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【怪談屋07】焼け跡

※音声配信など、朗読に限り使用自由です。

魂は上りて神となり、魄は下りて鬼となる。
そして、百の物語が紡がれし夜、何かが起こる。
私の体験を記したものや、知り合いになった人から聞いたこと、あるいは創作など。

Yさんは小さい頃、よく川遊びをしていた。
青森の実家の近くには渓流があって、上流の区画はイワナが釣れるスポットとして有名だった。いつも数人の仲間と連れだって、泳いだり、魚を探したり、ごくたまに化石を拾ったりする。
そうやって遊んで、帰る頃になると、必ず見掛ける光景があったのを覚えている。

坂を登って土手道へ上がると、川の反対側の田んぼをいくつか挟んだ向こう側に廃屋が見えた。何年か前に、火事で焼けた家だと聞いていた。確かに、二階建てと思しき一軒家の、黒い炭のように爛れた骨組みと、僅かに残ったすすだらけの、木材の壁だけが佇んでいた。
絶えず流れる川と対照的に、その焼け跡は崩れ去る直前を切り取った絵のように静かで、幼いYさんにはひどく不気味に見えた。

川遊びの帰りになると、その焼け跡の脇に必ず、ただ、ほうと立っている人の後ろ姿があった。あまりひとけのある場所ではない。その焼け跡の他に、家と呼べる建物もない。……にもかかわらず、その人は廃屋をじっと見つめるようにして立っていた。
それは女性に見えた。
長い髪で、白いブラウスとスカート、ひょっとしたらワンピース姿だったかもしれない。とにかく、何の変哲もない服だったから、いつも同じ服を着ているように見えて、余計に気味が悪かった。
炎天下の日も、小雨の降る日も、同じような格好で、焼け跡と合わせて置いたように動かない。
「帰るタイミングに、必ずそこに立っているんです。それも、毎回、同じ場所に」
Yさんは視界の端に捉えたその白い人影のことを、友人にも言い出せなかったという。それで結局、見えない振りをしてやり過ごしていた。

「何かのきっかけでそれがこっちに振り向くんじゃないかと思うと、怖くって」
Yさんは、そう語った。

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