『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』 田嶋陽子 フェミニズムの枠組みで映画を見たときに見えてくるもの
TVの討論番組でおなじみの田嶋陽子さん。
フェミニズムの第一人者としてちょっとおっかないイメージ(スイマセン)の田嶋先生が映画に描かれた女性像を解説した本書。
映画を見ていない人にも読めるようにー、と書かれていますが 、これを読んだら俄然映画見たくなる、そして女性観や女性性についてちゃんと考えたくなる1冊です。
『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』の内容紹介
掲載映画『赤い靴』(1948年)を見てみた
この本を読んでさっそく「第一章 愛か仕事か、二者択一を迫る男たち」で取り上げられている映画『赤い靴』を見てみました。1948年の古い作品で、そこに描かれているのは、バレエ舞台「赤い靴」で成功を収めたヒロインが恋かキャリアかの葛藤の末ー、という悲劇。
才能を認めつつもバレエの世界に縛り付ける舞台監督と、ヒロインと恋に落ちキャリアを捨てさせる脚本家。この2人の男の間で心が揺れ動くヒロイン。
けっこう自信家で奔放な一面もあるので一方的に虐げられている感じがしないのですが、そこを田嶋先生はフェミニズムの視点で批評。自由でいるようで、結局は男社会の都合に絡めとられているだけだと。ベースとなるグリム童話の「赤い靴」の教会、宗教的価値観が男性に置き換わったと見ているのです。
なるほど。ヒロインはこの境遇の中でどちらも選べなかった、いや、どちらかを選んだとしても自由にはなれなかったのか。
フェミニズムの枠組みで映画を見たときに見えてくるもの
田嶋先生のイメージから「女性をこんな風に描いて、これだから男性監督はけしからん!」的な内容かと思いきや(スイマセン)、そんな低レベルのものではなく、フェミニズムの枠組みで映画を見たときに見えてくるものを提示した学びの多いものでした。
女の重い愛が怖いと思った『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1986年)も、良さも見どころもさっぱりわからなかった『存在の耐えられない軽さ』(1988年)も「そういう見方もあるのか」と驚きました。ぜひ見直さなければ、と思います。
さらに母娘の関係、「父の娘」という概念、女性自身のセクシュアリティについてなどにも言及し、フェミニズムが昨今SNSを騒がせる「男性嫌悪」や「男性排除」ではないことを明確に示しています。
新しい映画の短評と宿題
前述のとおり、この本は1991年に書かれたもので、取り上げられている映画も1980年代以前の古いものばかりです。新版として復刊した本書には巻末に新しい映画(『レディ・バード』『ノマドランド』『ロスト・ドーター』ほか) の短評も掲載されています。
が、短評すぎるのが残念。本書のボリュームで田嶋先生の批評を読みたいところですが、「では、これらの映画をフェミニズムの枠組みでどう見ますか?何が見えてきますか? 」 という宿題として自分で考えてみたいと思います。
『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』 映画好きな人も、そうでない人にもおすすめの1冊です。
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