最初に富吉さんから退職の相談をされたとき、どんな反応を?

江藤:「おつかれ!」(笑)。

富吉:(笑)。

江藤:というのも、採用面接の時に聞いた富吉のライフプランが、僕自身のものと似ているところがあったんだよね。以前、noteでも話たんだけど僕も40歳で起業したいと考えて、結果的に40歳手前でNOT A HOTELに参画したから、「ここぞ!」という気持ちの変化があった時に動くことに対しては、とても共感するところがあった。

ただ、実家のお花屋に関して100%経営の主体になるなら完全に退職して集中した方がいいけれど、まだお父さんが経営の主で富吉がサポート的な立ち位置で、さらにNOT A HOTELでやりたいことがあるなら、一部は業務を残して並走期間があってもいいんじゃない? とは伝えたと思う。

これからはお父さまとの二人三脚で花屋の経営にチャレンジしていく

富吉:最初は両方に迷惑をかけてはいけない、中途半端になっちゃいけないという気持ちがあったので「完全退職」の方向で考えていました。でも、結果的にやっぱりNOT A HOTELでまだやりたいこともあり、今の段階ではシナジーが生めると思ったので、業務委託として一部の業務を継続して担う決断に至っています。

江藤:これからは富吉にとって、NOT A HOTELの2年半で得たものを一度、実家の花屋さんのビジネスに移し替えてみるフェーズなんだろうね。1回照らし合わせてみる作業をやると、富吉流のアップデートの仕方、展開の仕方が出るんだろうなと思ってる。それは僕自身が今一番楽しみにもしてるし、富吉が担当しているオーナーさんも多分楽しみにしてくれるんじゃないかなと思うよ。

半分外・半分中の立場だからこそ持てる視点でアウトプットする

──これからNOT A HOTELへの関わりを変える富吉さんについて、江藤さんはどんな期待を持っていますか。

江藤:このフェーズからは、富吉には業務委託になってもらった方が、より彼女の良さが出るだろうなと思っていて。NOT A HOTELのセールスやオーナーリレーションは、商品がすごく複雑なので、外部の方が担当するのは不可能に近い。運営・建築・テクノロジー・ビジネスモデルなど、すべてを全部一周理解した人じゃないとなかなか伝えられない。でも、富吉は創業初期からいたのでこの経験を一周してくれている。

だからこそ、これからは実家のお花屋の仕事も含め、外での違うインプットを得て、お客さまやオーナーの方々と接することができるんだよね。社外での人生が肉付けされた状態で接してもらうと、もっと楽しい会話ができたり、プラスアルファのものを与えられるようになるんじゃないかなって。

富吉:たしかにそう思います。これから実家の経営に携わることで、視野も広がるかもしれないし、もっと時間を取って、アートやホテル、レストランなど、いろんな経験に触れる機会を増やしたいと思っていて。そういうものをNOT A HOTELに持ち帰り、オーナーさんとはまた違う形で会話させていただきたいです。

サプライズで江藤から富吉さんへ花束(お父さまがアレンジ)を贈るシーンも

──とはいえ江藤さんも、寂しいところもあったり?

江藤:いや、それが、ないんだよね。1ヶ月でも1年でも10年でも、一時期を真剣に目標へ向かい、一緒の時間を過ごした仲間たちは、またいつか違うところで巡り合うと思っているから。退職したからといって、人間と人間としての付き合いが変わるわけでも、さよならなわけでもない。オーナーさんたちとの付き合いも、そこは変わらないと思ってる。だから「退職」というより「卒業」みたいな感覚に近いんだよね。またふらっと遊びに来てもいいし、もう一度関わってもらうのも構わない。もちろん富吉にとっては大きな決断だけど、そのくらい強い関係性だと思っているからかもしれないね。

富吉:ありがとうございます。おそらく社内でもっともオーナーさんと多くの時間を過ごしてきましたし、“NOT A HOTELオーナー”への愛は創業メンバーにも負けないくらい持っている自信があります。11月以降もその責任や信念だけは変えず、NOT A HOTELへ貢献できるように頑張ります。もちろん家業にいたっても、同じようにファンをつくれるよう父と歩んでいけたらと思っています。

江藤:これからが楽しみだね。今日この場所で話ができて本当によかった。引き続き、よろしくお願いします。

採用情報


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STAFF
TEXT:Yuka Akashi
EDIT/PHOTO:Ryo Saimaru

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