間一髪で落雷を回避した話【衝撃のラスト】【実話】
もう11月なのにその日の大阪の最高気温は26℃だった。
夕立にも降られ、蒸し蒸しとした空気はまさに夏日に相応しい。
東京出張を終え家に着くと、暑苦しいジャケットを脱ぎ捨てすぐに風呂に入る。
この時期の風呂は極楽だと相場は決まっているのだが、今日の風呂上がりは尚更に暑く地獄であった。
先週せっかく衣替えしたのに、タンスにしまった半袖のパジャマをまた引っ張り出す羽目になった。
そうこうしてるともう12時だ。
明日の仕事に備え、早く寝ようと電気を消して床に就く。
僕は朝日を浴びて自然と目覚めたい派なので、カーテンを開けて眠る体勢に入る。
すると、ピカッという閃光が部屋を照らし、直後にゴロゴロと雷が鳴った。
かなり近い。
外はまた天気が崩れてきたらしい。
明日の朝の天気が気になり、スマホを開いてウェザーニュースを見る。
朝5時には雨は上がる予報だが、ウェザーニュースの予報は信用できない。明日は雨のなか通勤することも覚悟しておこう。
信用できないならなぜ天気予報を見るのかという禅問答を繰り返しながら、再び眠りにつこうとする。
ドーーーン!!!
耳が破裂しそうな程の爆音がした。
あまりの音の大きさに咄嗟に身をかがめる。
と同時に、なぜか急に学生時代のあの日のことが頭に蘇った。
苦しくも満ち足りていた学生時代。そんな日々が一変したあの日。
どうして急に思い出したのだろう。そして、どうして今まで忘れていたのだろう。
201X年
その日、僕は部室に篭り3日後に控えたイベントの準備にあたっていた。
時間は夜の10時。
「この後雨が降るから」と言って、作業する僕を見捨てて同期は先に帰ってしまったので、部室には僕一人である。
ただのサークルの活動だというのに、なぜこんな時間まで活動しているのかというと、僕はそのサークルの幹部をしていたというのと、イベントの直前だったとのが要因だ。
今回のイベントは大学生だけでなく地域の子どもたちも呼ぶ、3000名規模のイベントになる。
そんな大きなイベントともなると準備段階でやるべきことは山ほどあり、イベント直前になると諸々の見積もりの甘さの皺寄せで、眠れない日々を送ることになる。
おまけに僕は幹部として団体の運営もしていた。
どちらかだけでも忙しいのに、両方していたのだ。
とはいえ、確かにやるべきことは多かったが、そんな時間まで残らないといけないのは自分段取りの悪さのせいだし、別に帰って家でやればいい。
僕は遅くまで残ることで「こんなに頑張っているんだぞ」というアピールがしたかったのだと思う。
今となっては恥ずかしい限りである。
◆
11時を回った。
みんなで手分けして作業をする予定だったのだが、みんな他のことに一杯一杯で、何か頼めるような状況ではなかった。
そんな時に「僕が代わりにやるよ」と言ってしまうのが僕のいいところでもあり悪いところでもある。
そうして同期や後輩の仕事も巻き取った結果、今に至るのである。
それでもやらなければならないことはあらかた終わった。
自分で自分の首を締め、でも結局誰にも迷惑を掛けずにこなしてしまうのが僕の悪いところでもありいいところでもある。
だからいつもこんな時間まで作業をしてしまうのだ。
外は30分ほど前から土砂降りのようだ。
天気予報によると、あと1時間は大雨が続くとのこと。
あと1時間くらいであれば、YouTubeでも見ながらいくらでも時間を潰せる。
でもその前に腹ごしらえだ。
そういえば昼から何も食べていない。
部室棟の外に出て、10段ほどの階段を下るとすぐにベンチと自販機コーナーがあり、そこにはカップヌードルの自販機も置かれている。
僕らのようなサ畜や弁護士を目指し夜な夜な勉強している法曹の人たちにとっては格好の夜食だ。
多少濡れることも覚悟し、部室を出ようとしたその時、先に帰った同期から「すごい雨だけど大丈夫?」とLINEが来た。
タスクを任せておいて先に帰ったことに少し罪悪感を感じていたのだろうか。
多少悩んだ末、「やること終わったのに帰れない(泣)」と返し、別にお前のせいでまだ残ってるんじゃないよということはさりげなく伝える。
そして今度こそカップヌードルを買いに行こうとドアに手を掛けたその時。
ドーーーーーン!!!!
馬鹿みたいに大きな音がした。
状況が全く把握できず、頭が真っ白になる。
数秒経って、雷が落ちたんだとようやく理解した。
これだけの音なので、相当近い。
好奇心を抑えられない僕は、危ないとは知りつつ状況を確認しにすぐに外に出た。火事とかなってたらそれこそ危ないしね。
外に出ると答えはすぐに分かった。
部室棟の出入り口のすぐ横に生えている杉の大木。
これに雷が落ちていた。
根元までばっさりと裂かれていて、その切れ端が自販機コーナーに続く階段に無残に横たわっている。
なんちゅうこっちゃ。。。
あいつからのLINEが来てなければ、僕は30秒早く外に出ていただろう。
そうしたら、雷に打たれていたのは僕だったかもしれない。
直撃は免れても側撃雷によって重傷を負っていただろうし、飛び散った木の破片でも怪我をしたかもしれない。
僕は間一髪で死を回避したのだ。
そう自覚した途端、恐怖が込み上げてきた。
すぐに部室に戻る。
帰ろうとして外に出たタイミングで雷がまた落ちてきたらどうしよう。
そんな不安が頭を支配し、帰ろうにも帰れない。
1人が心細すぎて、「こわいよー」と同期にLINEを送った。
すると、雷を怖がる様子が僕のキャラからすると意外だったようだ。
そのLINEがTwitterで拡散され、かわいいと少し話題になったのはその数十分後である。
また、怖さを紛らわすためにとにかく誰かに共有したかったので、写真を撮り自分でもTwitterに上げる。
嬉しいことに、すぐに4人ほどから返信が来て少し恐怖も和らいだ。
そしてそのツイートは14リツイート105いいねと、僕のツイート史上最高バズを記録し、承認欲求が満たされた僕は嬉しくなってルンルンで家に帰ったのであった。
めでたしめでたし。
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