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【ブックリスト】「動物園のこれまでとこれから」の論点を押さえたい人に贈る4冊

0.動物園史はいいぞ


  「動物園史」と聞いて、ほとんどの人は「なんじゃそりゃ」と戸惑うだろう。動物園は、「今、ここ」に生きているいのちたちに会える場。過去ではなく現在に関心が集まる場だ。しかし、動物園にも歴史はある。

   いま、動物園は過渡期にある、と言われる。ポジティブな意味でも、ネガティブな意味でも。  

   かつての動物園に比べ現在の動物園は何が変わったのか、そしてこれからどう変わっていくのか。

   動物園の歴史を紐解いていくことで、「動物園はどんな意味がある場所?」という問いに立ち向かう手がかりをつかめるはずだ。

    前置きはここまでにしよう。「動物を見る/魅せる場」について、文献を辿りながら考えていきたい。


1.小菅正夫/岩野俊郎/島泰三(編)『戦う動物園』(中公新書,2006)

    


     平成時代初頭。レジャーの多様化や施設の陳腐化で苦境に陥っていた動物園。そんな構図を変えた旭山動物園のブームは大事件だった。

   コンパクトな新書の行間から熱気が迸る。旭山動物園が人々に与えた大きなインパクトが伝わってくる。と、同時に、変化を遂げることが出来た場所には確かな哲学とストーリーが息づいているということにも気付かされる。

     旭山を全国区に育て上げた小菅正夫・旭川市旭山動物園元園長(現・札幌市環境局参与)。彼のライバルかつ親友で、一度廃園した動物園を復活させた岩野俊郎・北九州市到津の森公園園長。大切な場所を守り抜いたふたりの懊悩に触れながら、「動物園人」がいま直面している困難な現実が見えてくる。


2.木下直之『動物園巡礼』(東京大学出版会,2018)

     


 動物園の持つ「歴史と物語」の力に目を向けたところで、次に手に取って頂きたいのが『動物園巡礼』だ。筆者は美術史家。動物園の中の人ではない。

     園内のどこか奇妙な風景やモニュメントから、「普通の市民にとっての動物や動物園」を巡る考察が始まる。日本全国の動物園、時には閉園した動物園跡地を歩きながら、筆者の連想は縦横無尽に広がる。

   日本動物園水族館協会のwebサイトを開けば、全国の動物園の名前がずらりと並ぶ。しかし、そこに掲載されない「動物を見る/魅せる施設」も日本中に数え切れないくらい存在している。

   日本人にとっての「動物園」の曖昧さ、とらえどころのなさを語る上で、避けては通れない一冊だ。


3.宮嶋康彦『だからカバの話』 (朝日文庫,1999)



   前掲の2冊は動物園という「場」に着目したノンフィクションだった。動物園の主役、動物「種」にスポットライトを当てて全国の動物園を論じたのが本書だ。1980年代から1990年代後半の国内の動物園の雰囲気が感じとれる。巻頭の「国内動物園全カバ系図」が壮観だ。

  「カバ」に強い関心と愛情を覚えながら全国の動物園を巡る筆者。ルポルタージュ作家の嗅覚から、動物園の深い翳の部分にも鋭くメスを入れていく。

    当初『檻の方舟』のタイトルで連載された「朝日ジャーナル」誌版には、問題提起の切り口が鋭すぎたためか書籍版には収録されていない重たいエピソードもいくつか存在する。「動物園が好き」な人にとっては踏み絵のような1冊かも知れない。

    それでも、この本が提起した問いに触れることで、動物園という場の奥行きがずっと広く感じられるはずだ。


4.川端裕人/本田公夫『動物園から未来を変える』(亜紀書房,2019)



  動物園は仄暗い側面も持つ。それは確かに一面だ。では、これから時代の渦に飲まれて消えてしまう場所なのか。「そうではない」可能性を、アメリカ・ブロンクス動物園の日本人デザイナーと、作家のふたりが模索していく。

   「海外の動物園は素晴らしい!それに比べて日本は……」そんな言説がweb上を漂っている。しかし、そもそも欧米の園と日本の園は成り立ちが異なる。海の向こうで光り輝いているように見える園も、固有の課題を抱えている。

   「どちらが上」という不毛な論争ではなく、「未来に向けて持続可能な社会に貢献する」という新しい動物園の役割に思いを巡らせ、スタッフと来園者の垣根を越えてひとりひとりが参与していくためのヒントが、この1冊に詰まっている。


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